AチームとBチーム
H.O.L.M.E.S.がすずめさんの現在地点を割り出した。C9地点から動いていないらしい。飯田さんたちはそこに向かった。
一方、僕たち。
諏訪井さん、という「ノラ」の一員の方がワープを繰り返していた。僕は飯田さんの声を思い出す。
*
「僕が囮になる。僕というアカウントを、すず姉さんは消しに来る」
飯田さんが続けた。
「いいか。作戦はこうだ。まず、Aチーム。すず姉さんと接触。戦闘。目的は寄生種の核の破壊。物書きボーイが作った図書館のテキストファイルを持って戦闘に臨む。物書きボーイのテキストファイルは、見た感じ物書きボーイから離れた地点でも使うことができる……そうじゃなきゃ、こんなでっかい秘密基地作れないからな……。つまり、Aチームは物書きボーイの描写した図書館のテキストファイルを、まず、すず姉さんの目の前で展開する。そしてその中に逃げ込む。メンバーは……三人。あんまり多くで行っても統率がとれないからな」
飯田さんは続けた。
「僕が行くとなれば、まぁ、相棒は日諸さんだな。後は、誰がいいかな……」
「はい!」
元気よく手を挙げたのはまちゃかりさんだった。
「僕、行くよ!」
「君さっきの戦闘で盾壊れかけたろ?」
「物書きくんに作ってもらえばいい。うんと頑丈なやつ!」
なるほどな。飯田さんが僕を見てきた。
しかし飯田さんはまちゃかりさんの方に目をやって続ける。
「でも君、移植組だったよな?」
「移植組?」僕は首を傾げる。すると香澄るかさんが解説してくれた。
「元々、小説家になろうとか、アルファポリスとかで活動していた作家さんが、『カクヨム』に進出してきたパターンのことを指すの。既存の読者さんが『カクヨム』に流れてきてくれればすぐに評価を得て一定の強さが手に入る反面……」
「なろうやアルファポリスで好かれる小説の傾向と、『カクヨム』で好かれる小説の傾向とは明らかに違う。作品によっては新規読者を得にくい」
分かっていると思うが……と飯田さんは続ける。
「作家の能力はPVや『☆』の数に影響される。新規読者を得にくいってことはまずPVが伸びないし、『☆』ももらいにくい。『カクヨム』で好かれる作品を書ける奴は放っておいても読者がつくから勝手に成長するが、移植組は何らかの努力をしないと成長の可能性が低いってことだ」
「僕、それなりに読まれてるよ!」まちゃかりさんが強がる。「きっと役に立つ!」
飯田さんが肩をすくめる。
「やる気を買おう。僕と、日諸さんと、まちゃかり。これをAチームとする」
「飯田さんは戦闘しない方がいいんじゃないですか?」
僕の言葉に飯田さんは首を横に振った。
「すず姉の攻撃パターンを目視で確認していたんじゃ間に合わない。H.O.L.M.E.S.に先読みさせる。安心しろ。自分の身くらい自分で守れる」
Bチーム。飯田さんは続ける。
「『寄生種放出エディター』を探知して叩く。目的は寄生種『エディター』の大本を断つこと。これがうまくいけばAチームの戦闘前にすず姉を解放できるかもしれない。だがハッキリ言って、この『寄生種放出エディター』はどんな敵か分からん。Aチームがスリーマンセル(三人一組)だからBチームもスリーマンセルと行きたいところだが……バックアップを用意したい。ヒサ姉!」
「ん?」プリンを食べながら笛吹さんが反応する。
「お疲れのところ悪いんだがBチームのバックアップを頼みたい」
「いいよー」
「バックアップだから、先頭に立たなくてもいい」
「分かったー」
「他三名。決めるのだが……」
と、飯田さんは僕の方を見てきた。
「どんな敵か分からんから、汎用性の高い能力を持っているアカウントが望ましい。例えば、任意のものを召喚できる、物書きボーイみたいな奴がな」
「ぼ、僕いきなり戦闘ですか……」
「怖いか?」
分かってる。これは飯田さんの挑発。でも、乗る。
「怖くないです」
「一人決定」
飯田さんは歩く。
「そうだな……。『やり直し』『蘇生』ができる作家も、能力としてはありがたい。移植組だが……諏訪井」
諏訪井、と呼ばれたアカウントが顔を上げる。僕は彼の……彼女か? の方を見た。
中性的。薄い胴体に反し肉付きのいい腰回り。男性の上半身に女性の下半身をくっつけたみたいな体だ。外見から判断するだけじゃ男か女か分からない。髪も緑。ショートカット……短髪っていう方が正しいのか? まぁ、「本来アカウントはこれくらい謎めいた方がいいよな」という僕の思いを体現しているようなアカウントだった。
「行けるか?」飯田さんが首を傾げる。
「えー、面倒だけど……」と、諏訪井さんは僕の方を見る。「でも、物書きくんの戦闘は、ちょっと見てみたいかな」
僕はインテリジェンスアシスタントシステムに諏訪井さんの情報を参照させた。
アカウント名、諏訪井加奈。アカウントIDは……。
「伏せてるよ」
諏訪井さんがつぶやく。僕がアカウント情報を参照しているのを感知したのだろう。
「情報は基本伏せている。知られたら困ることもあるからね」
でも作品名くらい教えておこうかな。そう、諏訪井さんは続ける。
「『渋谷スクランブル異能交差点』。タイトルでどんな話か分かっちゃうかなぁ?」
「ネタバレはするなよ」
そう笑いながら、飯田さんが指折り数える。
「物書きボーイ、諏訪井、バックアップにヒサ姉。後一人……やっぱ『蘇生』ができる系統がいいな」
なおかつ攻撃力のある作家。飯田さんはそうつぶやく。
「亜未田さん、1000PV越えだったよな? 主人公格以外の能力も一部使える」
亜未田さん、と呼ばれたアカウントがゆらりと立ち上がった。このアカウントも、性別不詳。
細身。だが折れてしまいそうな感じではない。無駄を削ぎ落した、という感じだ。どこか侍のような雰囲気はあるが、同時に女性的しなやかさも感じられる。本当に、性別不詳。やっぱアカウントっていうのはこうでなくちゃね。
「そこの」亜未田さん、が僕に声をかけてくる。「覚えておけ。こういう者だ」
アカウント情報が展開される。
亜未田久志。アカウントID「@abky-6102」。紹介文は「マイペースで投稿していきたいと思います。ですが唐突に投稿作品を消したりするかもしれません。なるべくやらないようにはしますがご了承ください。」作品名は……『変幻自在のファントムナイフ』。
「初見殺しでよろしく頼む」
飯田さんが笑う。亜未田さんも微笑み返した。
「分かった」
*
Aチーム。飯田さんと、日諸さんと、まちゃかりさん。彼らはH.O.L.M.E.S.が探知したすずめさんのいる場所へ向かう。飯田さんの手には僕が執筆した「図書館」がある。H.O.L.M.E.S.は僕たちBチームのインテリジェンスアシスタントシステムと連携したので、Aチームの居場所は分かる。問題は……。
「私たちは、どこに向かうべきか、って話だよね」
笛吹さんがつぶやく。
「まぁ、便利な道具、あるんだけどさ」
よいしょ。笛吹さんが、ずっと手にしていた……というよりは抱えていた? 小柄なアカウントの彼女のどこにそんな力があるのだろう……妙な機械を示す。
何というか、古い。
歴史の教科書に出てきそうな器具だった。まず、金ぴか。蓋のようなもの。旧型の時計……針で時刻を知らせるやつ……みたいな盤がある。覗き穴のようなタブ。何だろう、これは。
「あっちだねぇ」
笛吹さんが指を差す。その方向に、諏訪井さんが僕たちを連れてワープする。
三人組と、四人組。
それがAチームと、Bチーム。
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