43 全員集合、そのはずだよね?
「あなたたちが向井君の
「なんだ、状況わかってるじゃねーか! ならジョージ。そいつを捕まえろ」
そう言われていったんは振り向く昭和風おじさん。
(構造設計の父があのジョージ先輩?!)
私は急に脳内が混乱する。あの三兄弟は黒幕の使いぱっしりで間違いないけど、この昭和風おじさんがジョージ先輩だというのか?!
どう見ても昭和風おじさんとなったジョージ先輩を横目で観察する。しかし、よく見ると演技の下でなんだかおどおどした様子。困惑してる? 女子大生相手に大の男がするような態度じゃない。これはどちらに加担するのか迷っている反応と私は読んだ。
「ジョージ先輩は敵ですか?」
「いや、本当はこんなことしたくなくって…」
と、無理やり関与させられていることを
「もうすぐ警察とセキュリティーチームが来ます」
と言ってジョージ先輩の心をわずかに良心側に傾けるのである。するとジョージ先輩は振り返って、三兄弟のほうを見る。
「あの、やっぱこういうことって良くないと思うんですよねぇ~」
貧弱な精神で三人の巨漢に立ち向かうジョージ先輩。足が思いっきり内股になっていて女々しいながらも頑張っているのである。ジョージ先輩の小さな心臓は、良心と悪心の狭間、ミリグラム単位でギリギリのバランスを保っているのだ。
「ヘイ、ボーイ。今の言葉もう一度言ったらこうなるぜ!」
三兄弟は置いてあったマネキンを
「ひぃぃ…」
そして、またジョージ先輩の良心ゲージが悪心側に触れてしまう。くるりと振り返ったジョージ先輩は半泣きで私のほうを見る。
「ジョージ。このロープ使えよ」
ジョージ先輩は内股の足をがくがくさせながらなよなよとロープを掲げる。
「ふーん…」
木下さんから聞いた予定ではすでにセキュリティーチームが現場に到着しているはずである。スナイパーライフルか何かできっともう私の周りをマークしているはず。そんな実力行使をいきなりしたら可哀想だし、まずは、警告すべきかな?
私はスマホを取り出して木下さんの連絡先を見せつける。
「その方は…木下さん!」
ざわざわ…。部屋に隠れていた紐たちが一斉に顔を出し始める。メイコさんやプレカリさん、野良の人に、旅人さん。あと、私が鉄の椅子で殴っちゃった人(流浪人ケンジ)。君らジョージ先輩に全部任せて何しにここにいるん? という疑問はさておき、皆が注目する中で私は通話ボタンを押す。
静かな部屋にコール中の音が響く。
コールだけなのに、床に腰を落としてしりもちをつくジョージ先輩。
「や、やめて! 社会的に殺さないで!」
そして、意味もなくジョージ先輩は自分の首にロープを巻き付け始める。電話をかけるだけでこの威圧力。やはり、木下さんの恐ろしさをわかっているらしい。
これに驚いたジョージ先輩の悪心を煽るべく、三兄弟は後ろでテーブルを破壊するが、ジョージ先輩はそんなことでは見向きもしなかった。
(勝ったな、フフフ)
私は満面の笑みでジョージ先輩を見下ろす。しかし、つながった電話の先ではよからぬことが起こっていた。
「はぁ、はぁ、玲奈ちょっとトラブルで到着遅くなる」
「へ?」
東京都横田市近隣に住む木下さんたちはずいぶん早く連絡を入れて出発したものの、クリスマスの大雪で生じた渋滞に巻き込まれ、なんと徒歩移動に切り替えたらしい。私はてっきりもう配置についていると思ってたし、映画みたく手を振ったりして合図するとすぐさま狙撃してくれるものだと思っていたけど、実際のところ彼らの居場所はまだ高円寺あたりらしい。時速10キロで走っても1時間かかるで…。
そして、一番よくなかったのは、慣れない長距離走でヘロヘロになっている木下さんのよわよわしい声を聞かれてしまったことだろう。ちらりとジョージ先輩を見ると、真顔に戻っていた。
「もしかして、あのお方は来ない?!」
再びざわめく部屋。紐たちの心が一気に悪心に傾いてしまったのが分かった。
「いや、待って。まだ警察もこっち来てるのよ!」
私は焦った。何とか、彼らのミリグラム単位の良心ゲージを引き戻さなければ。警察はちょっと心に染みたようだけど…
「あと、ドローンも飛んでるよ!」
という説明を聞いて皆一様に小首を傾げる。何言ってんだこいつという視線が痛い。私の意味わからない説明一つででみんな冷静になってしまった。武器積んどるんやって!
そして、もっと悪いことが起こる。
「母さん大変です! ドローンが、警察のドローンハンターに見つかって追い回されています!」
とかいう通知がスマホに表示される。
(なんだってー!)
私を助けるべく出動した、セキュリティーと警察と武装ドローンであったが、セキュリティーチームは渋滞で遅延、警察は正体不明の超危険な武装ドローンを追いかけ、武装ドローンは警察の追尾を巻いている状況となった。つまり、
「もしかして私って一人ぼっち?」
≪大丈夫、玲奈ちゃんに俺たちがついている!≫
(それ、不安要素やん!)
未来人の応援もむなしく。私の心中は穏やかでなくなったのである。
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