第588話 鳥の島制圧1

 教国の砦を占領したが、その維持には一定の戦力を常駐させなければならなかった。

だが、正統アーケランドとしては、この飛び地の維持は負担でしかない。

教国からの奪還軍は、海路と陸路でこの地まで到達することが出来る。


 しかし、こちらは疑似転移を使用して兵を移送しなければならず、その補給も継続しなければならなかった。

それが出来るのは俺だけ。何でも俺がやるわけにもいかない。

陽菜の転移は、使用距離の限界があり、クールタイムがその都度2時間必要になる。

長距離になればなるほど転移回数が増え、クールタイムが蓄積する。

その時間的制約がどう影響するかわからない。

どれだけ維持が難しいかということだった。


「いや、維持する必要はないか」


 この砦を教国が使用出来なくなれば、教国による北の海岸への進出路を閉ざすことが出来る。

それがここを叩いた理由でもある。

だがそれは、占領と同義ではない。

占領維持しなくとも、使用出来なければ良いのだ。

俺は、ここを放棄することに決めた。

かといって、そのまま使用出来る状態で渡す気はない。


「港は土魔法で接岸不能にして、砦は魔導砲で破壊にしてしまおう」


 砦と港が機能しなければ、再占領されたとしても、元の状態に戻すまでに時間がかかる。


 ◇


 2日後。

砦は破壊され残骸が残され、港も跡形もなくなっていた。

砦の残骸は片付けなければ土地の再利用は出来ない。

更地にするよりも手間がかかる事だろう。

港として使用されていた湾は鋭利な岩が海底から突出しており、港湾整備をし直さなければ木造船は座礁してしまう状態になっている。

これで、ここは完全に使用価値が無くなった。


「空母一番艦を警備に残す。

教国の地上部隊と、接近する帆船を叩き、現状を維持せよ」


 空母一番艦は、猫獣人を指揮官として任せる事にした。

あの翼竜の飼育係だった彼だ。

乗組員も獣人中心に変更した。

空母一番艦は獣人の船となった。


 そういえば、旋回銃座の動力として獣人奴隷が使われていた。

彼らを生かしての魔導砲破壊は、味方の損害が大きくなるため諦めざるを得なかった。

奴隷として教国に巻き込まれた立場だが、云わば人質の盾状態だったため、厳しい判断をすることになった。

彼らを助けるために、こちらの仲間が犠牲になるわけにはいかないのだ。


 その現場に獣人たちを残さざるを得ない。

マーマンを残すためには指揮の関係でトリトンを残さなければならない。

トリトンとマーマンは鳥の島攻略に必要だった。

消去法で獣人に任さざるを得なかった。

次に来る教国の軍にも獣人奴隷がいるかもしれない。

それを同じ種族の獣人に対処させなければならないのは心苦しい選択だった。


「獣人は、氏族の間で争うこともあるからさ。

肉親ならば考えるけど、他の氏族ならば問題ない」


 猫獣人がケロっとした表情でそう言う。

気休めかもしれないが、そうなのだと思わせてもらう。


「わかった。

トリトン、俺たちは空母二番艦で鳥の島を叩く」


「鳥の島は、ここから東に向かい、少し南寄りだそうだ。

イルカが先導する」


 よく見ると空母二番艦の前をイルカが泳いでいる。

水先案内をしてくれるらしい。


「よし、出港する!」


「出港! 海竜に餌を与えろ!」


 俺の合図でトリトンが空母二番艦の出港を命じた。

4頭の海竜に餌が与えられ、彼らが泳ぎ出すことで、空母二番艦が推進力を得る。

ミスリルの塊で大質量だが、レビテーションの魔導具で重量軽減がなされている。

その船体を目の前のバーを咥えた4頭の海竜が押して泳ぐのだ。

馬車ならば4頭立てというやつだな。


 空母二番艦はぐんぐん加速し、その速度は教国の大型帆船の5倍以上は出ているだろう。

風任せの帆船と違い、無風だろうが逆風だろうが進めるのが大きなメリットだ。


「イルカからの偵察情報を訊きたい」


「鳥の島には帆船が4隻いるそうだ」


「4隻!」


 こちらの翼竜は休養中の1匹を抜いて4匹しかいない。

もし旋回銃座が帆船に装備されていたら……。


 帆船は新しいものほど魔導砲の数が少ないことが判明している。

どうやら帆船の建造数に魔導砲の数が間に合っていないようだ。

初期の帆船である奴隷船は大量の魔導砲を積んでいたが、あれは例外のようだ。


「古いものが高性能で、新しい物が劣化する……。

もしかして最初のものは見本で、後のものは劣化コピーということか?」


 魔導砲の材料が教国に渡らないように手配したのが効いたのかもしれないが、案外見本品を無償で手に入れていたのかもしれないな。


「となると、旋回銃座も量産出来ていないかもしれない」


 教国が見本を手に入れてから、どのくらいの猶予があったのか?

教国の帆船が航空攻撃に晒されてから2カ月。

どのようにその事実に気付いたのかは不明だが、神のお告げであるならば、その時期にお告げと対応策を手に入れたのだろう。

つまり最大で2カ月間というところだ。


 旋回銃座、量産に至っているのだろうか?

正確な歯車、部品強度、潤滑剤、例え設計図や材料の指定があったとしても、技術的に超えなければならない壁はいくつもある気がする。

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