6話「マジで世話が焼ける奴だわ」
今日も今日とて、外壁修理の仕事だ。
周りが良くしてくれるから働きやすしい、仕事の内容も俺に向いている。
これ以上の職場はそうそう無いんじゃなかろうか。
何より魔物と戦わなくて済むし。
「おい新入り、飯にしようぜ」
「あ、もうそんな時間ですか。了解です」
高台を降り、日影に向かう。
うおー。涼しいわー。
基本、炎天下の仕事だしな。冷えた麦茶が体に染みる。
いやぁ、悪くないなー。こういうのも。
殺伐としてないし。魔物に対しては冒険者のみんなが優先的に討伐してくれっし。
マジで良い待遇だ。給金もそこそこ貰えるし。
出来るならずっとここに居たいなー。
「しっかしお前、よく働くよな。若いくせによ!」
「いやぁ、この仕事が楽しくて仕方ないんですよね。周りも良い人ばっかだし、最高です」
「なんだお前、褒めても何も出ないぞ?」
「いやマジですって。前の職場、だいぶアレだったんで」
常に命の危険があったしな。
それに比べたら外壁修理くらい、なんて事無い。
「おっと? ライ、客が来てるぞ!」
「え? あぁ、アルか。すみません、ちょっと行ってきまーす」
「おう、上手くやれよ!」
上手く殺れって聞こえた気がしたわ。
まぁあいつの場合、確かに殺られる前に殺った方がいい気はする。若干サイコパスだし。
先輩に言われた方に歩いていくと、フードを被ってなんかモジモジしてるアルの姿があった。
なにしてんだ、あいつ。
「おう。何かあったか?」
「ライさん! 私、討伐依頼を受けようと思うんです!」
「は? 正気かお前」
「そしてデザートゴブリンをぶっ殺します!」
あーそうか。元々正気じゃなかったわ、こいつ。
常に状態異常「サイコパス」だもんなー。
「おい、ゴブリンって、一匹なのか?」
「六匹の群れだそうです! 偵察依頼ですけどぶっ殺してきます!」
「いや待て待て。お前がぶっ殺されるわ」
六匹の群れとか、最低でも冒険者二人以上で挑む相手だぞ。
ソロで行ったらマジでヤバいって。死ぬってそれ。
いくら相手が弱いゴブリンって言っても、囲まれたらあっさり殺されるぞ?
「えー……でももう受けちゃいましたし、キャンセル料払えません……」
そうだった。こいつも金無いんだったな。
でも依頼キャンセル料払えないと冒険者タグ没収だしなー。
そしたら多分、人生詰むよな、こいつ。
……あーもー。しゃーねーか。
「旦那! すみません、急用が入ったんで抜けます!」
「おう! こっちは大丈夫だから行ってこい!」
「ありがとうございます!」
マジでここの人達良い人ばっかりだわ。
仕事中にいきなり抜ける奴に笑顔を向けるとか、普通ありえねぇし。
この出会い、女神様に感謝しないとな。
「ほらアル、行くぞ」
「一緒に来てくれるんですか!?」
「だってお前、放っておいたら一人で行くだろ?」
「もちろんです!」
「はぁ……なーんか、お前と会ってからロクな事ないな」
なんで厄介事ばかり持ってくんのかね、こいつ。
いやま、見捨てちまえば良いんだろうし、賢い奴ならそうするんだろうけど。
うん。
つまりは俺の為だな、うん。
「で、場所は?」
「西の岩場付近だそうです!」
「おーけー。油断はするなよ?」
「はい! 頑張ってひき肉にしてやります!
そこまで頑張らんでよろしい。
砂漠の都エッセルから西に歩いて一時間ほど。
砂漠と荒地の境目辺り、でかい岩場の付近に着いた。
身を隠しながら観察すると、情報通りデザートゴブリンが群れでいるのが見える。
デザートゴブリン。ゴブリンの亜種で、砂漠で行きることに特化した魔物だ。
強さはゴブリンと変わらないが、六匹もいて武装もしてるし、そこそこ怖い相手だな。
これアル一人だと確実に死んでたわ。
「んーじゃ、援護するから適当に突っ込め。ただし、奥に行きすぎるなよー?」
「分かりました! レッツぶっ殺タイム! ひゃっはぁ!」
うわ。笑いながら突撃して行きやがった。
やっぱりあいつ、マトモじゃねぇな。
さておき。俺も準備しますかね。
各種援護用の玉に、それを飛ばすスリングショット。後は自衛用の罠を幾つか。
これで良し。後はあの馬鹿が突っ込みすぎなければ大丈夫……だと思って目を向けると。
「あははっ! 死ね死ねー!」
両手剣を振り回しながらどんどん前に進む
おい! 突っ込むどころか包囲されてんじゃねーか!
くっそ、玉も原価がそこそこ高いんだが……
本当に仕方ないな、あいつ。
玉を取り出し、狙うは一番手前のデザートゴブリン。その胴体。スリングショットのゴムを引き、狙いを定め、放つ。
ずどんっ!
「ギッ!?」
「よっしゃ、命中!」
ゴブリンに当たった玉は小さく爆発して、隣に居た奴ごと吹っ飛ばした。
やっぱ爆裂玉つえーな。材料費高い分、効果あるわー。
あ、でも二匹こっちに来てる。
まぁ、この距離なら怖くねーけど。
次弾装填。今度は、こいつだ。
足元を狙って撃つ。狙い通り、ゴブリンの足元で破裂した玉は、ベトベトの粘液を撒き散らした。
足止め玉だ。そんで、そこらの手頃な石を拾って、スリングショットでぶち込む。
さて、あっちはどうだろうか。
改めてアルの方を見ると、一匹のゴブリンと斬り合いをしていた。
その少し後ろに、真っ二つになった奴が転がっている。
お。一匹倒してんじゃん。二匹目とも上手く立ち回れてるし、これなら大丈夫かな。
よし、そこで横振りを……おっけ、当たった。
やっぱアル、攻撃力はあるな。後は守りだけど、その辺は今度教えてやるか。
「アル、おつかれさん」
「ライさん! ぶった斬ってやりました! 癖になりそうです!」
「うっわ。良い笑顔でサイコな事言ってんじゃねーよ」
満面の笑みでなんて事言ってんだ。
ギャップがひでぇわ。
まぁでもなんとかなったか。
あとは討伐部位、犬歯を切り取って終わりだな。コイツら剥ぎ取っても買い取ってもらえ無いし。
自分の倒したゴブリンの犬歯を切り取って……これで良し。今日も飯が食えそうだ。
んで、アルの方は、と。
「ライさん! あそこ、何かいます!」
「んあ? まだゴブリンでもいるのかー?」
嬉しそうに叫ぶアル。その視線の先に目を向けると。
アルの両手剣より少し小さい、しかし十分な大きさの騎士剣を構えて、静かにこちらを向いている。
全身鎧と相まって、その姿は正に騎士と言える。
首が無いことを除けば、だが。
……おいおい。マジかよ。なんでこんな所に上級モンスターがいやがんだ。
中堅冒険者がパーティー組まないと討伐出来ないような相手だぞ。
さすがにアルじゃ戦いにもならないわ、アレ。
「アル! 引け!」
「嫌です! 殺ってやります!」
うわ、あの馬鹿突撃して行きやがった!
やべぇ、遠すぎて援護しようが無い!
罠を回収しつつ慌てて駆け寄る。
同時に、デュラハンの横薙ぎの一撃を受けて、アルがぶっ飛ばされた。
あーもー、あの脳筋娘は……人の話をきけよ。
あ、意識飛んでるわアレ。やっべぇな。
……うーん。これは、ケチってる場合じゃねぇか。
しゃーない。採算合わねーけど、やるか。
アイテムボックスから罠を撒き散らしながらも、アルの元に走る。
ほんっとにもー。あの馬鹿は。
マジで世話が焼ける奴だわ。
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