21回目のステージ。

山岡咲美

21回目のステージ。

「これが私たちのラストステージ」


「ああ、これがオレの夢見た……」


「ボク達から感謝を込めてだね☆」



 その日私達は小さなライブハウスで21回目のステージに立った、私達は人生最後の場所をここに選んだのだ。




◇◆◇◆



「本当……」



 彼女達が厳しいレッスンを受けてアイドルデビューした直後の話だった、メンバーの星里ほしざとルミナが秘密の話を教えた、高校のあとレッスンに通うルミナは紺のブレザーを着たまま、残りのメンバー2人とロッカールームで話していた。


「隕石? 何かのじょうだんだろルミナ?」


 イケメンって感じの彼女、日高優子ひだかゆうこはちょい太めの眉をひそめる、黒に青いラインのセーラー服も似合ってるんだかいないんだかって感じだ……。


「………………うん」


「ルミナン、ボクにも説明して~?」


 キャメル色のブレザー真っ赤なリボン、ボクっ娘高屋たかやなづなは軽い口調だがルミナの表情から不安を感じとり聞き返す。


「ママが言ってたの、もうすぐ政府の発表があるって」


 ルミナの両親がは国立天文台に勤めていて、星の観測と研究をしているらしいが、その両親が未知の天体が地球衝突コースにあるっていうのを見つけたらしいのだ。


「オレ知ってるぜ、政府は戦争に備えてて地下に核シェルターとかもってるって? 助かるんじゃね?」


「でも時間とかが無いかも、ボク映画で見たけどそう言うのって数が少なくて抽選になるんだって」


「そうなのかルミナ?」


「抽選にはならないよ……」


「ちっ! 政府の奴ら自分等だけかよ……」


 ルミナの言葉に優子は政府がシェルターを独り占めするんだと思って怒りが込み上げる。


「違うの、核シェルターじゃ無理なの、ぶつかるのブラックホールだから……」


 ルミナは「どうにもならないんだ」と笑った。


「…………」


「…………」


 2人ともルミナの顔を見て言葉を失った。


「ブラックホールが光速の5パーセントのスピードで地球にぶつかるの、真っ暗で速かったからパパもママも見つけるのが遅れたんだって言ってた」


 ………………。


 ………………。


 ………………。


 ルミナの話、沈黙した空気に耐えられず優子が口火を切る。


「まあブラックホールっていうくらいだ、見えんわな」


「そだね、ブラックホールじゃボクの地球お疲れ様って感じだね♪」



 2人の軽口はこの場を少しなごませた。



「あーーーーーー! オレ、ステージどうしよう?」


「え? 何いってるの優子?」


「そうだね、ボクもどうするか考えないとだね」


「なづなもどうして?」


「いやその日、来月の25日だろ?」


「その日はボクらアイドルユニット[スタードライバー]第21回公演だからね☆」


「え? 公演? どういう事? 何いってるの2人とも??」


「だってせっかくオレらデビューしたんだぜ?」


「そうだよ、ボク勿体もったいないと思う絶対!」


「え? 勿体ない精神なの!?」


「そうだろルミナ? 1年かけて準備してデビュー3ヶ月で終了ってオレらセミかって話だ!」


「17年ゼミよりだいぶましだよ、彼等17年幼虫で頑張って普通のセミと同じ数週間の命なんだよ♪」


「なづな、私思うけどセミの例え話普通のセミで良くない? 素数ゼミって」


「オレは最後までステージに立つぜ、兄ちゃんとの夢だからな」


「ボクも! アイドルはボクの絶対正義だからね☆」


 ルミナはもっと暗い話になると思っていた、人間、どうしようも無いと開き直るのかも知れない。



◇◆◇◆



「ブス優にはアイドルなんて無理だよなー」



 小学校の時同級生の男の子達が優子をバカしてそう言った、オレって喋り方がからかう原因らしいが優子は兄の口ぶりを真似していたから止めなかった、兄が大好きだった。


「何言ってんだお前ら? 優子はメチャクチャクチャ可愛いんだぜ、俺ステージで優子見んのが今から楽しみだぜ、可愛すぎてビビんなよ!」



 その時の兄ちゃんはオレのヒーローだった。



***



「兄ちゃんめしここおくぜ」


 鍵のかかった部屋の前に丸イスが置いている、優子は四角いフードトレーに配膳された食事の横に25日、ラストライブのチケットを置いた。



「……オレその日ラストステージだから」



 優子はそう言うのが精一杯だった、兄は高校でいじめにあって以来、部屋から出れなくなっていた……。



◇◆◇◆



「ねーねートーちゃん、ニュース見たか? もうすぐ地球終わるってよ、ボクその日ライブあるから見に来てよ♪」


 なづなは明るくそれでも強く父にそううっえた。


「あーダメだ、トーちゃんその日は雨漏りの修理の仕事が入っちまってるんだ」


 なづなの父は工務店で作業員、いや、職人っといった方がその父には合うだろう仕事をしていた。


「なんだよトーちゃんは地球終わるのにボクのライブほっぽって雨漏りかよ!」



「何言ってんだなづな、最後の日に雨降ったらどーするんだ? その人の家最悪だろーが!」



 なづなは確かにそうだと思った。



 なづなはなんだか納得してしまった。



◇◆◇◆



「パパママ見て! ラストステージの衣装」



 それは真っ白で大きく広がったスカートに沢山の金色の星がちりばめられていた。


「ごめんなルミナ、パパもママも仕事で」


「気にしないでパパ、今日はこのリビングがパパとママだけのラストステージだから」


 ルミナのパパは天文台から着替えを取りに家に帰っていた、何とか無理して作った口実だった、ママは今回の件の責任者として帰る事も来ず天文台にいたが何とか時間を作り、タブレットでこっちを見ていた。



「じゃ、聴いてねルミナの歌……」



 そこには家族3人だけの特別なステージがあった。



◇◆◇◆



「こんなに沢山……」



 ルミナは驚いた、会場には観客がいっぱいに入っていた、デビューしたての彼女達のファンだけでなく、ゲストで来るここの常連アイドルとそのアイドルを目当てファンやここで青春を謳歌おうかした人達も集まっていた。


「オレ思ったんだけど、他に行くとこ無いのかコイツら?」


 優子が涙を拭きながら悪態を付く。


「ボクの魅力の賜物たまものだね☆」


 なづなが自信満々に微笑む。


「止めてよ2人とも、みんないろんな場所からここを選んでくれたんだよ」


 ルミナはパパとママがいなくて寂しくなると思っていた、お客さんなんか来ないかもと思っていた、でも違った。



「人間ってすごい」



 今日地球は最後を向かえるのに全ての事が日常と同じに動いていたのだ、電気も付くし水道も出る、電車が走り街には人が溢れている、今も病院も高齢者施設も機能してる、テレビでは特別番組が流れているがネットでは映画もドラマもアニメも見れるしユーチューバーがバカな動画をアップする事も出来る。



「あっ! ママ!!」



 ニュースにルミナの母が映っていた、ルミナの母は天文学の専門家として、この件の責任者としてブラックホールの情報をニュースキャスターに伝えている、後ろにはちゃっかりルミナ推しのタオルを肩にかけたパパが見切れていた。


「おいニーちゃん、スタードライバーってアイドルの歌やってんのはここか?」


「……え、ええ」


「トーちゃん? トーちゃん仕事どーしたんだよ♪」


「なにいってんだ? 娘のラストステージじゃねーか仕事は速攻片付けて来てやったぜ! おい、そこのニーちゃん、ニーちゃんも早く来いよ、オタクってやつなんだろ、アイドル好きなんだろ! 早く早く!」


 なづなの父がやけに色白な青年を連れてライブハウスに入って来た。



「…………優子、ごめん……来た……」


 久しぶりに外に出たであろう兄はステージを見上げる。


「バカだな兄ちゃん、ごめんなんて言うなよ……」


 優子の可愛いステージ衣装がキラリと輝く。



◇◆◇◆



「これが私たちのラストステージ」


「ああ、これがオレの夢見た……」


「ボク達から感謝を込めてだね☆」



 その日私達は小さなライブハウスで21回目のステージに立った、私達は人生最後の場所をここに選んだのだ。





 ラストステージが始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

21回目のステージ。 山岡咲美 @sakumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ