44 玲奈史上最大のピンチ
≪これ、玲奈ちゃん史上最大級のピンチでは?≫
いきなり不安を煽る未来人コメント。そりゃそうである。今までの相手はただの紐だったが、今回はさらに見た目マフィアっぽいなんか悪そうな三兄弟が絡んでいる。
≪また、山小屋に監禁される流れですかね?≫
(安全な未来から不安になるようなこと言わないでくれへんか?)
とはいうものの、割とそれに近い状況と言えばそんな状況である。なにせ、この三兄弟は向井君を餌にして見事私を釣り上げたのだから。
「ジョージ、お前らがやらないなら。俺らが実力行使するまでだぞ」
こいつらが回りくどく小心者のジョージ先輩を使って私を誘拐しようとする理由は簡単で、ジョージ先輩を捨て駒にするつもりなのだろう。関与はなかったと逃げるつもりなのかもしれない。
でも、だったらこの三兄弟が私の目の前にいるのはおかしい。私が裁判でこのとても特徴的な三兄弟のことをしゃべったら意味がないからである。もしかして用が済んだら私を口封じのために殺すつもり? それとも別の利用でもされる? こいつらは下請けで、もっと上の元請けがいるのかな?
そうして、思い浮かんできたのが、最後の紐シリーズ。吟遊詩人のリュート。
(もしかして、あの人が黒幕?)
しかし、ここに登場しない黒幕の候補が分かったところで私の状況の悪さは変わらない。
「ほらジョージ。早くしないのか?」
ジョージ先輩は、尻を蹴られつつ、うなだれて時間を稼ぎながらどうにか良心ゲージを回復しようと試みている様子。何か一言、彼らの心をミリグラムでいいから良心に傾けさせねばならない。
「もしもし、玲奈。電話をスピーカーにして」
「へ?」
急に、木下さんがしゃべりだす。何か秘策があるのだろうか?
「もし、彼らが法規に立ち向かい国家秩序に挑戦するのなら、たとえ1ミリグラムの悪だとしても法の守護者たる私が必ずお前らを社会的に抹殺してやる。二度とロックバンドで夢を馳せたり、地元で幸せな生活を夢見ることも、普通にのんびりした生活送ることも不可能になると思え!」
「だからってどうすれば…」
ジョージ先輩はうなだれながら小声で語る。
「私に許されたいなら、殴られてもいい、負けてもいいから悪に抗いなさい。玲奈がそこから逃げるための時間を稼いだなら、私が君らを守ってやろう」
半べそ状態のジョージ先輩が顔を上げる。
「それは、本当ですか?」
まるで、天に輝く女神を見上げるような輝いた目つきで私のスマホを見るジョージ先輩。
「ねぇ、木下さん」
メイコさんが横から割って入る。
「それって私も守ってくれる?」
「もちろん。約束は守るわ。私は弁護士だもの」
「わかった」
そういうとメイコさんは私のほうを見て、条件を出す。
「玲奈ちゃん、今から私たちのこと護衛に雇わない? 安くしておくよ」
メイコさんから意外な提案であった。
「正直、私たちはね、リュートに顎で使われたいわけじゃないんだよ。レーナちゃんに強引に家を追い出されたときは腹立ったけど、紹介してくれた仕事、結構条件良かったし楽しかった。もう一度真面目に大学にも通える時間できたしね」
「そうだったのね」
「でも、今ここで私たちがあいつらに加担したら絶対に戻れないと思うんだ」
運命はブラックホール。どんなに世界を変えようと思っても、自分の力だけでは必ず運命は収束してしまう。私にブラックホールが存在するように、彼らにもまた運命という名のブラックホールが存在するのだ。
「だから、玲奈ちゃん。この悪循環から抜け出すきっかけをくれないかな?」
だから、左衛門がそうしてくれたように、だれかの手を借りて運命から逃れるしかないのである。そして、今それができるのはきっと私だけなのだろう。
「わかりました。その心意気買います」
「ありがとう、玲奈ちゃん」
メイコさんのグッドラックサイン。
メイコ「それで、みんなはどうするの?」
プレカリ「俺は地元でやり直したいかな。待っているみんなやあかりちゃんのため、こんなところで破滅してられるかってんだ!」
旅人コーダ「俺は報酬はいらない。ただ、か弱き一般人をしっかり守ったって実績をくれればいい。そんな理由があれば地元に帰れるし、何より選挙で有利になるからな」
流浪人ケンジ「正直、あの真っ白い工場が懐かしい。あそこで無心になって仕事をしなければ、俺とジョージのバンドも成功なんてしなかった。なぁ、そうだろうジョージ」
どうやら、みんなの意思は固まったらしい。
「よっしゃ、俺たちの戦いはこれからだ!」
野良人ミケ「この先にショッピングモールの跡地がある。そこにリュートと龍志が向井って男を監禁している。すぐにセキュリティーを合流してそいつを助けるんだ」
玲奈「野良人さんはどうして私を助けるの?」
野良人ミケ「俺は昔からあいつらが嫌いだったんだよ。さぁ、行け!」
メイコさんがガラガラと扉を開ける。
「ここは私たちが何とかする。玲奈ちゃんは先に行くんだ!」
「みんなありがとう!」
出てきた部屋の後ろで、三人分の叫び声が聞こえてきた。
「おいごらぁ、お前らの人生をめちゃくちゃにしてやるぞ」
「ばっきゃろー! 今の私たちに失うものなどないんじゃボケー!」
とメイコさんが切り返すのが聞こえてきた。私は駆け出そうとする。すると、もう一人誰かに激突する。
「あら、なんだもう脱出してきたの?」
「優子ちゃん?! どうしてここに?」
「私も、あなたに対する借りを返しに来たのよ」
「借り?」
「黙っていてくれたじゃない、カミソリレターのこと」
そういえば、優子ちゃんがミスコンに出場するにあたって、私の家でカミソリレターを作っていたことがあった。その後、大学ミスコンで特に強敵となる先輩方の候補者の出場辞退が相次ぎ、見事一年生ながら堂野優子ちゃんがミスコンで優勝していたのである。
(なるほど、黙っていただけで恩になっていたのか…)
≪えっ、優子ちゃんが味方になってる?!≫
≪玲奈ちゃんの運命が変わったことを実感した!≫
「ありがとう、でも大丈夫?」
「私は堂野優子。時間稼ぎくらいならできるわ」
「ありがとう、優子ちゃん」
私は迷わず廃ビルから駆け出すのである。まぁ、優子ちゃんは他人にカミソリレターとか送るような人だし、きっとうまく乗り切る自信があるんだろうなぁ…。
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