作家を目指す、とある兄弟の話【文書ロイドシリーズ短編】

春眼 兎吉(はるまなこ ピョンきち)

作家を目指す兄弟の話


「う~ん、コレで『童話』といえんのかぁ?」

「少し怪しいかもしれませんが、もう、時間がありません。旦那様マスター

「小学校1年生に理解出来るだろうか? まぁ、自分の主義を『まげる』わけにはいかないんだけどさ」

「当たってくだけろですよ!」

 MUSTシステム社長のヤスフミは悩みに悩んで双子ふたごである、娘と息子の誕生日に『童話』をプレゼントするべく、自らの懐刀ふところがたなたる『文書ぶんしょロイド執事しつじタイプ』のマークと共に四苦八苦しくはっくしていた。いや、もうすぐ締切(家族内でやる誕生日)というところで二人してかなりテンパってた。

「この『童話』は、昔私が『書くことが出来なかった物語』を基にしている。『創作』とはなにかを考えるきっかけになってくれれば……」

ヤスフミの思惑ネガイは果たして受け入れられるのだろうか?結末はは双子姉と弟のみぞ知る……そして『童話』の『上演じょうえん』が成された。





 これは、ある『兄弟』が、小説を『書く』という『生き方』に対して、葛藤し、時にはぶつかり合い、乗り越えていく、『おはなし』です。



 とある山奥に、物語作りを生業しごととする兄弟がいました。兄弟の一族いちぞく代々むかしから言葉コトバを使って人の心を動かすやりかた得意とくいで、教育者せんせいとして、次世代こどもたち教育そだてるの心血ぜんりょくをつくした人もいれば、弁護士べんごしとして声をあげられず弱っている人たちを法律コトバの力で救った人もいたし、官僚くにのえらいひとになって、国をよくするための法律制定コトバづくりにがんばった人もいた。中にはそのコトバを使って人をだましたりと悪いことをするクズもいましたが、兄弟の父と母は小説を書いて、それがよく売れていたので、悪いことをする必要も無く、さらに兄弟にとって父や母の職業しごとだった『小説家』とは本当に花形あこがれだったのです。

 もっとも、両親は兄弟が幼い頃に亡くなり、両親から教えてもらった自給自足サバイバル技術やりかたささえに、二人だけで暮らしてきました。父と母がのこした巨大な地下書庫をかてに、誰とも交流無ふれずに兄弟で小説執筆モノガタリづくりはげみながら。しかし、自らの小説を売ってお金に換えようとする弟と、かたくなにこばむ兄との間で軋轢あつれきが生まれていきます。そしてそれはとうとう爆発しました。


「いいか、弟よ。『物語を書く』ということは別に自分の中で完結していればいいんだ。ましてや人に見せるモノでも無いし、自分を高める為にある行為の延長線上にしか過ぎないんだよ」

「イヤだよ兄さん! 僕は書いた物語は誰かに見せたくなるし、読んで貰った後にどういう反応するか気になるんだ! 笑ってくれるだろうか? それとも怒るのだろうか? もしかしたら泣いてしまうのかもしれない。 でも楽しんでくれればこれにまさる喜びはない」

 弟はなおも食い下がります。

「僕は作った小説を誰か(『読者』)に見て欲しい。同じ物語を創る『仲間』と切磋琢磨せっさたくまし、青春を過ごしたい。兄さんとここでグチグチと鬱々うつうつしたまま、日々を過ごして、ちてきたくない!」

「じゃあ、下界に降りて、自分の好きなように書いたらどうだ? 別に私は一人で書けるから問題ないしな」

「あぁ!そーさせてもらうわ!あばよ!兄さん」


 弟は下界に降り立ち、数多あまた作家同志と交わり、自らが望んでいたとおり、お互いに切磋琢磨せっさたくまするような『アツい』時間セイシュンを共有し、メキメキと実力を付けていきました。そして彼は、いまや、下界では知らぬ者がいないくらいの大作家先生タイカとなって、兄の元に凱旋じまんしに来ます。


「よぉーーおっ! 兄貴あにきっ!」

 増長イキったの結果か、もはや口調すら変わり果てた弟が兄に豪語ごうごしてイキます。

「どうだっ!は、兄貴が手に入れられなかった『富』も『名声』も『女』も手に入れた! このひとつでな! 『ひきこも~り♪』の兄貴と~はっ、根本モトからして、ちげぇんだよっ!!」

随分ずいぶんあわれな姿に成り果てたな」


「それで、もう、孤独では無いのか?」

「あぁ、そうたぞ! もう、俺は『孤独ヒ・ト・リ』じゃねぇ! 俺は『仲間』に恵まれている」

「その『仲間』は小説モノガタリを作る上で必要・・か?」

「あぁ、そうだな! 兄貴の思想カンガエに『かぶれて』言うなら、全てが『にえ』だ。見るモノ聞くモノ経験するモノ自分の『人生』も『仲間』さえも、全てが大切な大切な小説モノガタリへの下地捧げモノとなる。これだけの『材料ニエ』に恵まれた俺を打ち負かす小説モノガタリをきっと兄貴は書けないだろうよっ!」

 変わり果てた弟に兄は強く強くさとします。


「以前に『孤独』を恐れるな、と言ったハズだぞ! 孤独を恐れるあまり、他人の評価を気にし、ウケを狙い、認められないことが許せなくなり、挙げ句正気を失い、『仲間』さえも小説の『にえ』だと言ってのける。孤独を嫌うあまり『孤独』に取り憑かれているんだよっ! いいか! 恐れなければ『孤独』はただ優しく見守ってくれる。『作家』にとって最高の『仲間』たりえるんだ! ただ大事なのは『孤独』との『距離感』、『つきあい方』だ。近づきすぎても『飲まれる』し、遠ざかり過ぎて……人の温もりを求めすぎて……も、かまって欲しい故の『奇行』など、精神に不調をきたす」

「なにイキってんだよ! 兄貴、坊主の説法じゃあ、あるまいし」

 弟が心底呆れかえって天を仰いだとき、そこに降臨する者がおりました。


 いがみ合う兄弟のもとに『女神』が降臨したのです。


「我は『女神・・』だ。お前達の一族は我が神の一族の末裔。翼の生えていない天使といったところかな。そして『言葉コトダマで人を意のままに出来る』という能力チカラを持っておる。ゆえに我はそなたら一族をずうっと、監視しておったのじゃよ。だがしかしは物語を書くことに対して情熱を傾け、人との交わりを断ち、『サイミン行使ジッコウをせず』にここまで生きてみせた。サイミンを使わなければイノチを弱め、死んでしまうと言うのにのぅ」

 女神は兄を褒め称え、対して弟には厳しい視線を向けました。

ときに弟の方はたいそうツヤツヤとしているでは無いか? 下界に下りて自分の小説に感情ネガイを込めることで、読んだニンゲンイシを思うがままに洗脳あおり、その応援セイメイタマシイに変換し、しぶとく生き永らえたとみえるわっ! まことに傑作みぐるしいじゃのう」


「では……さて……」

 ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる弟を無視して、女神は兄に要求します。

「お主の紡いだ小説モノガタリを見せてもらおうかのぅ」


しかし、兄はすげなく言い放ちます。


「お断りします」と。


「あっ! 別に私は女神様に話見せる気ないんで! そもそも私の物語は人に見せるためでなく、自分と向き合い続ける果てなき『カルマ』の過程の一部なんで!」

「なにいってんだよ! 兄さん! 女神様に認められるんだぞ! 最高の、いや、究極の『栄誉』じゃ、ねぇ、かぁ! ありえねえ、ありえねぇんだけど!」


 あいもかわらず騒ぎ立てる弟の喧噪をバックミュージックに兄のひとりよがりな劇場が展開していました。


「……………………………………………………」


 絶句した女神様は一言。


「ありえねぇ」



ニンゲンに絶望したのでした。


             






 そして、『童話』の発表(というより兄役のヤスフミと、弟役のマークと、女神様役兼ナレーションのヤスフミの妻、の即興演劇)が終わり、子どもたちの『評価』が下される。

 姉の読見よみの感想。

「私はパパの創る物語が好きで、いちファンを自称している『から』あえて言わせてもらうわね♪…………………………ないわー!」

 めっちゃ溜めて。

「★3つ評価なら★ひとつね。だいたい何よ! ってか全然『童話』になってないし、兄も弟もキモくて、ついて行けないんですけどぉ~♪」

 弟の読夢よむも姉に追随ついずいする。

「これはないよ。父さん。でも僕は姉さんと違って★2つかな。なんか、弟さんに同情してしまって……反骨心的はんこつしんてきなものは僕にもあるから」

「なぁ~ん、でっ、すってぇ~!」

 弟につかみかかる姉。

「ちょちょちょちょちょ、痛いよ姉さん! どうしても上からえらそうにいつも言われると、こっちだって、辟易へきえきとしてしまうんだよっ!」

「ったく! 私よりちょっと言葉を知ってるからって、内心で反骨はんこつされても、わずらわしいのよっ!」

「姉さんの馬鹿ばか

読夢よむのアホ」


「こらっ! 姉弟きょうだい仲良く」

「二人ともどうしてこうも『水と油』なのよ~」

 必死に止めるヤスフミと妻。


 ヤスフミの投下した爆弾モノガタリは、姉弟きょうだいキズナを深めるどころか、かえって泥沼化させてしまった。





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【完結】文書(ぶんしょ)ロイド文子シリーズ原典『サッカ』 ~飽和(ほうわ)の時代を生きる皆さんへ~ 俺は何が何でも作家になりたい!そう、たとえ人間を《ヤメテ》でもまぁ!!


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