二十一度目の正直~彼女いない歴千年って~
大黒天半太
二十一度目の正直者
二十一回目の誕生日が来た。生まれた日が一回目の誕生日だから、私、中丸純輝は今日で二十歳だ。酒もタバコも、今日からオッケー!
そして、そんな現代的な意味以上に、私にとって成人したことには大きな意味があり、偉大な一歩だ。前世、私は成人するまで生きていなかったからだ。
そして奇しくも、高校二年からの我が師匠、霊能者・土門知朱に二十一回目の霊視を受けることになっている。
正直な話、友人達がテレビに出てたよく当たる占い師だが霊能者だかの所に一回一万円の見料払ってまで前世とか運気とか見てもらうのを、理解は全くできなかった。その後にカラオケに行く約束だったからついて行っただけだ。面白半分で行った友人達が、ことごとく個人的な秘密を見破られ、前世からの因縁を含めた手厳しい助言を食らって一喜一憂しながら出て来るのを待っていたら、逆に師匠から声をかけられた。
「君はどこかで本格的な修行をした経験があるか?」と。
修行と言われてその時思い浮かんだのは「そう言えば、かめはめ波は頑張ったけど出なかったなぁ」というどうでもいいことだった。
小遣いに余裕も無かったし、何を言われても見料払ってまで見てもらうような気は無かったから、付き添いだし興味もないので、私にセールストークしても無駄ですよと答えた。無料でいい、こっちが君の霊力に興味があるから見せてほしいだけだと。
友人達から、一万円がただになるんだからどうせなら見てもらえと言われて、最初の霊視を受けることになった。
前世は、二十世紀後半、昭和後期の男子、受験戦争の只中の学習塾に通う中学生だった私は自転車での塾帰りに飲酒運転の乗用車にはねられて死んだらしい。
「おかしい」と師匠が言う。
宗教家・寺や神社の子でもなく、霊能者の家系でもなく、個人的に何かの修行をしているでもなく、前世で特別な事件や因縁か何かがあったわけでもない。むしろ、前世は時代に翻弄されて夭折したかわいそうな少年でしかない。それでは、今の私に備わっている霊格・霊力の説明がつかない、と。
来月、時間が空いたらまた来てほしいと言われた。普通の人であれば、前世を数代遡って、今に繋がる因縁を探り当てるのにそんなに力は使わないが、私の前世を遡るのにはかなりの力が必要で、連続しては難しいという。しかも、その師匠をして、ほとんど手掛かりが得られないということに、強い違和感があると言う。
そうして一ケ月か二ケ月おきに見てもらうようになり、せっかくの霊力だからと修行を勧められ、その気になったらちゃんとした所に紹介状を書くと言われ続けたが、結局師匠に弟子入りをすることになる。
前回までの二十回の霊視で見てもらった前世は、一世代ごとに五十年くらいづつ遡り、二十回で千年、とうとう平安時代中期に突入している。
大正時代では関東大震災で、江戸時代だと天保の飢饉とか明暦の大火とかで死んでいる。戦国時代では戦に巻き込まれた庶民として殺され、応仁の乱でも南北朝時代でも武士の小競り合いに巻き込まれたり、徴用された身分の低い雑兵や荷役として殺されている。
過去二十回の霊視で共通しているのは、全て男子であり、当時の首都か政権に近い場所に住んでおり、年齢が十五にもならない内に災害・飢饉・戦争で死んでしまうか殺されていることだ。師匠と出会った十七歳が既に最長記録だったわけで、もう霊格・霊力を磨く長年の修行の入り込む余地が無い。
私はと言うと、三年の修行ではかめはめ波はやっぱり出なかった。師匠のように自在に見たり祓ったりもまだ難しい。なんとなくそれを感知して、目を凝らし、それがいいものか悪いものかを見分けること くらいだ。
二十一回目の霊視には前回から三ヶ月のインターバルをとった。師匠に万全を期したいと言われると従うほか無い。今回の霊視への入れ込みようは、 一味違っている。
「私の予想に過ぎないが、平安中期の都で、時代が十世紀後半から十世紀末だろう。だったら、居るはずなんだよ」
あぁ、安倍晴明の時代でしたね。師匠も案外そういうの大好きだった。
だが、今回も予想に違わず、貧しそうな平民の母に抱かれてぐったりしている六歳になるかならないかの少年が私の前世のようだ。流行り病のようで、発熱で体力を奪われ憔悴している、身体に力が入らず、呼吸も浅く苦しい。
家の外からの声に、母は私を抱えたまま外へ出る。僧侶とも行者ともつかないまじない師が
母の番が来て盃を受け取り、私にその水を飲ませる。すると急に身体が楽になる。さっきまでの脱力感が嘘のようだ。この治療法で正解なのか?
見回すとほとんどの子どもが回復しているようだ。泣いて感謝する母親達と頷くまじない師。本物の某かの術師なのか、何か怪しさしか感じない。
せっかく治ったのだが、翌年の天然痘の流行であっさり親子ともども死んでしまった。
また、徒労に終わりましたねと言うと、師匠は考え込んでいた。
「いや、これがスタート地点で間違いない」と。
「あの術符には、業を祓う術式が入っていた。子どもだけに飲ませたのは子どもの方が生まれてからの業の蓄積が少ないからだ。数十人か数百人か、子どもを使った大規模な実験的な術か」
私を見て、師匠は意を決した顔で向き直る。
「清浄な霊魂を、呪術的に清浄を保ったまま転生を繰り返させ、より清浄な状態の純度を高めて行く術。千年間の不殺不犯による霊魂の純化だとしたら」
私の霊魂は『彼女いない歴千年』か、真っ先にその感想が浮かぶのも我ながらどうかと思う。
「あのまじない師の正体はわからないが、もし、私の想像通りなら、純輝、君は千年級の霊力兵器の完成形だ」
もう、師匠の言葉が頭に入って来ない。
「そして、日本の首都にもうすぐ、千年級の呪いか妖が現れて、君を必要とするような事態が起こる」
二十一度目の正直~彼女いない歴千年って~ 大黒天半太 @count_otacken
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます