第584話 二番艦

あるじよ。海鳥の島を発見したとの報告がありましたぞ』


 教国の2隻の帆船を沈めてから1カ月が経とうという時、トリトンから海鳥の島発見の報が念話で上がって来た。


 この1カ月間、俺は麗の真女神教の普及や、獣人たちの城塞都市への受け入れ、アーケランドの政務など、忙しく立ち回っていた。

空母も二番艦を建造し、竣工させるに至っている。


『トリトン、直ぐに行く』


 俺は詳しい報告を訊くために空母の翼竜を使った疑似転移を行なった。


「お待ちしておりました。あるじよ」


 トリトンが臣下の礼をする。

それにマーマンたちが見よう見まねで従う。

このように俺が転移して来ることはマーマンたちも慣れていたのだが、まだ礼儀作法というものは身についていなかった。

マーマンはトリトンの配下なので、関係にワンクッションあるのが原因か。

神と崇めるモササウルスを従えていると、俺に対して土下座していたのが嘘のようだ。


「先日の中継地攻略以来か?」


「そうなりますな」


 マーマンたちに補給は必要ない。

海こそ彼らの生活圏なのだから当然だろう。

彼らは魚や甲殻類を捕え、海藻や貝類を取るという狩猟採取で賄えてしまうのだ。

海棲魔物なため、水魔法に優れ、真水も魔法で生成してしてしまう。

なので俺が転移して来るのは、翼竜の世話係の猫獣人用の野菜類などを定期的に補給しに来るに留まっていた。

それがたまたま新たに発見した中継地攻略と重なる事が多かったのだ。


 教国の中継地は、外洋型の大型帆船が補給を必要とする距離で設けられている。

そこに補給物資を備蓄、あるいは水や生鮮食品を現地調達出来るようにしておくのだ。


 その中継地は、北の海岸がリアス式になっているために、その入江の奥に設置されている。

それを発見しては叩くという任務をトリトン指揮する空母は続けて来た。

空母の航続距離は教国の帆船より長いため、中継地の2つに1つは俺が土魔法で使用不能にしている。

これにより、教国の帆船は補給が途絶え、俺が造った港湾都市まで来れなくなるという算段だった。


「報告を聞こうか」


「ははっ。畏まりました。

海鳥の島は、ここから東の海へ出て、東海岸を少し南下した場所から、さらに東に向かった所にありました。

これは、イルカ隊による偵察の結果です」


 イルカのような鯨類は、海中を音波で会話する。

その会話可能距離は、25kmにも達すると言われている。

その会話のリレーにより、遠距離にいるイルカたちにも海鳥の島を探してもらっていたのだそうだ。


「東海岸となると、そこは教国の領土内か」


「教国領ですが、帆船が無ければ到達不可能な孤島です」


 まあ、孤島だからこそ、海鳥は何百年も糞を堆積させたのだろう。

おそらく帆船が実用化されるまでは、人との接触も無かったに違いない。

いや、この世界は海棲人類もいるから、そういった人たちとは接触していたか?


「マーマンたちは知っていたのか?」


「マーマンたちはそのような島には興味がないため、知らなかったそうです」


 島があることは知っていても、利用価値が無かったので無視していたという感じだろうな。


「そこの攻略までは、まだ日数がかかるか」


「そうですな。距離的には1カ月ですかな。

ですが、そのためには教国本土の港を直接抑えなければなりませんので、このままでは手が足りなくなるかと」


 教国本土の港に手を出すとなると、反復的な反撃が予想され、そこに係り切りになってしまうことだろう。

そうなると、海鳥の島に構っているだけの戦力が無くなってしまう。


「そのための空母二番艦だ」


 俺は港湾都市のドックで建造した空母二番艦をアイテムボックスからその場に出した。

アホみたいな容量なのはもうお約束だろう。


「こ、これは!」


 その排水量により、帆船改造空母一番艦が荒波に揺れる。

排水量とは、まさにその船が浮かぶときに押し退けられる水の量を表す。

突然現れた空母二番艦に押し退けられた海水が大波を発生させたわけだ。


「新造艦だから、好きに設計させてもらった」


 それは全通甲板と舷側エレベーターを装備した正規空母だった。

帆船の甲板に格納庫翼竜小屋と発着用甲板を付けたなんちゃって空母一番艦とは明らかに違うものだ。


「動力は、より大型の海竜動力4匹だ。

そして艦内に5匹の翼竜を搭載可能だ」


 ただし、アイテムボックスの制限で、長く生き物は入れておけない。

そのため空母二番艦は空で、海竜や翼竜はこのタイミングで眷属召喚する。


 翼竜が世話係の猫獣人を足に抱えて飛行甲板に降り立つ。

海竜には乗組員のマーマンたちが便乗して疑似転移して来た。

マーマンたちが海中から飛び出して下がっている舷側エレベーターに飛び乗る。

飛行甲板までの高さが帆船改造空母一番艦の倍はあるからだ。


「この船、ミスリルで覆われているのか!」


 木造だと思っているトリトンがそう勘違いする。

重い金属が浮くという概念を持っていないのだ。

この空母、構造材こそ鉄だが、この世界で一番軽い金属のミスリルを多用して建造されている。

ミスリルは魔力が流れ易いため、防御魔法の展開なども可能なのだ。

木造に見えるのは、飛行甲板が木材だからだろう。

だが、その下はしっかりミスリル製だ。


「まあな。

この二番艦をトリトンの旗艦とする。

これで二面作戦も可能だろう?」


「お任せあれ」


「そうだ、援護にモササウルスも呼んで召喚しておく。

いざという時には頼りにしてくれ」


 作戦開始は1カ月後か。

それまで何か準備出来る事は無いか?

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