第12話 デートの始まりだ!

「なるほど、そう言うことね」


 数分後。 


 きょとんとしている明里に事情を説明すると、納得したような表情を浮かべた。もちろん、『リア充タイマー』のことは隠してある。


 ただ色々あってクラスの人と仲良くなり、デートすることになった。


 それだけだ。


 「でも意外だね。お兄ちゃん、もう一生彼女なんて作らない!って言ってたのに」


 「ま、まだ彼女じゃないからな。あくまで仲良くなっただけだ」


 「そう言うのを彼氏彼女の関係って言うんだよ〜?隅に置けないな〜」


 「ぐぬぬ…小悪魔系妹めっ」


 そのまましばらく愉快そうな表情で見つめていたが、ふと寂しそうな表情を浮かべる。


 「でも、これでお兄ちゃんも明里から卒業か…そもそも、明里も誰とも付き合ったことないんだけどな〜」


 「何か言ったか?」


 「ううん、なんにも」


 俺より少し背の小さい明里がぐいっとこちらとの距離を詰め、下から覗き込んだ。


 「…やるからには徹底的にアドバイスするから、覚悟してよね、お兄ちゃん」


 「望むところだ!」


 「じゃ、早速眉毛を整えて行くよ〜ばっさり切るからね」


 「え?眉毛をいきなり?そんなことしたことない…あひゅん!」


 こうして、矢崎家の夜は更けていくのだった。




 これも水瀬さんを助けるため。

 そのために、日曜日だけ俺はリア充となる!



 ****



 「前髪、大丈夫かな…矢崎くんに嫌われないかな…」


 日曜日。 


『家まで迎えにいくよ』と言う矢崎くんからの提案を受け入れ、亜里沙は家の前で待っています。

 この日のために用意した服装や髪型を確認していますが、自信がありません。


 「もし矢崎くんに受け入れられなかったら直さないと。それにしても、太陽が眩しいです…」


 いつもは引きこもりがちなせいか、周囲の光景がいつもより明るく見えます。『休日に外出する』という行為そのものが、亜里沙にとって特別だからかもしれません。


 ーこの前遊んだ?覚えてないなあ。

 ー水瀬さん、今度遊びに行く約束なんてしてないけど…

 ー悪いんだけどさ、君と友達になった覚えなんてないんだよね。


 『リア充タイマー』の呪いで外にあまり出歩かなくなってから、数年以上の時が流れていました。


 (ききき、緊張してきました…何か失敗をしたらどうしましょう。パンケーキはやめて、家で矢崎くんと『少女漫画読みふけりデー』にするべきではないでしょうか…)


 過去の記憶が頭をよぎり、弱音を吐いてしまいます。


 「や、やあ!水瀬さん!お待たせっ!」


 その時、待ち人の声が聞こえてきました。


 「お、おはようございます!提案なんですが、今日は亜里沙の家で…」


 「ん?どうしたんだい?」


 「あわわわわ…」


 その姿を見て、亜里沙は思わずツッコミを入れてしまいます。

 

 「矢崎くん!目が真っ赤です!じゅ、充血してましゅ!」



 ****

 


 「ええ!?」


 俺は慌ててスマホのカメラで自分の顔を確認した。

 確かに、目が真っ赤になってる。


 OH、MY GOD!


 あまり寝付けなかったツケがここにきて現れてしまった。

 何と言う失態…


「だ、大丈夫!これぐらい水で洗って…」


 「じっとしててください」


 慌てて取り繕おうとしたが、水瀬さんが近づいてきたので、言うタイミングを失う。

 花の刺繍が施されたハンカチを取り出した彼女が、俺の目を優しく拭った。


 「目薬も差しますから、待っててくださいね…矢崎くんは亜里沙のヒーローなんですから、何かあったら悲しいです」


 「ごめん。何か、かっこ悪いな。ははは…」


 「どうして目が赤いんですか?どこかで怪我でもしたんですか?」


 「それは、その」


 「?」


 「今日のデートで色々用意しようと準備してたら、時間かかっちゃってさ」


 「準備…」


 水瀬さんは俺の姿をまじまじと見つめる。


 整髪料で整えられた髪。

 明里プロデュースの服をなんとか組み合わせたコーデ。

 

 即席だけど、亜里沙さんの隣にいて恥ずかしくないよう頑張って準備してきた姿だ。


 「そうだったんですね。亜里沙、嬉しいです」


 「亜里沙さんもかわいいよ」


 「…え?」


 「今日の服装、とってもかわいい。いつもは制服ばっかりだから新鮮」


 「あわっ!?いきなりはは、反則です…」


 水瀬さんは赤とピンクの花をあしらった赤いドレスに身を包んでいた。スカートにはフリルをあしらっており、いわゆる『ロリータ・ファッション』というものだろう。


 日本ではなかなか見られない服装だが、頭にカチューシャを身につけたハーフ系美少女の水瀬さんにはとっても似合っていた。


 「あわわ…ほ、本当に可愛いですか?亜里沙、どこかおかしい所はありませんか?」


 「ああ。完璧だよ。世界でいちばん可愛い!」


 「う、嬉しいです。本当に、よかった」


 顔を赤らめながらも花のような笑顔を浮かべる水瀬さんはとても可愛い。


 「でも、矢崎くんもかっこいいですよ?」


 「ほ、本当に?」


 「本当です。亜里沙、嘘はつかない主義なので」


 「水瀬さん…」


 「矢崎くん…」


 すぐ近くでまじまじと見つめ合い、互いに顔を寄せていく。人目をもはばからず俺たちは熱い視線を交わして、そしてー、


 


 『リア充タイマー』が『100』になった。


 「とにかく水瀬さんに喜んでもらえてよかったあああああ!ありがとう明里ぃぃぃぃぃぃ!」


 何はともあれ、俺と水瀬さんは無事合流することができた。




 いよいよ、デートの始まりだ!

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