第3話

 束の間の休息に溺れながら、私はこれからの生活を考えた。鳥籠の中にいる間には気づけなかったことに、気づいてしまう。

 たった半年で、夢も目標も全て失くしてしまった。たとえこれからどんなに頑張ろうと、決して一番にはなれない。

 ひとつの理由に比重をかけすぎたせいで、それをなくしたとたん全てがどうでもよくなった。大学に受かったところで、どうなるというのか。


 この頃から私は、いかにして受動的な死を引き寄せるかを考えるようになった。能動的な死、すなわち自殺は勢いが大切だから難しいうえ、許されないこととされている。

 しかし受動的な死は、本人の意思にかかわりなく訪れる。誰も責めはしない。事故で死んだ人が実は毎日死にたいと思っていたとして、誰にそれがわかる。誰もそれを自殺とは言わない。だから、これを上手く利用しよう。

 受動的な死の可能性を出来る限り上昇させること。

 ひとまずはそれが私の目標になった。田舎よりも都会のほうが人口も交通量も多く、事故や犯罪もおきやすいだろう。全ては可能性にすぎない。しかしこの町にいるよりは、可能性は確実にあがる。上手くいけば死ぬことができる。でも、自殺ではない。誰も私を裁くことはできない。死ぬために生きよう。そう思った。

 理由はともかく、そうして頑張った結果で誰かが喜ぶかもしれない。頑張ろう。そのうちにほかの生き方も見つかるかもしれない。あと一年。頑張ろう。あくまでも前向きに考えていた。




 それから今に至る間に、私が一体、何をしたのだろう。何もしていない。何も。私の日常は、いや、今回は新たな日常が形成されるより以前に、止まった。扉が開け放たれた鳥籠の中。私の思考だけが紡ぐ世界。

 なぜ、いつも。根本的な何かを見落としている。

 一年前もそうだ。大学に受かること。一番になること。それが目的で、それだけが夢で、それ以外が全く見えなくなって、学校生活という当たり前のものをなくした。卒業すら危うくなった。どうしてだろう。誰より速く走ろうとするのに、そして実際、途中までは誰より速く走れるのに。いつも、誰もつまずかないような小さな石で、私は転ぶ。そして二度と起き上がれないような気配すら覚える。


 しかし今回は、小石よりももっと些細なこと。見えないほど細い針があちこちに落ちていて、ご丁寧にその一つ一つを自分で体に差し込んでいくような喜劇。

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