第32話:遥vs.破壊者
破壊者と呼ばれていたのは普通の少女だった。
僕たちよりも数歳年上なのだろう。
大人の女性らしい格好をしている。
ただ一つ違うところを上げるとするならば、手に持っている大金槌だろう。
それで今もなお地面を叩いて怖そうとしていた。
「そこまでだよ!」
エリシャが破壊者の前に出る。
当然ながら僕たちもその後ろに控えていたが、なぜエリシャ?
おそらく一番関係ないであろう彼女が、前に現れたことで破壊者は首を傾げていた。
「だれ、この子? はっ!? も、もしかして、マスコットキャラだね!? くぅぅ……、ただでさえ人気者のくせに、こんな卑怯な手を……。わ、私がこのダンジョンを破壊し尽くして、真の人気配信者は私だと言うことを教えてあげるよ!」
それを聞いて、ようやく僕はこの子も配信者なのだと言うことを知った。
「本当なの、今の話――」
「えぇ……、そういうことです。ただ、冒険者を敵に回して、ダンジョンマスターを敵に回して、それで人気が取れるはずもないですよね?」
確かにダンジョン配信の視聴者は基本的にダンジョン関係者か、ダンジョンに憧れを持っているものの、自分で入るのは謀られる人。
そんな人たちを敵に回していたら、ろくに視聴者を稼げないであろう事は明白だった。
「そ、それなら今からでも路線を変えた方が――」
「もう私のレベル81なのよ。今更別のスタイルになれるはずないでしょ!?」
「はぁ……、わかりました。私が相手をするので、かかってきて下さい」
「ほ、本当に大丈夫なの、遥? あ、相手の方がレベルもステータスも上なんだよ?」
「大丈夫ですよ。その分、スキルがダンジョン破壊に特化しすぎていて、私の敵ではありませんから……」
「そ、そっか……。遥の魔法で倒せるんだね……」
ようやく遥の自信の理由がわかり、僕はホッとしていた。
しかし、破壊者は大口を開けて笑い出していた。
「はははっ、まさか魔法程度で勝てるとでも思ってるの? 私の金槌は魔法も壊すよ?」
まさかのとんでもない効果を持っているようだった。
安心していた僕の顔は急に不安に襲われる。
「は、遥、やっぱりここは魔物たちに任せて、僕たちは逃げ――」
僕の言葉を待たずして、遥は魔法を唱えるべく、手に持っている本を開いていた。
「だから、私にそんな魔法は効かないって!」
破壊者が遥に向かって金槌を振りかぶる。
「危ないっ!?」
僕も慌てて遥に近寄るが、全然間に合いそうになかった。
このままだとやられる!?
そう思った瞬間に、遥はなぜか本を閉じ、そして――。
「えいっ!」
かわいい声と共に、思いっきり本を破壊者の頭に振り下ろしていた。
「がはっ!」
その一撃で破壊者は倒れていた。
そうだった……、遥は鈍器術のスキルも持っていたんだった……。
そして、辞書なみに分厚い本を思いっきり頭に――。
た、確かにこれは防げないかも……。
Vサインをしている遥を他所に、僕は苦笑いを浮かべていた。
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