第582話 現場検証2

 火薬の存在は、帆船や魔導砲以上に厄介だった。

手軽に使用できて、被害が大きい。

狂信者の自爆テロにうってつけ。

尤も、自爆ならば教国信者の命を犠牲にしなければならないが、もし時限発火装置という概念まで齎されていたら、爆弾テロし放題になってしまう。

あ、仕掛けた爆薬に火魔法を当てるという手段が使われるかもしれない。

これはまずいぞ。


 帆船の中を調べたが、爆雷と思われる樽は、自爆に使用されたものと、もう1個しか存在していなかった。

マーマンの襲撃に対抗して、使用しようと保管庫から出されたものが、咄嗟に自爆に使用されたようだ。

もう1個は誘爆を免れ、そのまま保管庫の中で発見されている。


 その保管庫は厳重な扉によって隔離されており、事故がないようにと耐火仕様となっていたようだ。

おそらく沈んだ帆船にも同様の保管庫が存在していて、それが魔導砲直撃で誘爆して沈んだものと思われる。

いや、そうなるように保管庫を狙って魔導砲を撃ったのだろう。


 俺たちが丸焼けにした帆船は、距離があって減衰したとはいえ、強化された魔導砲の直撃を何発も耐えていた。

それが魔導砲1発で沈むのが、そもそも不思議だったのだ。

その原因こそ、爆雷の誘爆だったのだろう。


 まあ、威力がありすぎると貫通してしまい、被害が少なくなるという話もある。

魔導砲は威力を減らした方が、表面へダメージが集中するのかもしれない。

木造船だから、多少穴が開いても木の浮力で浮いているからな。


 元々、教国での運用では魔導砲は地上攻撃を想定したものだった。

自分たち以外に帆船を使用する敵はいないという前提だからだ。

地上攻撃と考えると、魔導砲は一極集中で強力なものよりも、広範囲にそれなりの被害を齎すものの方が効果的なのかもしれない。

艦砲射撃は、爆発して広範囲を破壊するから有効なのだ。


 そんな船を沈められるほどの爆発物が存在する。

もし、それが地上で使用されたら、この世界の戦争が変ってしまう。

だが、爆雷は1隻に付き2個だったと思われる。

つまり、まだ量産出来るほどの状態ではないのかもしれない。


 見た限り、爆雷は黒色火薬製のようだ。

TNT火薬のような化学合成品でないのが救いだろう。

黒色火薬の材料は、硝石、炭、硫黄だ。

炭は製法を理解していれ簡単に作れるし、この世界にも木炭が存在する。

硫黄も火山地帯を探せば手に入るだろう。


 だが硝石は、よく共同便所の土を掘って手に入れるなどという話を聞くが、その埋蔵量には限りがあるはずだ。

硝石を量産するためには意図して原料を埋めて、計画的に製造しなければならない。

それには年月がかかるはず。


 原料に関しては他の方の作品を参照して欲しい。

おぞましい内容なので省略させてもらう。


「地球では、海鳥の宿営地になっていた島から手に入れたんだっけ?」


 何百年もの糞の堆積で大量の硝石やリンが手に入ったらしい。

そんな島が、この世界にもあるとして、それを手に入れるには……。


「大型の帆船により外洋を探査する必要があったのか!」


 どうやら、火薬と帆船の存在は繋がっていたようだ。

この世界、翼竜や飛竜という鳥よりも巨大な飛行魔物がいる。

その糞の堆積だったら、もっと大量に手に入るのかもしれない。


 いや、巨大な飛行魔物はこの世界の者にとっては重大な脅威だ。

確実に身を護る術が無い限り、手を出すことは不可能だろう。

魔導砲が対空戦闘を想定していないのは、そんな飛行魔物を相手にしようとしていないからだろう。

海鳥の島を発見するだけで充分ということか。


 ならば、その海鳥の島を教国の手から奪うことが戦略的に必須となる。

火薬の材料を奪うことで、火薬を製造出来なくさせるのだ。


「海鳥の島というと、南の島(北半球のね)だよな」


 俺たちが行動範囲としているのはこの惑星の北半球にある大陸、その北海岸だ。

つまり、海鳥の島は、教国のある東海岸か、農業国のある南海岸の方だということだろう。


「トリトン、この樽を海中で爆発させると、海の生き物が大量に死ぬ。

それを防ぐために、材料を断つ必要がある」


「あの火炎爆裂を起こした兵器ですな。

なるほど、あの爆発が海中で起こっては、音によっても被害が出るでしょう」


 この世界の人たちにも爆発という概念があった。

それは火魔法に爆裂魔法が存在するからだ。

俺が爆発と言っても通じたのは、その知識と自動翻訳が上手くリンクしたからだろう。


「その爆発する粉を火薬という。

その原料が海鳥の住む島で採取されているはずだ。

鳥の糞で真っ白になっている島だ。

そして教国の帆船が頻繁に立ち寄っているはずだ。

トリトン、マーマンやイルカたちに、その海鳥の住む孤島が無いか訊ねてくれ。

彼らが知らなかったら、探し出して欲しい。

あれは製造を絶たなければならない悪魔の兵器なのだ」


 竜種のチャリオットどころの脅威ではない。

信者に持ち運ばせて、重要拠点に突入させてドカンだ。

街道に埋めて、そこを通ったところでドカンともやれる。

爆発物という存在すら想定していないものを使われたのでは、国の重要人物の暗殺まで簡単に出来てしまう。

この世界の者たちには、魔法攻撃は警戒していても、そんなテロを警戒するという意識すら無いからな。


 発展形として銃でも作られたら最悪だ。

この世界でも魔法や魔導具により、銃に近いことは行える。

俺のメテオストライク(極小)も銃の一種と考えることが出来る。

だが、そんな魔導具を持てたり、魔法で弾丸を打ち出すことが出来るのは、ごく少数の特別な者たちだけだ。


 銃のように、一般人が装備しても効果を発揮できるような兵器は、この世界の戦争の概念を覆す。

騎士がどれだけの修行で、あの剣技を手に入れたか。

魔術師が、どれだけ苦労して魔法を身に着けたか。

それが一般人が引き金を引くだけで倒されてしまう。

子供でも立派な戦士を倒せてしまう。

それが銃の恐ろしさだ。


「銃なんて製造されたら、その存在が記憶に残らないぐらい殲滅するしかない」


 それがこの世界の安定、俺たちの生活の安全のためになる。

生存を脅かされたならば、殺るしかない。

この世界に在ってはならない知識を齎した存在を、どうにかしなければ。

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