第583話 一方教国では2
Side:フラメシア教国
ゴーン
どこからともなく鐘の音が響く。
教会には鐘が設置されているものだが、明らかにその鐘の音色ではない。
それは女神様が鳴らすと言われている存在しない鐘。
聖女が神託を得たという奇跡の印だった。
「女神様よりご神託と新兵器を賜りました。
現物も具現化いたしております」
女神像が奉じられた荘厳な祭壇の裏から聖女が現れてそう告げる。
裏には聖女が瞑想する小部屋が設けられているのだ。
「おお! ついに新兵器を賜ったか?」
この聖女は、市井で活動している下位の聖女とはわけが違った。
女神様と交信し、神託と恩寵を賜ることが出来た。
その中でも突き抜けた能力が、女神様から聖遺物を下賜されるといものだった。
これまでもチャリオットから帆船、魔導砲に爆雷などの新兵器を賜わっていた。
それはアーケランドに破れてから始まったことだった。
つまり女神様は、それらを以ってアーケランドに打ち勝ち布教せよと仰っているのだ。
教国は、その準備として密かに侵略を開始していた。
アーケランド貴族への教化浸透、農業国への一揆扇動離反工作、沿岸小国家の制圧による海路の独占、そして北の海岸の領有を
それがゴストロヴィチ大司教の私欲に塗れた行動により、アーケランドの知るところとなってしまっていた。
いや、それを後押ししていたのは、ここに居並ぶ教皇と枢機卿に大司教たちだった。
教国の内部は金欲に塗れて既に腐っていたのだ。
「して、神託の内容は?」
「空と海からの攻撃で北の海が犯され神船が沈む。
異教徒は海鳥の島を奪うだろうとのご神託です」
「なんと、魔導砲搭載船が沈められるとの予言か!」
「海からの攻撃は爆雷で対処せよとのことだったのだな」
「その爆雷の材料が産出する海鳥の島が狙われているのか!」
「あれは要人暗殺にも使える。死守せねばならぬ」
枢機卿の1人が、さらっと危ないことを口にする。
彼らは信仰とは名ばかりの、根っからのテロ集団だった。
いや、布教のためなら殺しも厭わない、ある意味根っからの殉教者なのかもしれない。
それが一番質が悪いのだが……。
「いや、それよりも空からの攻撃だと?」
「それは大鷲や空を飛ぶ竜種であろう」
「それらの飛翔速度では、魔導砲も当たらぬぞ」
「当てるも何も、空に向けられぬではないか!」
「あれは重すぎて簡単には動かせないからな」
「その空の脅威に対するための新兵器です」
聖女が現物を賜わったという新兵器をこの場に出す。
それは球形の入れ物に入っていた。
そう、それは日本人ならばよく知っているガチャのカプセルだった。
祭壇の裏に帆船の現物がそのまま出現するなどという無謀なことはなされない。
カプセルに入れられ、それ相応の場所で出すように、その大きさは聖女に告げられている。
さすがに女神様も聖女も出す場所は弁えているのだ。
そのカプセルが開かれると、そのサイズからは想像もつかない大きさの物体が出現する。
それは完全に物理法則を無視した光景だが、アイテムボックスという魔法の恩恵に預かっているこの世界の者にとっては有り触れた現象で、誰も不思議と思っていない。
「なんだね、それは?」
だが、そこから出て来た物体に関しては、この世界の者には理解の外だった。
「旋回銃座です。
この上に魔導砲を載せて大空の的を狙うのです」
それは座面が旋回する銃座だった。
その中心に魔導砲を載せ、素早く
「ここを回すと左右に旋回し、ここを回すと魔導砲に仰角と俯角が付けられます」
聖女は、何やら紙を手にしており、そこに書かれた説明書を読んでいるようだった。
それは日本語で書かれていた。
この聖女、日本人だった。
過去の召喚勇者なのだろうか?
ならば彼女は、勇者排斥論の教国に、存在してはならない人物だった。
「それを使って空からの攻撃に対処せよということか」
「人力で動かせるのか?」
「そこは力の強い奴隷にやらせればよい」
「その仕組み、量産は可能なのか?」
「また詳細な設計図が付いているのであろう?」
「こちらを」
聖女が示したのは、詳細な部品の設計図とその組み立て図だった。
これならば鍛冶師や錬金術師を使って再現させることが出来るだろう。
さすがに女神様も現物を大量に下賜してくださるわけではなかった。
見本となる現物と、設計図により新兵器は齎されるのが通例だった。
「直ぐに手配せよ!」
「量産し、帆船の防空能力を強化するのだ」
「今回は、時間がないそうです。
だからあと4つ、現物を賜りました」
だが、今回は例外で全部で5つの旋回銃座が齎されていた。
幾分聖女がやつれて見えるのは気のせいだろうか?
「なんと、女神様に感謝を!」
その滅多にない女神様のご厚意に、教皇と枢機卿、大司教たちは女神様に感謝の祈りを捧げるのだった。
「(ったく、このおバカさんたちを御するのも大変だわ)」
何やら聖女らしくない小言が聞こえたのは気のせいだろうか?
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