第16話:宿屋の店員大募集
僕は何も見ていなかったが配信画面ではとんでもないことになっていた。
しかし、今日は配信中にコメント欄を消していたこともあり、そのことに僕が気づくことはなかった。
:まさかカナタダンジョンに宿屋が!?
:ちょっと待て。 すぐそばで復活できるのか?
:いいことだらけじゃないか
:こうやって冒険者の意見を取り入れてくれるのはいいな
:かなたん可愛いし
:でも、遥ちゃんは末恐ろしいけどな
:ああ見えて A ランク冒険者だもんな
:それより宿と言っても、小さい建物か……。一人しか泊まれなさそうだな
:そんな時こそアレの出番じゃないか?
:スパチャ助かる!
:そうだ、俺たちのスパチャで宿が豪華になるぞ!
:スラ妖精も増えるんじゃないか?
:最高効率のダンジョン誕生だな!
:どんどんレベルを上げたら、ダイヤスラ妖精も倒せるようになるな
:色んなスラ妖精を部屋ごとに配置して欲しい
:全てはスパチャ次第だな
:つまり、能力を上げるための先行投資だな
:金を落とす魔物も欲しいところだな
勢いよく流れるコメント欄。
既に目視だとほとんど確認できないレベルになっていた。
そうなってくると、奏に気づいてもらおうとスパチャを投げ始める人が現れる。
そして、それを皮切りにどんどん様々な色のついたコメントが流れる。
――――――――――――――――――――
面接希望者
¥50,000
夢のかなたん共同生活のためなら痛くもない!
――――――――――――――――――――
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復興支援
¥50,000
この金でもっと大きい建物にしてくれ!
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ダンジョンに宿を求めるのは間違いか?
¥50,000
ふかふかベッドでぐうたらしたい
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かなたんファンクラブ会員2号
¥50,000
一年間借りたらいくらだろう?
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かなたんファンクラブ会員1号
¥50,000
俺ももちろん年間契約するぞ!
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:どうやったら宿屋の店員になれるんだ?
:今すぐ向かえば良いのか?
:よし、ちょっと行ってくる!
:まて、俺が先だ!
:普通に女性限定じゃないのか?
:問題ない!
:↑問題しかないだろ!!
◇◇◇
建物を完成させた僕たちは、一旦マスタールームへと戻ってくる。
「宿の店員さんを募集したけど、どこに申し込んだらいいか言ってなかったよね? 大丈夫かな?」
「大丈夫だと思いますよ? 本当にやりたい人は私みたいに、このダンジョンまでくると思いますので」
遥は顎に指を当てながら言ってくる。
その仕草が見る人によってはドキッとくるかもしれないけど、僕は反応すら見せなかった。
「そっか……。誰か来てくれるといいな……」
「誰も来なかった私がやりましょうか?」
「うーん、それも考えたんだけどね。でも、遥は 僕のそばにいて欲しいかな」
「えっ、それって――」
遥は顔を染め、視線を僕へと向けてくる。
「うん、また危険が迫ったら僕のことを守ってくれるよね?」
「あっ、そ、そういうことですね……。も、もちろんですよ……。 もちろんですけど、その……」
「えっと、他に理由が……?」
「し、 知りません!!」
真っ赤の顔をした遥がそっぽ向いてしまう。
◇◇◇
翌日になり、ようやく僕はスパチャとコメントに気づいていた。
今まででは考えられないほど、大量に送られてきたので、驚いてしまう。
「えっ、うそ……、こんなに投げられてる……」
「みんな宿が欲しかったんですね」
「 こ、これは、本当にちゃんとしたものを作らないといけなくなったね」
僕は不安を感じてしまう。
ただ、コメントを見て思いつきから始めたことなのだけど、それに思いのほか食いつきが良かったことを……。
寝泊まりできたらいいや……としか考えていなかった。
実際の宿となると、どこまでやらないといけないのだろう。
その辺は新しい従業員とも相談しながらやっていくしかないかな?
「従業員の人、くるといいけどな……」
宿の店員といったらやっぱり、かわいらしい女性の人が似合うかな?
……そう考えると遥が一番似合いそうでもあるんだよね。
でも、昨日の冒険者襲来のことを考えると、元Aランク冒険者の彼女は近くにいて欲しい。
それに色々と相談に乗ってくれるもんね。
ただ、誰も来てくれないなら、当面は僕たちが宿の店員として働くしかないかもしれない。
これもダンジョン維持のため……。
ダンジョン強化のため……。
「と、とりあえず、もう少し広めの宿を用意して、あとは必要な小物も買っていくかな?」
今日も宿を整えるためにダンジョンから外へと出る。
スパチャでもらったDPの大半を建物へとつぎ込み、宿はそれなりに立派な二階建ての建物ができあがった。
部屋数は八部屋。
大浴場付き。(しかも温泉だよ!? 僕が入りに行こうかな?)
大食堂と厨房もあり、各部屋にはふかふかのベッドと壁掛けテレビ付き。
「もう、ここがマスタールームでも良いんじゃないかな?」
ふかふかのベッドに飛び込んでしまうのは、もはや人の性だと思っている。
体全身で感じるその柔らかさに抗うことはできず、思わず頬が緩んでしまう。
すると、そんなときに小さな少女と目が合う。
子供らしい行動をしているところをバッチリ見られてしまい、僕は恥ずかしくなり、大慌てでベッドから飛び上がる。
「えっと、君は?」
顔を真っ赤にしながら突然現れた少女に尋ねる。
少女はまるで小学生にしか見えない体格をしており、長く綺麗なストレートの金髪と透き通る蒼色の瞳をもった少女。
その姿は日本人離れしており、別の国の子かと思えてくる。
まぁ、そんなことないよね?
僕は苦笑しながら、なるべく少女が怖がらないように話しかける。
ただ、敢えて視界に入れないようにしていたのかもしれない。
少女は担いでいたそれを――。
そして、少女はにっこりと微笑んだ後、背中のそれを僕に突きつけてくる。
少女の身長よりも巨大な大剣を……。
先ほどまでゴリゴリと床を引き釣りながら、持っていたそれを……。
「え、エリシャはえ、Sランク冒険者(予定)のエリシャだよ。ダンジョンがいつでも入れる宿の店員さん募集を聞いて来たのだけど、お兄さん、ダンジョンマスター?」
少女が持つには無理があるようで、手がぷるぷると震えている。
声も震えているので、かなり無理しているのが一目瞭然だった。
挑発……というよりは、精一杯強がりを見せているだけのように思える。
店員のことを聞いてきたから、僕に対して力があることのアピールをしているのかもしれない。
逆効果になっているけど……。
「確かに僕はダンジョンマスターだけど、その……、大丈夫?」
「だ、大丈夫……。え、エリシャは強い冒険者、なんだからね……。わわっ!?」
少女がふらついてくるので、僕はその体を支える。
ただ、持っている大剣の重みまで耐えきれずに、そのまま少女ごと、ベッドの方へ倒れてしまった。
少女が僕に覆い被さる形で……。
すると、その音を聞きつけて遥がやってくる。
「奏さん、凄い音がしましたけど、大丈夫ですか!?」
慌てて部屋に入ってきた遥は、僕たちの姿を見て固まっていた。
どう見ても今の状況は、僕が少女と抱き合っているようにしか見えない。
さ、さすがにこれは状況を説明しないと……。
アタフタとしながら、遥に話しかける。
「そ、その……、こ、これはただ、この子を支えようとして――」
「か、奏さん、今私が助けますから!」
「て、敵!? え、エリシャが相手になるよ?」
遥と少女の二人が戦闘態勢に入ろうとする。
本を取り出す遥と、慌てて起き上がり大剣の柄だけを掴んでいる少女。
何だろう……。
殺伐とした光景のはずなのに、なぜか平和を感じてしまう……。
――じゃないよ!? と、止めないと!
慌てて僕は二人の間に割って入り、争いを止めていた。
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