エピローグ

贖罪

 警察に世話になることになって、俺は「赤犬」という言葉を覚えた。どうやら俺の事を指しているらしい。後で知ることだが、放火魔の警察の隠語が「赤犬」というらしい。


 さて、最近、思うことがある。もしも俺の寿命が一か月だったら、俺はどうやって時間を過ごすのだろうと。もしもあのまま、俺が一人きりのままで、誰にもタトゥーの呪いの事を聞かず、窘めてもらえずにいたら、きっと後悔もそれほどせずに過ごしていたのではないか。自分の罪を棚に上げて、全部殺された奴らが悪いと言って、復讐だと言って憚らなかったという気がする。そしてもっとタトゥーで他人を殺していたのかもしれない。しかも、正当防衛だとか、正義の行いとして、また人や物を焼き尽くしていたかもしれない。恐ろしいことだ。それはタトゥーが恐ろしいのではない。タトゥーを簡単に使ってしまう自分と、それを正当化してしまう自分が恐ろしいのだ。そしてその状況を作り出しているのは、きっと孤独と弱さなのだ。俺は幸運にも、瞳がタトゥーのことを教えてくれた。そして水牙や義水が、俺の立場を分からせてくれた。とても怖い経験だったけれど、様々な人々が俺の罪を見せてくれていたのだと思う。

 

自分の目の前に恨んで、憎んでいる相手がいたら、他の人はどうしただろう。俺がタトゥーを持たない普通の男子高校生だったら、どうしていただろう。きっと相手を殺すところまではいかない気がする。でも、そこに凶器があったら、殺してしまっていたかもしれない。人間は臆病なくせに凶暴なのだ。いや、臆病だからこそ、凶暴にならざるを得ないのだ。

 自分の持っている力が相手より強ければ、自分が相手より優位であると誤解する。しかしそれはまやかしに過ぎない。人間に上下がないように、命の価値にも上下はない。

 



 俺は今、裁判を受けている。未成年であるがゆえに、非公開の裁判だった。俺は素直に刑に服することにしている。正直に、しかし現実的に説明を加え、裁かれようとしている。人間が作り上げた制度の下に、罰せられるのだ。それは俺が望んだことだ。俺が奪った多くの命に、可能な限り報いるために。

 



 少年刑務所に入った俺に、面会に訪れたのは瞳だった。


「待っているから」


 俺に対面した瞳は、アクリル板の向こう側でそう言い残して、帰ってしまった。しかしその言葉が、何よりも俺の心に響いた。聞きたいことや言わなければならないことは、沢山あった。しかし、瞳のその一言で全て満足してしまった。水牙と義水は関西の方へ岬と一緒に帰ったのだろう。そして瞳も回復したからここに来てくれた。皆が新しい道を模索しながらも歩き始めている。それが嬉しかった。




 俺は今度こそ、合法的な銃を持った時、それを使用しないでいられるだろうか。自信はない。人間はそれほど強い生き物ではない。それでも、信じてくれる人がいるということで、きっとその銃を捨てることができる。



                                     〈了〉

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