5話「さあて、今日もそれなりに頑張りますかね」
昨晩は結局、アルにベッドを譲り、俺は毛布にくるまって床で寝た。
いや、くっそ寒くてロクに寝れなかったけどな。
て言うかそもそも、警戒しすぎて眠れる気がしなかったけど。
だってさー。普通に怖いって、女と同室とか。ほんと恐怖でしかないわ。
んでまー翌朝。つまり今日なんだが。
宿の裏庭がちょうど良い広さだったんで、おばちゃんに許可をもらってアルと二人でやってきた。
「よし。んじゃ、初めっかー」
「えぇと……何をですか?」
「ん? 実力確認。ほれ、剣振ってみ」
目の前を指さす。
そこにはアイテムボックスから取り出した木製の
つまり、試し斬りだ。
「これを斬ったらいいんですか?」
「おう。やってみー?」
「では、行きます!」
騎士剣を構え、デコイに向き直る。
大きく振りかぶり、そして、勢いよく振り下ろした。
ぶぉん、と風を切り、両手剣は見事にデコイを真っ二つに叩き切った。
そして、アル自身は何も無いところですっ転んでいた。
……うーむ。これはまた、極端と言うか。
いや、太刀筋は素晴らしいんだけどさー。
確かに宣告通り、攻撃に関してだけは一人前だ。
けどこれ、実戦だと即死だよなー。
「なるほど。素振りもこんな感じ?」
「毎回
「なんでそんな堂々としてるのかな」
これは根本的に鍛え直す必要があるかもしれない。
て言うか、殺る気に満ち溢れ過ぎだろ、お前。
捨て身で斬ってんじゃねぇよ。
「なるほどなぁ。アル、どこかで剣を習ったのか?」
「我流です!」
「だろうな。基礎が出来て無さすぎる」
ちょっと貸せ、と両手剣を取る。
「いいか? まず腰を落として重心を下げろ。縦振りする時は身を乗り出しながら。横に振る時は、重心を後ろに逸らしながらだ」
実際に振ってみせる。俺も一応鍛えてはいるからな。
あまり早くなければ見せてやる事はできる。
それにまぁ、こいつが使い物になれば俺は戦わずに済みそうだしな。
「おぉー。なるほど!」
「アルは全力でやり過ぎだ。今の感じなら八割の力で良いかな」
「やってみます!」
嬉々として両手剣を振り回し始めやがった。
おぉ、飲み込み早いなこいつ。ちゃんと振れてるじゃねーか。
……え、これ、俺が教えること無くね?
「ライさん! できましたよ!」
「うん。できたなー。じゃあ、そういうことで」
「逃がしませんよ!?」
「だめかぁ……でも実際、他に何を教えろって?」
俺は両手剣どころかどの武器も使えないし。
基本的な動きしか分からないもんなー。
「戦い方を教えてください!」
「戦い方なぁ。構わないけど、俺のはだいぶ邪道だぞ?」
「お願いします!」
「例えばだな……こう、縄を使ってな?」
目の前でくるりと結んでみせる。
「これを足元に放って、踏んだ瞬間に縄を引っ張ると……」
上から棒を突っ込んで縄を引く。
すると、縄の輪が小さくなり、棒を引っ張りあげた。
「こうやって足を取って、その隙に仲間が攻撃する」
「……うわぁ」
なんだその目は。有効なんだぞーこれ。
人型から四足相手まで使えるし、簡単だし、その割に効果はあるし。
「他にも穴を掘ったり、目潰ししたり、色々だなー。俺は弱っちぃから基本的に味方のサポートしかできないし」
「……あの、本当に本物のセイさんですか?」
「あぁ、まぁたぶん?」
あの、って言われると自身はないけどなー。
俺に出来ることは精々みんなのサポート程度だし。
「なるほど……
「だろうなー。そんだけ地力があるなら普通に戦った方が強いだろうしな」
「難しいですね……」
「冒険者は生き残ることが第一だ。捨て身の攻撃は外せば致命的だし、そこを意識してみると良いかもなー」
「勉強になります!」
うーん。ちぃと心配になるくらい素直だな、こいつ。
色々と大丈夫かね?
「あの。もし良かったら、模擬戦とかしてくれませんか?」
「んー。アルが加減できるようになってからだなー」
じゃないと俺、即死だからなぁ。
かすっただけでもヤバそうだし。
「なるほど。じゃあ努力します!」
「おーう。頑張れよ」
適当に返事しておく。
まぁ、この子はほっといても伸びるからなぁ。
「これでまた一歩、ぶっ殺せる日が近づきました!」
「……それさえ無けりゃなー」
キラキラとした満面の笑みで物騒な事言うなって。
そのサイコパスな部分はどうにかならないんだろうか。
それさえ無けりゃ良い奴なんだけど……マイナス点がデカすぎんだよな。
でもまぁ、こいつが頑張ってくれりゃあ俺が魔物と戦わずに済むし、その為にもアドバイスしてやりますかねー。
「とりあえず、鍛錬を続けることだな。姿勢を崩さずに剣を振れる事が出来れば、後は自然と身につくものだし」
「はい! ぶっ殺せるように頑張ります!」
「お、おう……まぁ、頑張れー?」
触らぬサイコパスに
スルーしておこう、うん。
「あぁ、そういや今日はどうするんだ? 俺は外壁修理に行くけど」
「私はしばらく練習してます!」
「そうか。まぁ何か会ったら外壁まで来てくれ。多分そこにいるから」
「了解です、師匠!」
師匠。師匠ねぇ。柄じゃ無いが、まぁ、悪い気はしないな。
「んじゃまたあとでな。頑張れよ」
「はい!」
とりあえず、ぶんぶか両手剣を振り回すアルを残して冒険者ギルドにより、そのまま外壁に向かうことにした。
さあて、今日もそれなりに頑張りますかね。
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