第623話 教国の銃
「キラト、ゴブリン軍団を召喚して、奴らを捕まえてくれ」
弾薬が尽きて沈黙した、銃を撃って来ていた連中の捕縛をキラトに命じた。
先程ゴブリン軍団を送還してしまったが、キラトが残っていれば別部隊ならば召喚可能だ。
相手の人数も少なそうだし丁度良い。
「御意」
キラトに召喚されたのは、斥候タイプと魔法タイプのゴブリン兵だった。
ゴブリン・スカウトとゴブリン・メイジと言われる上位種だ。
キラトはゴブリン・エンペラーを凌ぐ特殊個体なため、上位種も召喚出来るのだ。
斥候タイプが建物や物陰に隠れていた教国兵を捕える。
銃の弾が尽きればただの人――実際に一般市民だった――捕まえるのは容易だった。
「ゴブリン・メイジは要らなかったな」
キラトがメイジを召喚したのは、銃に弾が残っていた時のための用心だった。
どうやら教国兵は拳銃の弾まで使い切っていたようだ。
そんな連中が拘束されて引き出されて来る。
「ごく普通の市民に見えるな」
それが銃の怖いところだ。
兵士ならば、それなりの訓練を必要とするところが、銃は狙って引き金を引ければ子供でも屈強な兵士が殺せる。
同級生たち召喚勇者だって、油断していれば死にかねないのだ。
「まだ数が少ないのが救いか」
逆に銃の数が少ないので、腕の良い市民が選抜されたようだ。
結構命中させられていたからな。
俺も火竜纏をしていなかったら危なかった。
いや、そうでもないか。
俺の身体って魔王化してたんだよな。
それって、防御力もまともじゃないってことか?
わざとダメージを受けようと試していないから判らなかったよ。
防御力の高い纏をしていることも多いし、気付かなかった。
「銃は奪ったか?」
「ここに」
キラトから手渡されたのは、拳銃とライフル。
拳銃はリボルバーという回転弾倉により連発が可能なタイプ。
ライフルはボルトアクションの単発弾込め式だった。
「弾倉のバネはどうしてるのかと思ったら、そこは実現してなかったか」
馬車を快適にするために、サスペンションを作ろうとしたことがあった。
だけど、バネの作成が不可能で頓挫したのだ。
螺旋バネ、板バネ、形は模倣できても、その弾力は再現できなかった。
それはこの世界のスキルである錬金術では実現できない、現代の治金技術や焼き入れ焼き戻し技術が必要だったからだ。
バネとネジはとんでもない技術革新だったんだよ。
そう、ネジ。
火縄銃が齎された時、最初はオスメスの溝を刻む方法がわからなかったと言うよね。
そのネジがこの銃には使われていた。
そこはこの世界の錬金術や鍛冶でも、どうにかなったようだ。
「実物の存在って凄いんだよな」
この教国の使う現代兵器群は、何らかの方法で実物を入手してお手本としているらしい。
そのお手本そのものとコピー品の性能差がありすぎて、俺も気付いたところだ。
ネジも実物を見て、錬金術でコピーしたのだろう。
形の模倣だから、ネジもネジ穴も溝が刻めるのだ。
俺は興味深く銃を調べて行った。
「なんだこれ?」
リボルバーもライフルも、魔石と魔道具が内蔵されていた。
俺の錬金術大全の知識が、その魔法陣が着火の魔道具だと示していた。
「着火の魔道具? そうか、火薬の発火用か!」
俺はリボルバーの回転弾倉から、使用済の薬莢を取り出した。
その尻の部分に注目する。
「雷管がコピーできなかったのか。
いや、コストの問題か?」
ネジを作った錬金術師ならば、雷管もコピーできるはず。
だけど、この薬莢1つ1つに高度な錬金術を使うのは本末転倒となる。
消耗品の薬莢に、精密な部品を使う。
現代の機械工業ならばまだしも、手作業のこの世界でそれをするのは、コストが割に合わないのだろう。
「それで魔道具で着火するのか……」
この仕組みは、単純に考えれば火縄銃の火縄だ。
この世界の技術も侮りがたかった。
職人さんの知恵と工夫の賜物だろう。
「リボルバーもライフルも、そしてその弾薬も、もうこの世界で量産可能になっているのだな」
それは技術さえ伝われば、教国以外でも銃の製造が可能になったということだった。
「金属としての冶金技術も進んでいるようだな」
銃で怖いのは強度不足による暴発だろう。
銃身が破裂するとか、強度が足りなくて起きる不具合はいくらでもある。
「そこは実験の蓄積で克服したのか?
いや、実物があれば、その組成をそのままコピーしたのかも」
『同じ成分になーれ』が出来てしまうのが魔法だ。
実物の存在がどれだけ有効かということだろう。
そのうち、バネもどうにかしてしまう気がする。
ドワーフなんて、本当に実験の蓄積で克服してしまうのだ。
「だが、これでこの銃の弱点も判った。
発射までにタイムラグがあるはずだ」
着火の魔道具は、着火レベルまで温まるのに時間がかかる。
それがタイムラグだ。
素早く動くものは、その未来位置を予測して撃たなければならない。
その予測位置が、発射の遅延により大幅にズレる。
つまり、そこにある未来は遅延分複雑になる。
「動かないものの狙撃、近接での発砲、そんな用途以外では当たらないぞ」
加えて鳥の島攻略で火薬不足を誘発している。
硝石は作れるが、それにはまだ時間がかかる。
「教国の銃工場を早めに抑えて、技術の拡散を止めないとならないな」
大切な家族を、仲間を守るために、銃の存在を消し去らないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。