第3話:初スパチャ

 時刻は夕方。

 すぐに収益化の許可が下りてしまったので、急いで配信の準備をしていた。


 手に汗がにじみ、緊張から顔が強張る。



 まさかこんなにすぐ下りるなんて思わないよ……。



 緊張を紛らわすために、配信内容をおさらいをする。



 今日行う配信は改造したダンジョン紹介。


 新しく通路を作ったのだから、それの紹介をすることだった。

 とはいえ、分かれ道が一つあるだけの単純なダンジョン。

 紹介できることも少ない。

 それでも、長時間の配信は僕の身が持たないので、ちょうどよかった。



 配信開始と同時に、どういった場所にダンジョンがあるのかを教えるために、周りを見渡していた。


 誰もいない静かな山の中。

 時々、鳥の羽ばたく音が聞こえ、その都度僕の方がビクッと振るえてしまう。


 目の前にあるのは、洞窟型のダンジョン。

 中からだと平気だけど、外から見ると薄気味悪くて入ろうとは思えない。




「……入り口も改造する必要があるかな?」




 もっと人が入りやすいように……。

 でも、こういった入り口の方がダンジョンらしくも見えるから悩み所ではあった。




「あと、入り口付近に照明を付けたいね。やっぱり、夜になると暗すぎるから……」




 夕方でも既に見にくくなっている。

 これが夜になると……、考えたくもない。

 そもそも夜はダンジョンマスター専用の部屋――マスタールームから出ることもないが。




「よし、とりあえず中に入ってみよう」




 少し恐怖を感じながら、ダンジョンへ入っていった。




◇◇◇




 照明もない暗い洞窟。

 入ってすぐの大広間を抜けると、新しく作った通路へと続いていた。


 土がむき出しの、いつ崩れてきて埋まってもおかしくないようなただの穴。

 DPを使用すれば壁を強化して、土を固めたり、石造りの洞窟にしたり、それこそ煌びやかな金の洞窟にすることもできる。


 DPさえ使用すれば……。


 さすがに壁の強化はすぐにしなくて良いだろう。

 それよりもダンジョン内がかなり暗いことが気になってしまう。


 ろくに前も見えない。

 移動にはなんとか壁に手を当てて、恐る恐る進んでいくしかない。




「うーん、中が暗すぎると冒険者の人たちが怖がるかな。明かりとか必要かな?」




 モニターを触って、ダンジョン内に照明を付ける費用を調べてみる。




――――――――――――――――――――

照明

消費DP:10~(1カ所)

――――――――――――――――――――




 うん、照明なんて贅沢だね。真っ暗の中を歩けば良いよ。



 DPを見た瞬間にその案を速攻で否定する。


 でも、実際にダンジョンの中を歩いてみると、色々と欲しいものが出てくる。

 まずはダンジョンを広げていくことと、魔物を増やすことが最優先になってしまうが――。


 更に奥へと進んでいく。

 すると、このダンジョン唯一の魔物であるスライムと遭遇する。




「ピキーッ!!」




 薄い水色をしたゼリー状の魔物。

 魔物の中でも最低の能力しか持たない初心者向けの魔物。


 物理無効化や人や衣服を溶解されるスキルを持つスライムもいるが、そんなスライムは上位も上位。最上位クラスに位置する。


 DPでいうなら、最低でも100。下手をすると1000以上払わないと召喚できない相手だった。


 もちろん、このスライムはそんな特殊スキルは持っていない。

 初心者冒険者ですら簡単に倒せる方のスライムだった。




「できたら会いたくなかったんだけどなぁ……」




 魔物は倒してしまうと、その復活にDPを消費する。

 DP量はその魔物の強さに比例するので、スライムなら1しか消費しないが、それでも今は極力無駄遣いをしたくない。



 でも、出会ってしまったからには戦うしかない。



 スライムを狙って、杖を振りかぶり、そのまま振り下ろす。

 しかし、スライムはあっさりその攻撃を躱してしまい、そのまま柔らかい体で体当たりをしてくる。




「痛っ!」




 最弱の魔物であるスライムを相手にしているはずなのに、一方的に攻撃を受けてしまう。



 ただのスライムに大苦戦……。



 しかも、この光景はライブ配信されている。

 僕は恥ずかしさのあまり、顔が赤くなり、必死になってスライムを追いかけ回した。

 その結果、なんとかスライムに辛勝することができた。




◇◇◇




「はぁ……はぁ……、か、勝った!」




 思わずその場で握りこぶしを掲げていた。

 すると、モニターに色の付いたメッセージが送られてくる。



――――――――――――――――――――

一般人G

¥1,000


勝利、おめでとうございます

――――――――――――――――――――



 それを見た瞬間に僕の動きは固まっていた。



 噂に聞いたことがある。

 ライブ配信の時にくる可能性がある投げ銭。

 このことだったのだろう。




「こ、これってもしかして、スパチャってやつ? ありがとうございます」




 広告収益とは別に、視聴者による投げ銭が動画配信だと主な収入になる。

 稼ぐ人なら、それこそ一晩で数百万円を稼ぎ出すほどだった。

 その全てが収入となるわけではないけど、それでも一日で稼ぐには破格の数字。

 一日数万DPも稼げることになる。



 それだけもらえるなら、徘徊する魔物をとことん強化したり、大量の罠を設置したり、冒険者たちを誘うために豪華な宝を置いたり……、色々とできそう。



 その第一歩が今回のスパチャだった。

 ただ、スパチャの猛攻はこれだけでは収まらなかった。




――――――――――――――――――――

疾風の冒険者

¥1,000


なんだ、もうスパチャを投げられるのか

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

一般人A

¥5,000


少ないですけど、これで武器を整えてください

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

観戦者A

¥1,000


おめでとう

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

Sランク料理人

¥500


スライムってこんなに苦戦できるんだな

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

学生O

¥200


少ないですけど、おめでとうございます。

――――――――――――――――――――




 視聴者名がおかしい。ううん、額もおかしい。

 いきなりとんでもない量のスパチャとカラフルなメッセージに僕はアタフタとしてしまう。


 そして、配信が終わる頃にはかなりの額になっていた。

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