第619話 教区教会を制圧する

 教国は過去のアーケランドとの戦争に破れ、表向き政教分離を実施している。

それがフラメシア国という国だった。

しかし、実体は教会に牛耳られたフラメシア教国となっていた。

フラメシア国では、商売などを行う裕福な国民はこぞって教会にお布施をする。

一般国民は信者となり、そこそこのお布施をする。

そのお布施が出来なくなるまで財産を搾り取られると出家し、その身を教会に労働力として捧げる。

街は地域教会を中心にそんな出家信者が労役を行って成立していた。

その様子は案外平和だった。

末端の教会は民の事を考え、純粋に宗教活動をしているように見える。


 そんな上空を火竜纏の飛行能力で通過していくと、それら地域を教区として束ねる教区教会を遠くに視認した。

一際立派な宗教建築物が、まるでその地の支配者かのように君臨しているように見えた。


ビカッ ズキューーーーン


「くっ! 魔導砲か!」


 それは光魔法の光条だった。

教区教会の敷地に対空砲座として据え付けてあったのだ。


 その光条が飛竜を掠める。

どうやら狙いが定まっていないようだ。

そして、艦載魔導砲よりも線が細く、圧倒的に火力が弱い。

これならば飛竜を落とすのも容易ではないだろう。


 すかさず緑龍グリーンドラゴンが火球を吐いて対空魔導砲を沈黙させる。

俺も脅威を目視確認するために【鷹の目】を使う。

すると、教区教会の広場には、教国の主力軍が集結しているのが見えた。

チャリオットや魔導砲牽引地竜も散見される。


「リュウヤの領地を占領したら、この軍が詰めて来る計画だったのか」


 教国の進軍が、仮にもしアレックスの仕業だと仮定すると、急な方針の変化の理由が理解出来る。

教国はゴストロヴィチ大司教の宣戦布告を知らないと誤魔化して逃げた。

アーケランドには勝てないと理解していたからだ。

そんな教国がこのような暴挙に出るとは思えなかった。

例え新兵器が手に入ったとしても、さすがに準備不足だったのだろう。

アーケランド国民に教化浸透して内部から崩す方針だったと思われる。

となると、教国の上層部に何か変化があったのだと推測できる。

それがアレックスの支配によるものだと疑われるのだ。


 俺たちが人命重視で市民を殺せないことを、アレックスは良く知っている。

そして、内戦終結によりアーケランドには新領主が立ち、その統治に隙があることも知っている。

それら情報をアレックスが教国に齎したのかもしれない。

この教国軍の大部分が市民の動員兵であれば、俺たちならばその市民の救命まで考えると思われていたのかもね。

だが、その原因である俺の魔王化の懸念は無くなり、最早スルー出来てしまうのだ。

気持ち的に嫌悪感があるだけで、こちらの命を奪おうとして来る相手ならば、容赦しないだけの決意はしてある。


「俺が魔物を使役するって、アレックスならば知ってるだろうに」


 もしアレックスの仕業ならば、何かアレックスに焦りのようなものを感じる。


「この軍がリュウヤの領地に攻め込めば、領民に被害が出る。

ならば未然に芽を摘んでおくべきだろう」


 皆の平穏のため。

最少の犠牲で済ます。


「【眷属召喚、モドキン】猛毒攻撃で制圧だ」


 初めての敵地。

守る土地もなく、守る民も居ない。

そんな場所ならば、モドキンの毒が使える。

最新兵器も使う人が倒れればただのオブジェだ。


◇  ◇  ◇


SIDE:教国


「だめだ、接近できない」

「行動制限をかけられてるよな?」

「だろうな」

「他の方法を考えないと」


 フィジカルエリート3人組が、聖薬の聖女に接触しようと中央教会大神殿に侵入しようとしていた。

だが、アレックスの命令により行動制限がかけられていたようだ。

頭ではいろいろ考えられるのに、聖女に会いに行くことが出来なかった。


「アレックスも俺たちを聖女様に会わせたくないようだな」

「つまり、正解だということだろう」

「何か方法はないか?」

「手紙は?」

「「それだ!」」


 どうやら3人組は手紙を聖女に渡そうと考えたようだ。

聖女の方から3人組に接触してもらおうというのだ。


「でもアレックスに見つかったらどうなるよ」

「支配を強くされるかもしれないけど、今と大して変わらなくね?」

「「それもそうか」」


 そして一通の手紙が大聖堂に投げ込まれる。

それはどう見てもラブレターの体裁だった。


「しまった! しくじった」

「おい翔太、何をやらかしたんだよ?」

「日本語で書いちまった」

「そもそも、俺たち現地語って書けないじゃん」

「いや、書けるぞ?

そこはファンタジーの基本で言語能力は付与されてるはずだ」

「「マジか!」」


「おまえたち、何をやっている?」


 そこにアレックス(委員長の身体)が通りかかり、3人組に問い詰める。


「アレックスさん、俺たちこの世界の文字って書けるのか?」


 だが、3人組は誤魔化すよりも先に、最大の疑問に思考が行っていた。

それが功を奏する。


「当たり前だろ。

この世界の文字が書けなければ、どうやって現地人に命令書を渡す?」


「「「おおっ!」」」


 3人組が関心する。

そもそも書いてみれば良いだけである。


「アホなことを言っている暇は無い。

そろそろお前たちには前線に出てもらう。

どうやら先遣軍が倒されたようだ。

これは転校生の仕業だろう。

お前たちは奴との接触を避けて、なんとしてでもアーケランド王城を奪還するのだ」


 先遣軍の敗北は、聖女が兵器を失ったことで知ることが出来た。

錬成物の破壊報告と物の記憶が、状況を教えてくれるのだ。

それはこの世界での情報伝達としては最速の部類だった。

アレックスは指揮官に聖女の錬成物――ただのアクセサリー――を持たせ、指揮官が倒されたことをその錬成物の破壊で知るという情報伝達手段を考え出していたのだ。

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