第624話 3人組に繋がる

SIDE:教国 聖女(TSブービー)


「こんなことならば、引き籠らなければ良かった」


 聖薬の聖女TSブービーが教国のお世話になり、真の聖女と認定されたのには2つの理由があった。

1つは、その強力な回復薬と、見たことのない現代兵器の独占を教国上層部が求めたから。

もう1つは聖薬の聖女が神の啓示を受けていることが事実だと発覚したからだった。


「10日後の昼に、オレーオフ地方で地震が起きる。

教会の建物が倒壊するから信徒を避難させなさい」


 そんな予言が何回も的中する。

それを神の啓示だと信じるのに時間はかからなかった。


「啓示を受けるのに、雑音が激しいの。

瞑想室を作っていただきたいわ。

そう、大聖堂の祭壇の後ろが良いわ」


 そう言われて、大聖堂が改装された。

神への冒涜?

そうは思われなかった。

何故ならば、それが神の代理人の意志だからだ。


 そして、上げ膳据え膳、欲しいもの――この世界で手に入るものに限る――が通販の如く配達される、引き籠りニート生活が始まったのだ。


「さすがに出歩きたいと言い出すと違和感があるかも」


 怠惰な生活のツケだった。

それは軟禁しなくても良いと教会上層部も歓迎した結果であった。


 そこで聖薬の聖女は、情報収集をすることにした。

ただしそれは、お世話係のシスター・アントニーナを通さざるを得なかった。

聖薬の聖女と接触できるのは、教会上層部と少数の限られた者だけだからだ。


 呼び鈴をチリンチリンと鳴らすと、シスター・アントニーナがやって来た。


「お呼びでしょうか? 聖女様」


「シスター・アントニーナ、あの手紙の差出人は誰かご存じかしら?」


 差し出し人は、アレックスの配下3人だとは理解している。

だけど、その3人と繋がるためには、接点が無さすぎた。

アレックスを飛び越えて、3人を呼び出すなどは出来ない相談だった。

アレックスに知られるのだけはまずい。

彼ら含めて支配から逃れようとしていることを疑われては困るのだ。


「いいえ、聖女様。

手紙は大聖堂の入口に届けられていたのを見つけただけです」


 3人組が目撃されていれば話は簡単だった。

彼らに手紙を届けて欲しいと依頼すれば良いだけだからだ。


 どうやって、3人と繋がるか。

そこに聖薬の聖女は悩んだ。


「手紙を見つけたのは朝?」


 手紙が無事に届くためには、手紙が人目に晒されない必要があった。

聖地巡礼で来た信者たちの目に触れた場合、誰かが持ち去る可能性もあるし、知らずに踏みつけられ、何処かへ行ってしまったかもしれない。

そうなると、聖薬の聖女に届くとは限らない。


「いいえ、夕食の配膳の前ですので、夕方です」


 つまり、最後の礼拝時間が終わり、信者が居なくなった後ということだった。


「その時間となると、この教会の内部の方かしら?」


「左様かと存じます」


 手紙の差出人の正体が、だんだん3人組へと迫る。


「差出人が誰だか想像出来るかしら?」


「ご署名が無かったのですか?」


「そうなのよ(アホだから!)」


 そう聖薬の聖女が言うとシスター・アントニーナは困り顔で考え始めた。

なんとか聖女様のお役に立とうと思っているのだ。


「そのレターセットですが、貴族の間で流行している高級品でございます。

それを使用出来る御方は限られているかと」


「この教会の内部では?」


 聖薬の聖女が期待の籠った声で訊ねる。

ゴールは直ぐそこに在る。


「聖女様をご存じで、レターセットを使うとなると……。

アレックス様とその配下の御三方かと」


 ついに3人組が候補に挙がった。


「3人?

そういえば3人の仲間と書いてありましたわ」


「それならば、御三方の誰かですわ」


 ついに正解に辿り着いた。


「アントニーナ、その御三方の誰かに手紙を渡してくれないかしら?

手紙の差出人に渡して欲しいって」


「かしこまりました。 受け賜わります」


 聖薬の聖女TSブービーは、ついに3人組との接触の第一歩を歩み始めた。


 ちなみに、シスター・アントニーナは手紙の内容を知らないので、差出人が書かれてなかったことも知らない。

この件は本来、3人組に手紙を渡して欲しいと言うだけの簡単な話だった。

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