第589話 鳥の島制圧2

 旋回銃座の見本や量産品がいくつあるかで対応が変って来る。

砦で手に入れた残骸を見る限り、旋回銃座はそう簡単には作れなそうだ。

高レベルの錬金術師やドワーフの鍛冶師に任せたとして、手作業で精密な部品を作れるのだろうか?

そう思うと、量産は出来ていないだろうと思えて来る。


「いや、楽観論で失敗したばかりだろ」


 俺は、この世界の情報伝達の遅さから、教国は航空攻撃に対応できるわけが無いと思い込んでいた。

だが現実には対空旋回銃座が待ち構えていた。

砦に2基配備されていたからには、最低でも2基、それ以上が鳥の島の上にも配備されていることだろう。


 そして、各帆船に1基というところか。

これは楽観論ではなく、これまでに対した教国の大型帆船が持つ構造的特徴による推測だった。

教国の大型帆船の上甲板には、二本のマストと風の魔導具が設置されている。

マストには巨大な帆がついており、それが邪魔となり、船上のほとんどの位置で上空へ向けて魔導砲を撃てないのだ。

となると、旋回銃座の設置場所は船尾か船首の先に限られる。

船尾には風の魔導具が設置されているため、必然的に旋回銃座は船首に設置されることになるのだ。

操船により射界を得るにも好都合だ。


 つまり、旋回銃座は船首に1基しか設置出来ない。

出来たとしても射界が得られずに脅威とならないという判断だった。

しかも後方上空へはマストと帆のせいで撃てないという欠陥があると思われた。

内燃機関を装備したマストの無い新型船が無い限り。


「さすがにそれは無いと思いたいが……」


 見本が丸々手に入るのであれば、それが1隻いるという可能性は捨てられないか。

偵察出来れば良いのだが……。


「さすがにイルカには船の見分けはつかないか……」


 イルカは水中の視力はそれなりだけど、水面から顔を出すと空気中では一気に見えなくなるらしいからな。


「はい。マーマンでも無理ですね」


 マーマンの視力は地上でもそこそこらしいが、旋回銃座なのか魔導砲の砲座なのか、ましてや船の違いなど区別がつくとは思えないそうだ。


「事前偵察をするならば、また高高度偵察になるか」


 だが、今回は島に帆船が4隻もいる。

それらに空母二番艦が捕捉されないためには、鳥の島からある程度離れなければならない。

魔導砲射程距離ギリギリを狙うにしても、教国の船が接近する可能性があり、安全マージンを取らざるを得ない。

そうなると翼竜の航続距離的に厳しくなりそうだった。

ただでさえ高高度へと上がるために航続距離は短くなるのだ。


「まず、機動戦力である帆船を沈めないと、安心して翼竜を出撃させられないな」


 幸い、イルカのライブ偵察により教国の船の位置が掴めている。

鳥の島から教国の船を引き離したところを、先に叩くべきだろう。


「何を囮にする?」


 空母一番艦は砦跡の海域に残して来てしまった。

翼竜は撃たれる可能性があり、囮にするぐらいならば、そのまま攻撃させた方がマシだ。

マーマンやイルカは爆雷攻撃されてしまうと、多少距離があってもダメージを負う。


「トリトンかモササウルスしかいないか」


 トリトンは空母二番艦の指揮官だ。

俺が翼竜やモササウルスのような眷属の攻撃を担っている時はトリトンの責任で空母二番艦を動かすのだ。

つまり消去法でモササウルスが適任だった。

だが、モササウルスは1頭しかいない。


「囮ならばあれを使うか」


 俺はあるアイデアを思い付き、実行することにした。


 ◇


 海中を行くモササウルスの視界は、翼竜のように明瞭ではなかった。

俺が視覚共有で状況判断して命令を出すという、今までのスタイルは捨てるしかない。

モササウルスには作戦目的を伝えて独自に動いてもらうしかない。


 モササウルスの視界に木造船が見えた。

海中から海面を見上げている構図だ。

そこには光る海面に笹の葉状の黒い影として船のシルエットが浮かんでいた。

モササウルスが急浮上する。

その勢いのまま船に体当たりし、船底に牙を剥く。


 そして、モササウルスは海面に背中を出しながら、逃げに入る。

囮の役目に従った行動だ。

教国の大型帆船は、その構造上、進行方向に魔導砲が撃てない。

対空砲座が船首に設置されていると予測しているが、俯角をとると船首自身を撃ってしまう可能性が高い。

つまり魔導砲を撃つならば、必ず砲座のある側面を向けなければならないのだ。

しかし、モササウルスの遊泳速度は速く、その進路も一定ではない。

追いかけて有利なポジションを得ない限り魔導砲を撃てなかった。


「海竜、敵船に威嚇攻撃」


 戦場にはモササウルスの他に海竜が存在した。

これは空母二番艦の動力となっていた4頭のうちの2頭だ。

高速を発揮するには4頭立てが必要だが、教国の帆船の速度に対抗するだけならば、2頭立ての速度でも問題なかった。


 その海竜を分離し、モササウルスの補佐としたのだ。

海竜は首長竜や魚竜と呼ばれるイルカ型の爬虫類ではなく、シードラゴンと呼ばれるファンタジー竜だ。

シーサーペントのような蛇型ではなく、胴長だがしっかり手足のあるタイプだ。

ファンタジー竜なので、魔法まで使える。


 そして、その視力は海中でも海上でも全く違和感がなかった。

物理的な構造を考えると不思議なことなのだが、それがファンタジーなのだ!

攻撃態勢で海面から上半身を出した海竜は、しっかりと教国の船を見据えていた。


「あ、海竜で偵察すれば良かったのか!」


 そこに居たのは新型ではなく普通の大型帆船4隻だった。

しかも予測に反して対空旋回銃座を装備している船は2隻だけだった。

どうやら量産には至らなかったようだ。

まあ、設置位置の予測は当たったんだけどね。


 大型帆船から爆雷が海中に投げ込まれ爆発する。

だが、モササウルスも海竜も、そんなものは効きやしない。


「これはチャンスだ。

モササウルス、囮作戦はやめだ。

海竜と共に海中から沈めてしまえ」


 教国の帆船には爆雷しか海中への攻撃方法が無いようだ。

それが効かないならば、海中から攻撃し放題だ。

海竜の攻撃は海上に顔を出してのブレス攻撃だった。

これは魔導砲により撃たれるリスクがあった。

それが怖かったのだが、旋回銃座が無ければ、急に顔を出した海竜に照準など付けられない。


 とりあえず旋回銃座付きの2隻を葬れば、翼竜も動きやすくなる。

教国の船が居なければ、空母二番艦も鳥の島へと接近できる。

空母にとって、魔導砲を大量装備した帆船こそが脅威だったからだ。

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