第626話 手紙の行方
SIDE:教国
シスター・アントニーナが、
そして、大聖堂脇の待機所に向かう。
そこにはシスター・アントニーナとは別のシスターたちが数人待機していた。
実はシスター・アントニーナのみが聖薬の聖女と関わることが許されており、彼女はこの待機所から離れられなかった。
そのため他の業務は別のシスターたちが交代で行うことになっていたのだ。
食事の作成から、備品の手配、外での仕事はシスターたちが請け負っていた。
それを聖薬の聖女は知らなかった。
「シスター・ノンナ、この手紙を届けてください」
「どなたにでしょうか?」
シスター・ノンナは急な話で戸惑いながら、それがラブレターとして流行っているレターセットだということに気付いた。
なぜならば、レターセットが欲しいとの依頼を受けて、自分が手配したものだったからだ。
ちなみに3人組とは別バージョンだ。
「アレックス様の配下、3人の
「3人の聖騎士様ですね? 畏まりました?」
シスター・ノンナは、ラブレターの渡し先が3人の誰でも良いという依頼に戸惑いの表情を見せる。
「先の手紙の差出人にお渡しくださいとお伝えして」
「畏まりました?」
そして、差出人が判らないのにラブレターの返信と聞いて理解が及ばなかった。
「行って参ります」
だが、シスター・ノンナは、そこは理解出来なくても、手紙を渡す簡単なお仕事として割り切った。
上司であるシスター・アントニーナの指示は、聖女様からの指示。
突拍子もない要求は今に始まったことではなかった。
「えーと、聖騎士様はたしか、制限区域にいらっしゃるのよね?」
3人組がいるのは、彼らが目的があって外出する以外は、人の出入りが制限された制限区域の中だった。
そこはシスター・ノンナには入ることが許されていなかった。
「シスター・リージア、頼まれてくださいますか?」
「シスター・ノンナ、ご用件は?」
シスター・ノンナが制限区域内担当のシスター・リージアを捕まえた。
これで手紙を制限区域内まで届けることが出来る。
「この手紙を……聖騎士ショータ様に渡してください」
だが、ここで不幸が発生する。
3人組の誰かにラブレターを渡すのは変だとシスター・ノンナは思ってしまった。
そこで3人組の1人にターゲットを絞って渡して欲しいと言おうと考えた。
そして、たまたま知っていた翔太の名前を出してしまった。
「わかった」
シスター・リージアに手紙が手渡された瞬間、シスター・リージアはそのまま踵を返すと制限区域内に行ってしまった。
「あ!」
それはシスター・ノンナが、差出人の下りを伝えようとした矢先だった。
大事な伝言が失われた瞬間だった。
しかも、それが聖女様の依頼であることも伝わっていなかった。
「まあ、届けばいっか」
シスター・ノンナは、安易な考えに落ち着いた。
まさか、届かないとは思っていなかったからだ。
手紙の行方を追おう。
シスター・リージアは、苛立っていた。
シスター・ノンナが明らかなラブレターを翔太に渡そうとしたからだ。
それも今流行りのレターセットを使って。
「ショータ様に近付く女は排除する」
制限区域は、アレックスと聖騎士3人――ショータ、マサト、ハルト――を保護するための専用区画だった。
そのお世話係の1人がシスター・リージアだった。
そしてシスター・リージアは、イケメンの翔太に恋をしていた。
翔太に届いた他の女からのラブレターなど、渡すはずがなかった。
それもシスター・ノンナのラブレターなど。
シスター・リージアが、ラブレターを破り捨てる。
いや、ラブレターじゃないんだけど。
そこに誤解が重なって、聖薬の聖女の手紙は3人組に届くことはなかった。
「どうやら無視されたか、届かなかったようだな」
「もう1回手紙を出すか?」
「いや、大聖堂に置いて来るのは無駄だろう」
「そうだ、シスターに渡して来てもらおう」
「「それだ!」」
チリンチリン
「お呼びでしょうか?」
シスター・リージアが3人組の部屋にやって来る。
彼らのお世話係は複数居るが、今日はたまたまシスター・リージアが担当だった。
シスター・リージアは恋する聖騎士ショータに呼ばれて、心がうきうき跳ね上がる。
「この手紙を聖薬の聖女様に届けて来て欲しい」
「っ……」
聖騎士ショータの頼みに、シスター・リージアは礼儀も忘れて口ごもる。
その手紙はシスター・リージアにとってラブレターに見えていた。
嫉妬心がシスター・リージアの中に燃え上がる。
どす黒い何かが心を支配していく。
「出来れば返事を貰って来て欲しい」
「承知しました」
翔太には見えなかったが、シスター・リージアの顔は般若と化していた。
聖騎士からの依頼、それが聖薬の聖女様宛でもどうでも良かった。
そして、また手紙が届くことはなかったのだ。
「遅い! どうして3人組から返事がないの?」
聖薬の聖女が苛立つ。
「もう引き籠りを止めて外に出るしかないか」
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