第592話 硝石を奪う

 教国の戦力を全て殲滅した後、俺は鳥の島の扱いに悩むことになった。

火薬の原料として、この島にある硝石は重要な戦略物資だ。

教国は必ず奪還しようと動くはずだった。

つまり、俺たちはこの絶海の孤島を防衛し続けなければならない。

それはこちらの戦力の常駐を意味していた。


 今までの経験から、なんらかの方法で教国に戦闘内容が把握されており、こちらの戦力に対抗する新兵器が齎されているようだ。

今回、教国に知られてしまった戦力は、大型の海棲魔物だろうか。

モササウルスに海竜の他は既出のはずだ。


 彼ら海棲魔物に対抗しようとすると、考えられる兵器は魚雷だろうか。

潜水艦ということもありそうだが、この世界の技術力では量産は不可能だろう。

そこで製造可能と考えられるギリギリの線が魚雷だった。


 ただし、それも火薬という爆発物があっての兵器だ。

鳥の島の硝石を押えたいま、魚雷の量産も防ぐことが出来たはずだ。

高性能火薬という手段もあるが、窒素合成だとかの化学もこの世界にとっては技術的ハードルが高く、実現は無理だろう。

時間があれば出来てしまいそうだが……。

その実現前に教国を叩いてしまえば良いだろう。


 問題は、何らかの方法で手に入れている現物見本と思われるものだ。

対空銃座には部品が精密加工された現物見本と思われるものと、現地製造と思われる一気に質の落ちたものが存在していた。

潜水艦を複数というのは無理っぽいが、魚雷を複数ならば有り得る。

そもそも潜水艦の現物があれば、そこに複数の魚雷が搭載されていてしかるべきだ。


 そんな新兵器の登場に対して、ずっと鳥の島を防衛するというのも非現実的だった。


「メテオストライク以外で、鳥の島をどうにかする方法は無いものか……」


 ここに硝石が無ければ、戦略的価値など無くなるのだ。

こんな孤島に戦力を張り付けている必要もなくなる。

硝石が無ければ……。ん? 硝石を無くす?


「あれをやってみる価値はあるかもな。

出来るだろうか?

まあ、出来なくても損はないよな」


 俺はあるアイデアを思いついた。

それで解決するならば、簡単で良い。

まさか出来るなんてことはないだろうが、やってみよう。


「【収納】」


 俺が試してみたのは、アイテムボックスへの硝石の収納だった。

以前、錬金術と併用して、塩の抽出とアイテムボックスへの収納を同時にやったことがある。

それと同じ考えで、硝石を収納できるのではないかということだ。


 するとどうだろうか、ダメ元でやってみたことが大当たりだった。

俺の収納能力はほぼ無限だった。

どこかに限界はあるのだろうけど、その限界が見えなかった。

そのアイテムボックスに、鳥の島にある全ての硝石が収納されていた。


「やってみて何だが……。

出来るのかよ!」


 俺は魂の叫びを発した。

こんなに簡単に問題が解決するとは……。


 長い年月をかけて鳥の島に堆積し硝石と化していた鳥の糞が、しっかり硝石だけが収納された。

残った糞が硝石となるには、さらなる時間が必要だろう。


「もしかして、俺がこっそり潜入して硝石を収納すれば、戦う必要もなかった?」


 盲点だった。

鳥の島を制圧することしか考えてなかったよ。

教国から硝石を奪う。これが最大の目的だった。

そのための手段は戦うだけではなかったのだ。


「今後は目的と手段をはき違えないようにしよう」


 大いなる反省点だった。

だが、敵の対空銃座や新たな大型帆船を葬ったという価値ある戦いだった。

これら戦力の消失は、今後の戦いに影響を及ぼすだろう。

特に現物が貴重で、量産が難しい物を破壊出来たのは大きい。


「このまま鳥の島は放置で良いな」


 このまま鳥の島を放っておけば、教国が奪還しに来ることだろう。

そして、掘っても掘っても鳥の糞しかないと気付くのにも時間がかかる。

その間、教国は必死になってこの島を防衛しようと戦力を張り付ける。

全て掘りつくした後、硝石が全くないことに気付くのだ。


「島ごと沈めようかと思ったけど、残した方が嫌がらせになる」


 たまにちょっかいを出せば、必死になって防衛するだろう。


「よし、戻るぞ」


 撤退する空母二番艦は拿捕した大型帆船2隻を牽引していた。

大型帆船には、戦いで犠牲になった教国兵の不死者アンデッドを乗せている。

このまま砦跡地まで行って、不死者アンデッドを放出するつもりだ。

ただでは撤退しないぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る