第618話 教国の中枢へ

 竜種たちの力を存分に使い、教国の切り札――魔導砲牽引地竜を退けた。

アーケランド東部国境を侵した教国の軍は、その後呆気なく撃退された。

元々、領民を騙して歩兵としていたため、主だった教国の戦力を討つことで、継戦能力を失ったのだ。


「リュウヤはこのまま領民の処遇と国境整備を頼む」


「ヒロキは?」


「俺はこのまま教国の中央教会に殴り込む」


「だったら俺も……」


 そう口にしたリュウヤは、周囲で途方に暮れる反乱領民たちを目にして躊躇いの表情を見せ、そのまま口籠った。


「領主として、こいつらを何とかしないとならないか」


 そして諦めるようにそう言った。

教国への怒りを押し殺し、領地を治めることを優先したのだ。


「領主だからな。

国境整備には土ゴーレムを置いて行く。

リュウヤは別動軍の侵入も警戒して欲しい」


 ザルだった国境をどうにかしないと、俺の進軍をスルーして背後を突かれかねない。

それを防ぐのもリュウヤの役目だ。


「わかった。

だが、ある程度目途が付いたら追いかけるぞ」


「そうしてくれ。

そうだ、戦車は回収しろよ」


 国境整備は、たぶん数か月から数年の仕事だ。

何もいままでリュウヤが放っておいたわけではない。

前任者の怠慢を地道にカバーしていたのだ。

土ゴーレムの協力で作業が捗ったとしても、時間は掛かってしまう。

気持ちだけ受け取っておこう。


 さて、麗たちさちぽよ&陽菜はどうしよう?

治療は終わったし、危ないし、連れて行く選択肢はない。

このまま温泉拠点に帰らせた方が良いか。


「麗たちは……」


「このままこの城に留まるわ」


「え?」


「また一般市民が動員されたら、真の聖女の威光がいるでしょ?」

「それなら、さちも護衛で残るっしょ」

「緊急避難は陽菜にまっかせて」


 そうか、地竜などの目立つ戦力は、俺が叩きながら進むけど、市民信者は抵抗しなければスルーされる。

俺が進んだ後、また市民信者が導入され、ここが攻撃されたらリュウヤが困るな。

その対策として真の聖女の威光を使えば、市民信者だからこそ無力化出来そうだ。

護衛にさちぽよが残り、いざという時は陽菜の【転移】で逃げられる。


 彼女たちを連れて行くと、どうしても彼女たちの護衛が優先されて俺の負担となる。

それを自ら避けてくれたんだろう。

ありがたいことだ。


「わかった。後は頼む。

T-REXとアロサウルス×2を護衛に残していく」


 こうして俺は、赤龍レッドドラゴン緑龍グリーンドラゴン、火竜、飛竜×2を従えて、空から教国の中枢を目指した。


◇  ◇  ◇


SIDE:教国


 とある部屋に聖騎士の服に鎧を装備した3人の男が集まり、密談をしていた。

そこは教国の中央教会、フラメシア教国の中枢を為す建物の一室だった。


「なんなんだよ、この国は?」

「宗教国家と言うけど、腐り切ってるな」

「お布施って儲かるんだな」

「それを私利私欲に使ったらだめだろ」

「それに、しれっと暗殺集団がいるしな」


 声の主は優斗まさと遥斗はると、翔太の3人だった。

アレックスに支配されている召喚勇者たちだ。


「だが、その暗殺集団も今じゃアレックスの配下だ」

「なあ翔太、俺たちもアレックスに支配されてるよな?」

「だよな、遥斗はると

アレックスの命令には抗えねぇ」


 彼らはアレックスの支配下にありながら、その自覚があるのか?


「(アレックスの)命令には抗えないけど、こうして考える事は自由って何だろな」

「奴が委員長って人の身体を乗っ取ったのを見た。

たぶん、それが原因でスキルが弱まってる」

「新しい身体に馴れる期間がいるってことかもな」

「それよりも、支配する人数が多いと個々の支配が弱まるんじゃね?

最近だろ、支配が弱まったのって」

「「それか!」」


 3人の雑談が真実に迫る。

フィジカルエリートでもトップ選手は頭の出来も違うのだ。


「どうにかして支配から逃れないとな」

「何か手段は無いものか?」

「そういや、聖薬の聖女様って可愛くね?」

「俺もそう思ってた」

「聖女様の薬ならば、支配を解呪できるんじゃね?」

「「それだ!」」


 3人はアレックスの隙を見て、聖薬の聖女と呼ばれる女性との接触を試みることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る