第591話 鳥の島制圧4

「我が行こう」


 トリトンが現状打開のために出撃を志願して来た。

たしかにトリトンが行けば、どうにかなるかもしれない。

だが、それならばいくつか他にもやりようがある。


 1つ目、リヴァイアサンを呼ぶ。

海の魔物の圧倒的な力で敵を蹂躙するのだ。

だが、リヴァイアサンを呼ぶと、水田地帯の魔物たちの抑えが効かなくなる。

あそこの湿地帯と湖周辺は水棲魔物の宝庫であり、その魔物を抑えるためにリヴァイアサンとモササウルスが配置されていた。

使い勝手が良いのと、水中しか抑えが効かないために、モササウルスを便利に使ってしまっているが、元々は稲作を安全に行うためのガーディアンなのだ。

さすがにリヴァイアサンは引き抜けない。


 2つ目、俺がどうにかする。

俺の個の力でどうにかしてしまう。

トリトン出撃もそうだが、俺が飛竜纏で行っても蹂躙は可能だ。

メテオストライク(大)で、鳥の島ごと吹っ飛ばせば簡単に終わる。

仲間たちを危険に晒すことも無く、あっさり終わることだろう。

悩む必要なんか全くない。


 そのはずなのだが、俺にはそれを行うことに、ひっかかりを覚えていた。

あまりにも魔王っぽすぎる。

破壊の惨劇を証拠として、神対魔、正義対悪の構図のプロパガンダに利用されるのではないか?

そんなことで俺は力の行使を躊躇っていた。


 最初は空母があれば楽勝だという驕りがあった。

俺が出て行ってさっさと解決する、そんなことをしなくても勝てる。

そういった舐めた感情があったのは事実だ。

そして今ここに至り、教国に齎される新兵器がエスカレートするのではないかという懸念を持ってしまった。


 空母には航空機やミサイルで対抗してくることが予想される。

だが、メテオストライク(大)という圧倒的力に対抗しようとしたら、何が出て来るというのだ?

核兵器ぐらいしか思い浮かばない。

製造は不可能だろうが、見本品そのものを使われたとしたら、それだけでまずい。

その危険を回避するためには、強大な力で対抗しない方が良さそうだと思ってしまったのだ。


 では、トリトンが蹂躙した場合は何で対抗して来る?

トリトンの海神の使徒という圧倒的な力。

教国にも神が付いているならば、その眷属を呼ばれかねない。

〇神の使徒。嫌な予感しかしない。


「却下!」


 そんなこんなで俺はトリトンの出撃を却下した。

何らかのアクションに対して、教国に新兵器が登場するならば、トリトンの力は見せない方が良い。


 そういやチャリオットに対抗して空中戦車を作ったけど、あれに対して新兵器が出て来るとしたら戦車自体か対戦車ロケット弾だろうか?

設計図があったとしても戦車を製造する技術は無いだろう。

火薬を断てば砲弾を量産出来ないしな。

まあ、致命的な兵器を引き出さないようにしないとな。


 そして、ふり出しに戻る。

俺は熟考を続けた。


「あ、なぜ鳥の島に接近出来ないのか、その条件が変わっているじゃないか!」


 空母の魔導砲をアウトレンジで使おうとすると、大型帆船が迎撃に出て来る。

それが邪魔で直接攻撃を躊躇っていたのだ。


「空母二番艦を鳥の島に接近させる!

敵の魔導砲の射程外からアウトレンジ砲撃を行う!」


 敵の大型帆船は、4隻から2隻に減っている。

しかもそのうちの1隻はモササウルスのカチ上げで航行不能だ。

つまり迎撃に出て来れる大型帆船は対空用帆船1隻だけなのだ。

海中には海竜とモササウルスがいる。

その最後の1隻も海中に張り出した溶岩テーブルの外縁には出て来れないのだ。


「光学観測機両舷展開。

精密射撃術式準備。

魔導砲、上甲板へリフトアップ」


 空母の両舷から光学観測機が展開する。

これによる三角測量で精密射撃を行うのだ。

空母の最大幅は19mある。

つまり幅19mの測距儀といえる。

それぞれ2つの観測機から映像が送られてきて、目の前の画面に映る。

これは港湾都市の岩窟魔導砲に装備された照準装置と同じものだった。


 次に飛行甲板が割れて、デ〇ラー戦闘空母のデ〇ラー砲のように魔導砲がリフトアップして来る。

これは大型化され、更に射程を伸ばした長距離射撃用魔導砲だった。

これで魔導砲の発射準備が完了した。


「目標をAからHと呼称する」


 照準器の中の目標にアルファベットがふられて行く。

AとBが鳥の島対空旋回銃座、CとDが対空用帆船、EからHが鳥の島固定魔導砲だ。


「射程距離に入り次第砲撃する。

第1目標はA、鳥の島対空旋回銃座」


 光学観測機と照準装置により、空母二番艦の進路が変わる。

魔導砲が軸線に固定されているため艦首をふる必要があったのだ。


「射程内に入ったな」


 照準装置の画面内に緑色の光が灯る。

射程に入ったことと、照準が合ったことの印だ。


「発射!」


 長距離射撃用魔導砲が敵のアウトレンジから光の線を放つ。

それが目標に到達し、圧倒的な熱量で水蒸気爆発を起こす。


ドーーーーーーン!


「魔石カートリッジを入れ替えろ!」


 エネルギーを失った魔石が交換される。


「次、目標B、鳥の島対空旋回銃座、発射!」


ドーーーーーーン!


 これで鳥の島の上にある対空旋回銃座は破壊された。

残るは対空用帆船の2基だけ。


「翼竜、出撃!

攻撃開始の合図を待て!」


 翼竜4頭が飛行甲板からホバリングで出撃する。

艦首に魔導砲が出ているため、滑走できなかったからだ。

その間にも魔石カートリッジの交換が終わっている。


「次、目標C、対空用帆船旋回銃座、発射!」


ドーーーーーーン!


「次、目標D、対空用帆船旋回銃座、発射!」


ドーーーーーーン!


「よし、翼竜攻撃開始!

上空から火炎弾攻撃だ!」


 地上の魔導砲も精密射撃で破壊されていく。

対空兵器を失った後、教国の戦力は航空攻撃に弱かった。

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