第11話 俺にデートの仕方を教えてください!

 「ふう…今日だけで色んなことがありすぎ」


 水瀬さんとまた一歩踏み出した日の夜。

 俺は自室で一息つきながら、今日の事を思い返していた。


 学校でLIMEを交わしあったり、図書室で2人きりになったり、壁ドンしたり、途中で桃倉さんに見つかりそうになったり、キスの代わりにポッキーゲームをしたり…


 非リアな身に少々ハードルが高い挑戦ばかり。でも、それを何とか乗り越え、水瀬さんともっと仲良くなった。


 最後には、水瀬さんの安らかな表情を見ることが出来て、幸せだ。


 (このまま行けば、俺が水瀬さんと付き合うなんてことも…いや、さすがに早すぎるか)


 がっつく男は嫌われるのが世界のルールである。


 「とにかくこのまま彼女と『リア充タイマー』の呪いをー」


 「どうしたのお兄ちゃん。独り言なんて」


 「うわっ!?あ、明里!俺の部屋に入るときはノックしなさいと言ってるでしょ!」


 「だってドアが空いてたんだもーん。明里は悪くないもーん」


 中学3年生の俺の妹、矢崎明里は挑発的はぷいと横を向いた。ツインテールの髪がそれに合わせてふぁさりと揺れる。


 昔はお兄ちゃんを慕う純情な妹だったのが、最近何かにつけて俺をからかおうとする小悪魔的キャラだ。

 お兄ちゃん、反抗期は許しませんからね!

 

 「それに、家の中で下着姿はやめなさい!」


 「えー、だって面倒くさいし」


 ピンクのスポーツブラとパンツを恥ずかしげもなく俺に見せながら、明里は挑発的な笑みを見せる。

 

 「…なんなら、ちょっとだけ脱いであげようか?」

  

 「こらっ!」


 「ちぇー。つれないなあ」


 がっかりしながら部屋を去ろうとする明里だったが、去り際にこちらを振り返る。いつもは見せない優しげな表情だ。


 「お兄ちゃん、今日は元気だね」


 「げ、元気?」


 「うん。振られてから元気なかったけど、今日は楽しそう。なんかリア充って感じ」


 「ハハハハハオレハタダノインキャデスヨ?」


 「…ま、最近心配だったかけど、元気になってくれるなら何よりだよ」


 「何か言ったか?」


 「何もいってませーん。ま、とにかくがんばってー」


 とたとたと足音を立てながら明里は去っていく。途中聞こえない部分があったけど、何を言ってたのだろうか。


 「とりあえず、明日に備えて早く寝よ」


 ブルブル。

 ベッドに身を横たえて眠る準備を始めたとき、スマホが振動する音が聞こえた。思わず画面を覗いてみると、とある人物からLIMEが来ている。




 水瀬さんからだった。




 『今日はありがとうございました。さっそくですが日曜日にデートへ行きませんか?』



 ****



 「こ、これでやるしかない…」


 家の2階の自室。

 ママから受け継いだ少女漫画が100冊ほど棚に並んでいます。

 いつもならリラックスして自分の素を出せる空間なのですが、今は胸が高鳴って息が苦しいです。


 「い、行きましゅ!」


 亜里沙は震えながら入力した文章を、なんとか矢崎くんにLIMEしました。すぐに『既読』がついてほっと胸を撫でおろしましたが、すぐに強烈な後悔に襲われます。


 (あわわわわ…今更ですが『さっそくですが日曜日にデートへ行きませんか?』って文章が明らかにおかしいです!失敗した~~~!)


 文面は何度もやり直しましたが、良いものが思い浮かばず、シンプルすぎるものを送ってしまいました。

 恥ずかしさで頭から湯気が出そう…


 「もう一度送り直さなければ…あっ!もう返事が来てる」


 人が驚いているスタンプの後に、矢崎くんから返事が返ってきました。

 

 『急でびっくりしたけど、全然OKだよ!どこが行きたいところある?』


 『すすすすみません!実は駅前にパンケーキのおいしい店ができたのでどうかなと。パンケーキ、好きですか?』


 『実は食べたことがなくて…でも水瀬さんが言うなら絶対に美味しいと思う!俺も行きたい!』


 『あ、ありがとうございます。じゃあ、明日またお伝えします』 

  

 『分かった!こっちも準備しておくね!』


 『はい。『リア充ポイントが増えてしまうので今日はここで』


 OKの文字を示すスタンプと共に、矢崎くんから了承をもらいました。

 ほっと息を吐いて、ベッドに倒れ込みます。


 「き、緊張しました。でも、矢崎くんを頼りっぱなしじゃ、ダメですよね。亜里沙も、矢崎くんをリア充にしてあげたいし…」


 今日矢崎くんに色々助けてもらった時、亜里沙はそう決意していました。

 聞けば、彼も好きだった人に振られて、今まで辛かったそうです。


 どこまでできるか分かりませんが、亜里沙が矢崎くんを癒す力になりたい。


 「服とか、色々と選ばなきゃ…」


 頭と体が火照って、ぼーっとしてきます。頭上を見つめると、『42』の所でタイマーが止まっています。

 

 「神さま、少しだけ、亜里沙に時間をください。大切な人の助けになるための時間を…」


 眠りに誘われながら、子供の頃会ったきりの神に祈りを捧げました。


 

 ****


 「ふう…」


 俺はスマホを閉じ、ベッドから立ち上がる。向かうのは、自分の部屋の向かい側にある部屋だ。


 「明里…」


 「うわっ!?急にどうしたのさお兄ちゃん」


 「俺に…」


 「?」


 初めて、妹に深々と頭を下げた。


 「俺にデートの仕方を教えてください!」

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