第627話 補給物資

 街道の上を火竜纏で飛んでいると、次の街に到達した。

軍の進軍で一番速度が出るのは街道だ。

戦術的に軍の動向を隠すために、道なき道を行くということもあるだろうが、それは戦地に行った先の話だ。

前線へ素早く到達するには、整備された街道を通るのがこの世界の定石だ。


 俺が街道の上を飛ぶのもそれが理由だった。

街道には前線に向かう援軍や、補給物資を運ぶ輜重隊が進軍しているのだ。

街には援軍が滞在したり、補給物資が集積される。

リュウヤの領地の安全のために、その援軍を叩くのが俺の目的だった。


 街に辿り着くと、そこは補給所として利用されていた。

物資の山と、それを運ぶ馬車が犇めき合っている。

そこには前線へと投入される武器や食糧が集まっていた。

だが、その補給を受けるべき教国軍はモドキンによって殲滅されている。

このままスルーしても戦力的には変化はないが、補給物資が次に来るであろう援軍の益になるのは避けたいところだった。


「【眷属召喚 キラト】ゴブリン軍団で街を制圧だ」


 後顧の憂いを排除するため、補給所を制圧することにした。

キラトが大地に召喚されると、彼の周囲にゴブリン軍団が呼び出されていく。

次から次へと影の中からゴブリンが湧いてくる。


 ゴブリン軍団は鎧を装備し武器を持つ、立派な軍団だ。

その1個軍団が突然湧き出て来るのだ。

この世界で、軍を進めようと思うと、その進軍速度が必要になる。

街から街への移動が5日、それを繰り返して前線に出て来るのだ。

そこのところゴブリン軍団は、俺が移動した先にキラトを召喚すれば、彼が軍団を呼び出す。

俺の街間の移動速度は、火竜纏で飛んだり、飛竜に乗っていれば数時間、転移ならば一瞬だ。

そのアドバンテージは計り知れない。


「囲め! 人っ子一人逃がすな!」


 突然のゴブリン軍団の襲撃に、街はパニックになった。

輜重隊の守備はそこまで厳重ではないからだ。

前線の軍と後方の輜重隊含めて1つの軍なのだ。

その前線の軍が健在であれば、輜重隊はその軍の存在に守られる。

そして、その前線が突破されれば、輜重隊が運ぶ補給物資は意味をなさなくなる。


 よく戦史もので、補給物資を奪って後方かく乱し、前線の軍を倒すというような戦術をとることがある。

その戦術は、この世界ではあまり成功することがない。

大部隊を後方に迂回させることが、そもそも不可能に近く、少数部隊で襲っても、それを倒すぐらいは輜重隊の護衛で充分だった。


 尤も、俺みたいに空から襲撃したり、後方に大戦力を召喚出来れば話は別だが。

いや、俺個人の力で襲撃することも可能か。


 とにかく、キラトによるゴブリン軍団の召喚は、後方ではあってはならない事態だった。

おかげで、補給所の制圧が簡単に完了する。


 制圧された補給所にキラトを伴って視察をする。

そこには食糧や生活物資、武器弾薬が集積されていた。

それをアイテムボックスに入れて行く。

所謂ボーナスステージだ。


「食糧はリュウヤのところの領民に支給してやろうか」


 リュウヤの領地は、前領主により、領民が死を覚悟するレベルで搾取されていた。

リュウヤが領主になって善政を布いたとしても、その生活が向上するには、いや元に戻るには時間がかかる。

それが不満として燻っていたせいで、教国の懐柔に乗ってしまったのだ。


 リュウヤが領民支援をしようにも、領地に金が無かった。

前領主が贅沢三昧で浪費していたからだ。

この食糧があれば、領民たちの領主への反感も収まるのではないだろうか。

たぶん領民は領主が代わったことも、リュウヤが善政を布こうとしていることも理解していないのだ。

目に見える援助、それが一番効くはずだ。


「やはりあったか!」


 補給物資を漁って行くと、やはり銃があった。

単発弾込め式のライフルが10丁。

少ないと思うかもしれないが、これでもこの世界では戦況を覆す可能性を秘めている。

そして弾薬が300発。

ライフル1丁に30発、多いのか、少ないのか……。

召喚勇者がターゲットならば、多いのかもしれない。


「これは早急に反撃する手段を手に入れる必要があるか」


 今は戦場なので、魔銃の開発は暇な時にでもと思っていたが、そうも言っていられないようだ。

モドキンに主力が殲滅されたことは、教国もまだ気付いていないだろう。

ならば、この機会に魔銃を開発してしまうか。

サンプルとなる魔銃に、材料もアイテムボックスの中にある。

金属加工や魔法陣の刻み付けも錬金術で出来る。


「よし作ろう」


「キラト、街の人たちの処置は?」


「完了した」


 衛兵も降伏し武装解除したようだ。

市民の抵抗もない。

どうやら補給所に加えて街も完全制圧したようだ。

まあ、俺と一緒に飛んで来た赤龍レッドドラゴン緑龍グリーンドラゴンが街の外から睨んでいれば、誰も抵抗しようと思わないだろう。


「今日はこの街に留まる。

宿泊と工房として使える建物を接収しろ」


「はっ」


 俺の指示で街一番の館が接収された。

その大広間を工房とすることになった。


「警備は任せる」


 館はゴブリン軍団の精鋭に警護されることになった。

これで安心して錬金作業に入れるぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る