第11話
夕食後はすぐに入浴すること。決めたルールを、私は簡単に破った。祖父母と従兄弟と、その父親が夕食を食べている居間を無視して、ただいまも言わないまま玄関から階段へ直行する。電気もつけずに、たんたんと階段を上る。自室がある三階へ続く階段はさらに暗い。私はその闇に飲み込まれるようにして足を進めた。
計画表に則り、部屋の中で勉強しようとした。だが英文を読むうちに、文字を綴る合間に、余計な思考が邪魔をする。すぐにそれに囚われて、気付けば三十分近く虚空を見つめて何もしていない。それでも問題に答えようとして、また同じことを繰り返す。これではまるであの時と同じ。私はなんとかその事実から目を背けようと、執拗に参考書に向かった。そうこうするうちに、気づけば時刻は二十三時をまわっていた。
去年の失敗に学んで、新たな計画表はことさら楽なように作られていた。家での学習時間をなるべく減らすように、学習内容も軽いものになるように、緻密に計算してあった。にもかかわらず、その日私は計画の半分も終えぬまま眠ることになった。
いやな予感は続いていた。それでも大丈夫だと、言い聞かせる声がする。
「大丈夫だ。君は一人じゃない」
「他人が聞いたら笑うような些細な痛みも、ちゃんとわかってあげるよ。信じてあげる」
「ここにいるよ。大丈夫。一緒に頑張ろう」
私の手を握る誰かの手。その手の先もまた私の体に繋がっている。笑うしかなかった。この声を信じたところで、強くなれるわけではないとわかっていた。この声こそがいやな予感をより確実なものにする症状だとわかっていた。
「もって一週間。上手くいけば一ヶ月かな」
一日が終わるそのときに、様々な可能性が消えていくのを感じた。
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