第590話 鳥の島制圧3

 大型帆船はモササウルスに誘引されて鳥の島から離れつつあった。

しかし、それは旋回銃座を持たない2隻のみだった。

その2隻から爆雷が投射された。

どうやら対空戦用の2隻と対潜戦用の2隻で構成されていたらしい。


 モササウルスを追尾して来た2隻には、爆雷投射用の投石機カタパルトが搭載されていた。

投石機カタパルトは、この世界でも城塞攻略用に使用されており、それを爆雷を投射する目的で装備しているようだ。


「あー、これは地上でも使えてしまうな」


 今までの投石機カタパルトは、文字通り石を投射する目的で使用されていた。

せいぜい可燃物を染み込ませた布を巻いて火をつけた火炎弾が投射される程度だった。

それが爆発物を投射することが出来るようになる。

これは魔法や魔導具に頼らない、新たな攻撃方法だった。

稀有な攻撃魔術師や高価な魔導具に頼らない攻撃、それは戦場の様相を変え得るものだ。

なんとしてでも使用を阻止しなければならない。


「そのためにも火薬の原料の供給を断つ」


 まさにそれが鳥の島を攻略すべき理由だった。


 爆雷攻撃はモササウルスには効かなかった。

教国も大型海棲生物が攻撃して来るとは思っていなかったようだ。

せいぜいマーマンが仮想敵だったのだろう。

モササウルスには効かないだろうという想像力も無いようで、無駄に爆雷を消費していた。


「お告げも万能ではないのだな」


 どうやら、先回りして対処するというわけにはいかないようだ。

マーマンが脅威だったから爆雷を、翼竜が脅威だったから旋回銃座をということなのだろう。

となるとチャリオットは対アーケランドの騎士団用ということだな。

大型帆船も南部港湾国家対策か。

あそこは手漕ぎの商船に大型弩弓バリスタを積んで航海していたらしいからな。

新たな技術には、それで対抗すべき理由があったということか。


 神様ならば、予言的な力で先を見通して対処可能だろう。

だが、これらのことから、お告げ自身が何らかの情報収集の結果に思えて来た。


 無駄に爆雷を投射したせいで、ついに爆雷が尽きたようだ。

2隻の帆船は、モササウルスの追尾を諦めた。

彼らにとっては、モササウルスを鳥の島から遠ざけただけでも戦果なのだろう。


 だが、そこに後方から海竜が襲い掛かる。

帆船の後部は魔導砲も爆雷の投石機カタパルトも向いていない。

旋回銃座装備型の対空用帆船と同様に、後方が弱点だった。

帆に風を受けて推進する仕組み故の欠陥なのだろう。


 2頭の海竜が海面から顔を出し、複数の氷槍を撃つ。

対潜用帆船は2隻同時に攻撃を受けた。

その氷槍が船体とマストにダメージを与える。

慌てて舵を切るが、その旋回速度よりも海竜の動きの方が速い。

こうなると、帆船の側面に装備された魔導砲は照準も付けられない。

いや、よく見ると魔導砲の数が少なく、代用で大型弩弓バリスタが搭載されていた。


 魔導砲に使う素材の禁輸と高騰が効いたな。

教国の財政もいっぱいいっぱいなのだろう。


 ついに帆船2隻はマストを破壊され、航行不能に陥った。

こうなったら魔導砲の照準さえつけられない。

海竜が、斜め方向から魔導砲に氷槍を放つ。

帆船の側面から外へと突き出した魔導砲には向けられない方向だ。

こうして2隻の対潜用帆船は、攻撃手段を失い、無力化された。


「これならば、対空用帆船の方もなんとかなるな」


 1隻は、モササウルスの海中からのカチ上げでダメージを負っている。

対潜用帆船と同様に後方から襲えば、容易に無力化できそうだ。


 そう思ってモササウルスを鳥の島へと戻すと、そこには予想外の展開が待っていた。


「なるほど、鳥の島の魔導砲と連携したか」


 2隻の対空用帆船は、鳥の島に接近して待ち構えていた。

鳥の島には旋回銃座2基と固定砲台としての魔導砲が4基設置されていた。

その射界の中に、守られるように対空用帆船が停泊している。

舷側の魔導砲が使えるように、側面を島の外へと向けている状態だ。

鳥の島付近は水深も浅いので、海中からの突撃も防げる。


「動けない1隻を有効利用するためか」


 機動力で負けていることは理解したのだろう。

ならば動かずに待ち構えれば良い。

元々舷側の魔導砲は、このように停泊して地上を艦砲射撃するためにある。

それらの攻撃力を最大限使えるようにとの配置だった。


「どうやら、出来る指揮官がいるようだな」


 爆雷の運用は馴れていないようだが、魔導砲の運用には長けているようだ。

おそらく南部港湾国家群との戦闘で培った経験なのだろう。


「空からの攻撃は4基の対空銃座で迎撃し、海からの攻撃は複数の魔導砲で迎撃するのか……」


 対空用帆船が停泊していることで、海からの攻撃方向が制限されていた。

鳥の島は、海底火山が海面から顔を出した絶海の孤島だ。

しかし、その周囲の海中には、噴火時の溶岩でテーブルのような浅い張り出しを持っていた。

その上に対空用帆船は位置していた。

つまり、浅い海底からの攻撃は出来ず、溶岩テーブルの上へと外洋から突入せざるを得ない。

まさに、そのルートへと魔導砲は照準されていた。


「くそ、お手上げじゃないか!」


 どのように攻撃しても犠牲を伴うことになる。

後の大きな犠牲を防ぐために、今の小さな犠牲を受け容れるべきなのか……。

翼竜ならば補充はきく。

だが俺は、眷属を消耗品として扱うことに、どうしても抵抗があった。


 まあ、不思議と眷属化していなければ、ただの魔物という認識なんだよな。

食材にも出来るし、ゴブリンやラプトルなんかは捨て駒にも出来た。

その差は、なんらかの魔力的なラインの存在だろう。

そのおかげで視覚共有や念話、そして眷属召喚が出来るのだ。


 眷属化していない翼竜は制御出来ない。

つまり眷属でなければ効率的な攻撃は不可能だ。


 考えろ、何か手は無いのか?

たまご召喚で、新たな眷属を呼ぶか?

たまごショップは眷属化必須だから、用途の違う魔物だった時のダメージが大きい。

どうする? このまま膠着状態なのか?

時間は教国に有利となりかねない。

新たな大型帆船や新兵器が齎されたらどうするというのだ。

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