第24話 このラブコメに幕を下ろすために

 俺の言葉を聞いた水瀬さんはー、


 「あ…あわわ…」


 みるみる顔を真っ赤にしてー、


 「は、恥ずかしすぎましゅ…!」


 教室からあっという間に出て行った。いつもの水瀬さんからは考えられないスピードである。

 

 「何ぼーっとしてるんだい!早く追いかけるよ!」

 

 「そうよ矢崎君!男でしょ!」

 

 「分かってる!」


 チラリと見たが、水瀬さんの『リア充ポイント』は『−300』となっていた。ここ最近水瀬さんにとって楽しくない日が続いたせいなのだろう。


 そのため、多少の時間的余裕はあったが、急がなければいずれ爆発してしまう。


 「水瀬さん!」


 教室から出たところ、水瀬さんの背中が離れた場所で小さく見えた。階段を登っていき、どこかへと移動しようとしている。


 その場所は、2つに1つ。


 俺はその内の1つにあたりを付け、彼女を追いかけた。



  ****



 扉を開け、俺はあたりを付けた場所にたどり着いた。


 そこは、学校の屋上。図書室に行く可能性もあったが、どうやら逃げ場がないと思ったらしい。


 「はあ…はあ…」


 水瀬さんは屋上の端に立っていて、息を切らしている。瞳が潤んでいて、今にも涙が流れ出しそうだ。


 でも、口元はきりりと結ばれていて、少しでも弱みを見せまいとしている。


 「ごめん、驚かせた」

 

 「お、驚いてなんかいません。怒ってるだけです…本当ですよ?」


 そんな彼女に、少しずつ歩み寄った。


 「でも決めたんだ。俺は、君に自分の想いを伝えたい」


 「…」


 彼女は、じっとこちらを見つめている。


 「俺はー」




 「水瀬さんが好きだ」


 

  ****

  


 「…いいんですか」


 青い髪を風になびかせながら、少女は迷いの表情を浮かべる。


 「矢崎君とデートしてから、亜里沙はすぐ爆発しちゃうようになっちゃいました」


 「多分、そうなんじゃないかと思ってた」


 「あなたの彼女になっても、彼女らしいことは何一つできないかもしれませんよ」


 「俺がなんとかする」


 「ぽ、ぽんこつなんですよ?"氷のナイフ"なんて見掛け倒しです。迷惑かけちゃうかもしれません…」


 「構わないさ」


 いつの間にか、水瀬さんとの距離はほとんどなくなっていた。少し手を伸ばせば、触れ合える距離。


 「…せっかく、頑張って演技したのに。泣きたい時も我慢したのに、矢崎君はずるいです」


 彼女の体から、力が抜けていく。結んでいた唇も開かれー、




 ついに、涙を流し始めた。


 「亜里沙も…矢崎君のことが好きです。好きだけじゃ足りません。大大大好きです!でも!」


 俺が知っている、等身大の水瀬さんです。


 「亜里沙があなたに近づくと、矢崎君に迷惑をかけてしまいましゅ…!それが、怖いんです!」


 「俺は、怖くないよ」


 「うわああああああっ…」


 しゃくりあげる水瀬さんを、俺は抱きしめた。彼女も、何の遠慮もなくこちらをぎゅっと抱きしめる。

 

 「矢崎君、ごめんなさい…!亜里沙、あなたにひどいことを…!」


 「大丈夫、大丈夫だから。辛かったね」


  そのまま、水瀬さんを抱きしめ続けた。

 


 ****



 「ぐす…また、矢崎君に恥ずかしいところを見られちゃいました。亜里沙、もうお嫁にいけません」


 「誰にも言わないさ。はい、ハンカチ」


 落ち着いた水瀬さんが、ようやく顔を離した。俺から渡されたハンカチで目を拭うと、少し腫れた瞳に光が宿る。


 「ふふふ。隠れて泣くより、矢崎君の前で泣く方がスッキリしました。心が洗われた気分です」


 「…笑顔になってくれてよかった」


 「え?」


 「水瀬さんの笑顔。ここの所ずっと暗い顔をしてたからさ。久々に見れて、ほっとした」


 俺も、正直泣きそうになっている。


 ずっと嫌われたと思っていた。自分のしたことは迷惑だったんじゃないかと罪悪感に囚われていた。


 水瀬さんの涙は、俺の心のもやもやも払ってくれた。


 「矢崎くん…」


 水瀬さんが何かを言いかけた時、はっとした表情を浮かべる。


 「そうだ、『リア充タイマー』は?』


 「−30だ。ずっと見てたよ」


 「そう、ですか。せっかく、仲直りできたのに…」


 何を言いたいかはすぐにわかる。


 また、『リア充タイマー』に怯える日々が続くと思っているのだろう。


 「水瀬さん。実は呪いを解く方法を思いついたんだ」


 「え…ほ、本当ですか?」


 「ああ。確証はないけど、多分これであってる。それはね」


 始めよう。


 「俺と水瀬さんが…」


 このラブコメに幕を下ろすために。



  

 「キスすること!」

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