第587話 砦攻略作戦
闇夜の中を空母が砦へと接近する。
砦の前の港は大型帆船の泊地となっているため、天然の入江を利用した地形になっている。
その岬の先には敵襲を見張るための監視所が設置されていた。
監視所といっても、この世界は大型帆船の技術が教国に独占されている状態なため、灯台に毛が生えた程度でしかない。
その監視所に
「先制攻撃を行う!
魔導砲用意!」
俺の指示でトリトンがマーマンたちに命じて魔導砲が準備される。
空母二番艦の舷側から魔導砲が1門せり出し、砦へと照準をつける。
本来ならば、監視所を先に攻撃して監視の目を潰し、奇襲とするところだが、今回はそうはしない。
なぜならば、空母自体が囮だからだ。
「発射!」
空母に搭載されている魔導砲は、教国の奴隷船から奪った魔導砲を改良したものだ。
その射程と威力は教国のオリジナルを凌駕する。
つまりこちらはアウトレンジで攻撃できると言う事だった。
そのギリギリの距離で空母を進める。
発射された魔導砲は光魔法の光熱線のため、闇夜ではより目立つ光の線を描き砦へと向かう。
その様子を監視所に見せつけてやる。
ドーーーーーン!
魔導砲の砲撃が砦に着弾し、その城塞の壁を構成する岩石を赤く光る溶岩に変える。
そして急激に発生した蒸気が水蒸気爆発を起こし爆発した。
その爆発は溶岩を爆散させ、周囲に被害を齎す。
砦は敵襲を察知して大騒ぎとなる。
そして遅ればせながら、監視所から花火が上がった。
赤1発に、黄色3発。
「よし、監視所から連絡の花火が上がったぞ。
だが、花火を連絡手段にするとは、明らかに誰かの入れ知恵があるな」
教国は火薬を実用化している。
その恩恵として炎色反応の花火を開発したのだろう。
それは闇夜での狼煙の代わりとして有効だった。
この世界、遠距離の高速通信手段が確立されていない。
昼間ならば狼煙が使えるが、夜間はそれに代わるものが無かった。
それを教国は花火という新しい技術で賄っていたのだ。
誰かからそのアイデアを得たということだろう。
しかし、それは俺たちにとっては好都合だった。
せっかくの囮。こちらに目を引いたはずなのに、連絡が行かなかったがために無駄になるなどとならなくて済んだのだ。
魔導砲の直撃で燃え盛る砦の上で、対空銃座が動き始めた。
翼竜の襲撃に備えて仰角の付けられていた魔導砲が、こちらに向きを変え始めたのだ。
対空銃座の横には獣人奴隷がいて、必死にハンドルを回していた。
彼が銃座を動かす動力なのだ。
獣人奴隷はもう1人いて、魔導砲の向きを変えるハンドルを操作している。
「対魔法防御!」
魔導具を発動し、ミスリル製の船体から防御魔法が展開される。
ミスリルが触媒になり、船体から数メートル先に防御魔法の魔法陣が展開されるのだ。
これは教国帆船の魔導砲から空母を守るために装備したものだ。
直撃に耐えられるものではないが、長距離で減衰した光魔法ぐらいは弾くだけの性能は備えている。
つまり、この最大射程の砲撃ならば、耐えられるはずだった。
「砦、発砲!」
見張りになっていた翼竜お世話係の獣人が叫ぶ。
砦の魔導砲が発射されたのだ。
バシン!
射程距離ギリギリで減衰して威力の下がっていた魔導砲が完全に弾かれる。
これで何発撃たれようが、こちらに被害は無い。
「もう1発来ます!」
バシン!
砦の魔導砲が2門だと、高高度偵察で判明している。
その2門ともが砲撃して来たのだ。
「今だ!
翼竜、突入!」
砦後方の森へと進出していた翼竜が、四方八方から一斉に砦へと向かう。
教国の魔導砲には弱点がある。
魔石交換で速やかな連射が効かないことと、対空銃座の動力が獣人の人力なことだ。
空母の狙って仰角を下げ、海へと旋回した状態から、真裏の森へと照準を向けて翼竜を狙うには、時間的な隙を晒すことになったのだ。
予備騎含めた6騎の翼竜が森の上空を低空侵入して、魔導砲へと向かう。
そして砦の直前でポップアップするもの、そのまま突入するもので三次元的に攻撃位置をとった。
教国の魔導砲は、その急な翼竜の出現にどの翼竜にも照準を合わせられなかった。
そして、翼竜が火炎弾を一斉に吐いた。
その全てが2基の魔導砲に当たり、破壊をもたらした。
「よし、魔導砲を破壊したぞ!
翼竜はそのまま砦を空爆しろ。
空母は砦に接近し魔導砲を撃ち込む!
マーマン隊、突入。
モササウルス、港に侵入しろ!」
その後は俺たちのワンサイドゲームだった。
翼竜により主要施設を空爆し、港に設置されていた爆雷も破壊した。
砦の城壁も空母の魔導砲で破壊され、突入口となる大穴が開いていた。
港へと侵入したモササウルスが育児嚢からマーマンを出撃させ、砦を制圧するに至った。
俺たちは、ここに教国の領土占領を果たしたのだ。
ちなみに先に撃墜された翼竜は無事救助することが出来た。
被膜を撃ち抜かれただけで、飛べないが命には別条がなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。