第625話 銃に対抗する

「銃か……」


 この世界、街と街の間には距離がある。

陸地面積に対して人口が少ないからだ。

元々街は、街道の休憩所が発展したものだ。

その休憩所となる場所には、何らかの利点があり、それを利用するために街として発展する。

街道は魔物の脅威もあり、安全に人が集まれる場所などそうそうないのだ。

必然的に、街と街の間には距離が出来る。


 俺は飛竜に乗って移動するから数時間で済むが、街と街との間の移動時間はだいたい馬車で5日ぐらいかかるのだ。

その移動時間数時間を利用して、俺は銃への対抗手段を考えることにした。


「まずは銃から身を護る必要がある。

その対策が第一だろう」


 同級生たちを銃から自衛させるとなると、まず【身体強化】で対抗するということになる。

教国の銃は、火薬で物理的に弾を飛ばす仕組みだった。

その弾から身を護る――物理防御となると、身体強化が有効だった。

だが、身体強化は長時間常に行うわけにはいかない。

つまり、通常はほぼ無強化だと思って良い。

そこを狙われたらアウトだ。


 ステータスで防御力を上げるということも無くは無いが、同級生たちは素で弾丸をはじけるような、そんなレベルには達していない。

この世界の人間の最高レベルというと、レベル50がせいぜいだろうか。

だがそれは稀有であって、レベル30程度がそこそこ見る強者というところだろう。

召喚勇者である同級生は、そのレベル30前後だった。

ただし、召喚勇者特典なのか、スキルの成長率が高く、レベル50相当には一部能力が特化している。

だから勇者なのだとも言える。


「もしもの時に身体強化以外で身を護る手段が欲しいな」


 この世界、一番最初に手に入れるスキルは【身体強化】だと言われている。

それによって、魔物の蔓延る世界を生きていくのだ。

つまり、現地人は子供のころから無意識レベルで身体強化を使っている。

対して、同級生たちは、この世界に召喚された後に身体強化のスキルを得ている。

スキルは、スキルレベルの他に熟練度的なものが育つ。

現地人と同級生の差、その差こそ経験の差なのだ。


「そこを補うものが必要だな」


 こうして俺は防御の魔導具を作ることになった。


 街から街への移動時間を利用して、俺は飛竜の上で魔導具を作った。

錬金術大全に載っていた魔導具をアレンジして、1度きりの使い捨てになるが、物理障壁を発生させる防御の魔導具を完成させた。

物理的脅威に対し、自動で障壁が発生する仕組みだ。


「これで不意の狙撃対策にはなるだろう」


 あとは暇を見て量産するのみ。

今危険なのは、リュウヤの領地にいる仲間――リュウヤ、さゆゆ、クララ、麗、さちぽよ、陽菜――の6人だな。

それぐらいはなんとかなるか。


 だが、1度防げても、敵は2発目を撃つだけだ。

身体強化で防げる仲間もいるけど、ほとんどの女子は能力的に無理だ。


「となると、2発目を撃たれる前に反撃するしかない」


 攻撃魔法が使えればそれで良いが、使えない仲間はどうする?


「やっぱりアレだよな」


 俺が思いついたそれは、『銃に対抗するならば銃だろう』だった。


 教国の銃には弱点があった。

発射の遅延と、ライフルは単発弾込め式で連射出来ない。

それは実物を手に入れて発覚した弱点だった。

それを逆手に取る。


「機関銃。 短機関銃か?」


 ようは教国の上を行く銃を持たせれば良い。

だが、その開発には壁があった。


「黒色火薬で連射って大丈夫なのか?」


 なんかジャムりそうな気がする。

弾の連続給弾には、ブローバックという火薬の爆発力による機関部分の動作が必要になる。

その爆発力が黒色火薬では不十分な気がするのだ。

不十分な爆発の結果は給弾ミス。

俗にいうジャムりが発生するのだ。


「となると、無煙火薬になるのか?」


 はい、製法が判りません。

学生でこんなの知ってたら、テロリスト予備軍だろ。

当然の結果だよね?

だが、仲間の安全のためになんとかしないと……。


「そういや、魔銃ってあったな」


 俺は以前に武器屋から魔銃を買ったことを思い出した。

使える者がほとんどなく廃れたと言われたものだが、面白がって購入したものだ。


「あれを発展させれば良いのでは?」


 魔銃が廃れたのは、おそらくその維持費が原因だ。

魔銃は魔法を発射できるが、そのために撃った本人の魔力か、魔石の魔力を使用する。

この世界の現地人は魔力がそんなに多くない。

魔力が多ければ魔法に頼るので魔銃はいらない。

つまり、魔銃は魔力が少ない人専用ということになる。

その魔力供給は当然魔石が主流になる。


 そこで問題になるのは魔石の値段だろう。

お貴族様でもない限り、魔石使い捨ての魔銃を使える金持ちはそうそう居ない。

だから廃れた。

だが、その魔石は俺の私有ダンジョンからいくらでも手に入る。

せこい小さな魔石でなく、それ自体で連射が可能なデカイ魔石がだ。

売れば大金になるが、別にお金なんてどうでも良い。

使える魔石があるならば使う。それで良いのだ。


「いける! 魔銃を作ろう。

それも連射できるやつだ。

魔法も火水風土、様々な属性のものが撃てるようにしよう」


 なぜか俺の方が現地型の兵器を製造することになった。

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