第621話 銃の脅威
「これか?」
「はい。 ゴブリン兵が発見しました」
キラトから報告が上がったのは、異形の遺体だった。
それは以前にも見たことがあるものだった。
「魔族化、いや天使化か」
魔物毒を接種することや、魔の力を使いすぎると起こる魔族化は、所謂暗黒面に落ちることの促進行為により起こるものだった。
それと対を成す天使化という現象が、教国の聖女や聖騎士に見られた。
モドキンの毒にやられ、その遺体が発見されたのだ。
「天使化後も毒が効くことが発見されたのは良いけど、なんなんだこいつらは?」
教国の支配体制は、教会が中心となっている。
総本山である中央教会、教区を統括する教区教会、その中を分割した地方教会がピラミッド型の支配体制を敷いている。
表向きは政教分離なため、中央には国王が、教区と地域毎に領主貴族が存在する。
だがそれは、そのまま国王=教皇、教区貴族=枢機卿、大司教、地域貴族=司教という、どこが政教分離なのかという、明らかなまやかしだった。
その二面性を対外的に使い分けているだけだったのだ。
教会がやったことは知らない、国がやったことは知らない、何かトラブルが起きると、逆の立場を悪用してそのように言い逃れをするのが常だった。
それは、アーケランド王家が教国を潰さなかったツケだった。
教国を占領しても旨味が無い、そのように判断されてから、何十年経過したのだろうか?
その間に教国は古い教えを復活させ、勇者排斥などの裏工作に手を染めていた。
だが、その裏工作は、世界の破滅を回避するという大義名分の逆を行く行為だ。
勇者が倒されれば、新たな勇者召喚が行なわれて、むしろ次元の傷が広がることになる。
それこそ世界の破滅の促進となってしまうのではないか?
教国がアホなのか、それともそう誘導する何かの存在が教国のバックに居るのか?
「その存在の力による産物が、この天使化の気がする」
今はアレックスの介入により、教国は想定外の行動に出ているようだ。
だが、アレックスとその存在は果たして相容れているのだろうか?
「アレックスならば、もっと天使化を有効活用するはずだな」
召喚勇者の魔族化を促進して利用したように。
奴に人道という考えはない。
「となると、この天使化はアレックスも気付いていない、教国の秘匿事項ということなのかもしれないな」
これはチャンスだ。
アレックスに気付かれる前に叩けば、無駄に戦わなくて済む。
「モドキンのクールタイムも終わったし、次を叩いてしまおう」
パン パン パン
突然、乾いた音が響いた。
それは俺の記憶では、海外映画やドラマでよく聞いた銃声に思えた。
と同時に何かが胸に当たった衝撃を感じた。
「?」
銃で撃たれた時、痛覚よりも先に衝撃を感じるという。
まさにそのような感覚。
思わず胸を見ると、そこには拉げた銃弾があった。
撃たれたのだ。
「銃撃! 何処からだ?」
銃が使われたこと、それが狙撃だったということ、そして火竜纏のおかげでノーダメージだったことを一瞬で把握した。
パン パン パン パン パン
その後は銃弾の嵐だった。
建物の影、屋根の上、店の窓、四方八方から撃たれていた。
俺は火竜纏で、火竜の鱗そのものの鎧を着ている。
顔も面あてまで火竜の冑で覆われている。
当たった衝撃が加わるのが気に食わないが、大したことは無い。
キラトも魔物上位種のため問題なかった。
だが、ゴブリン軍団は別だ。
銃弾により次々に倒れていく。
「キラト、ゴブリン軍団を送還だ!」
「御意」
ゴブリン軍団は、ただのゴブリンではない。
装備も充実させ、戦闘訓練も施した精鋭たちだ。
無駄死にさせるわけにはいかない。
送還は、ゴブリン軍団を安全地帯に戻してくれた。
「銃か、やりやがったな」
教国が現代兵器を何処かから手に入れていることは判っていた。
大型帆船だ、大砲だ、旋回機銃だ、チャリオットだと戦場に投入している。
だが、その数と性能には制限があるように見えた。
劣化コピーの量産品が存在したからだ。
いや、魔導砲だけは現代兵器と魔導具のハイブリッドで高性能化しているか。
教国には先込め式の大砲も齎されていた。
それを応用しても、この世界で製造出来るのは、せいぜいが火縄銃だろう。
それがいつか戦場に出て来るのではと推測していた。
だが、今使われているのは旧式の火縄銃ではなく、薬莢式の連発銃だ。
まさか、それを量産して投入して来るとは思っていなかった。
見本は手に入っても、それを量産するには技術不足だと思っていたのだ。
現代兵器も数が少なければ脅威になり得ない、それは今までの教国との戦いで得た事実だった。
「銃はいつか自分たちに向けられると考えなかったのか?」
身体強化していれば、矢弾ぐらいは耐えられる。
それがこの世界の常識ではある。
だが、寝ている間など、ずーっと身体強化し続けることは不可能だ。
消費MPの問題もある。
つまり、1日で考えれば、身体強化がかかっている時間の方が短いのだ。
その隙を銃で狙われれば、召喚勇者でも致命的だった。
剣ならば、斬り付けれられる前に身体強化をかけられる確率が高い。
だが、銃のよる狙撃は予見不能だろう。
「アレックスの仕業ならば、どういうつもりなんだ?」
幸い俺は纏のおかげで助かった。
だが、他の仲間だったら?
俺の背筋に冷たい汗が流れた。
「主君、終わったようだぞ」
そんな考え事をしているうちに銃撃は止んだ。
無傷のため、対策を放っておいたところ、どうやら弾薬が尽きたらしい。
「そういや、鳥の島を制圧して硝石を奪ったから、火薬の原料が無いんだったな」
弾薬は有限。
今は備蓄があっても、そのうち使い物にならなくなるか。
こんなところで先の一手が有効だったとはな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。