第581話 現場検証1

 現場に行きたい。

この目で見て状況を把握したい。

怪我をしたマーマンたちを治してあげなければならない。

その思いが俺の中で膨らむ。

だが、疑似転移では、行った事がある場所にしか眷属を送ることが出来ない。


 そこで考えた転移先が空母の甲板上だった。

そこへは何度も行ったことがある。

そこならば疑似転移可能かと思ったのだが、移動した空母の甲板は同一の場所だとの判定にはならなかった。


 この世界の個々の場所に固有のアドレスがあるとする。

それを認識することで、そこへと疑似転移出来るとすれば、空母の甲板は移動したことでそのアドレスが変わったのだ。

場所のイメージとアドレス、それが揃うことで疑似転移出来るのだろう。


 そのイメージとアドレスが必要ない場所があった。

それは眷属が呼ばれる前に居た場所だった。

そこへは眷属戻しという方法が使えた。

本来ならば、眷属の再召喚にはクールタイムが必要だが、眷属戻しに関しては即時実行することが出来る。


 そして、俺は気付いた。

眷属戻しを帰還に使用していたことを。

行きは遠隔召喚で自分が行ったことのある場所へと疑似転移する。

そこから戻る時にクールタイムを気にしないために眷属戻しを使う。

これが一連の疑似転移の流れだ。


 これを空母に乗っている翼竜に使うとどうなるか?

遠隔召喚で翼竜を空荷で自分の元へと呼ぶ。

その眷属戻しに俺が便乗して戻ると?


「こうして空母まで来れるというわけだ」


 俺は知らない遠隔地への疑似転移の手段を発見した。

ただし、予め眷属をそこまで先行させる必要があった。

眷属をこの大陸のあちこちに派遣しておけば、俺はその場所まで疑似転移できることが判明した。

しかも、眷属に触れる事が出来る人数全員をだ。


 これは他の国には無いアドバンテージになるぞ。

俺のアイテムボックスに入れられるものならば、兵器でも運べるのだ。

みどりさんを現地に呼べば、軍団の疑似転移も可能だ。


「主よ。話がある」


 そんな大発見で有頂天になっていた俺に、トリトンの冷たい声が刺さった。

そうだった。

空母まで転移して来れたことに有頂天になってしまったが、ここへ来た目的は、自爆に巻き込まれたマーマンたちを救うためだったのだ。

トリトンが不満を持って当然だ。


「トリトン、マーマンたちの被害は?

回復薬を持って来た。直ぐに手当を「彼らは即死だった」」


「えっ?」


 その被害は俺の想像を上回るものだった。

魔導砲を撃った指揮官を取り押さえようとしたマーマンは全員亡くなっていた。


「情報収集は必要だろう。

だが、殺さなかった結果がこれだ」


 トリトンが残酷な現実を突き付けて来た。

敵を躊躇いなく殺していれば、あのような行為を止められたかもしれない。

指揮官が持つ情報量から殺せなかったために、隙が出来たということだ。


「今回死んだのは我が配下のマーマンだったが、これが主の仲間たちだったらどうする?」


 そのトリトンの言葉に俺はショックを受けた。

俺に保護され配下となり、トリトンの下につけたマーマンたちだが、俺の中で彼らは仲間たちとは明らかに優先度が違っていた。

あまり知らないマーマンたちの死ぬよりも、仲間が死ぬことの恐怖は何倍にも感じられた。

それは温泉拠点が襲われて実際に死んでしまった仲間の姿がフラッシュバックして来たぐらいだった。

時戻しで蘇らせることが出来たが、あれがもう一度と思っただけで、俺は耐えられなかった。

そして、マーマンたちにそのような感情を持たないエゴも自覚してしまった。


「そうだな。マーマンたちも大事な仲間だ。

このような場所で亡くなったことを残念に思う。

それが俺の甘い判断によるものだったことも自覚した」


「わかってもらえたか」


「ああ、これは戦争だったな。

宣戦布告されたということは、仲間を殺すと言われたも同然。

ならば、相手が参ったと言うまで、躊躇いなく叩くしかない」


「ならば良い。

そうであれば、あいつらも報われる」


 マーマンは魔物扱いだが、半魚人――つまり人なのだ。

家もあり、帰れば家族もいる。

彼らの犠牲を無駄にしないためにも、教国との戦いで躊躇ってはならない。


 今までは魔王化を恐れて人を殺めることに躊躇いがあった。

だが、もう闇落ちの心配は無くなったのだ。

降伏して来て殺さなくて済むならばそれも有りだが、味方が危険な状態で躊躇うことはしない。

俺はそう心に誓った。


「とりあえず、怪しい物はアイテムボックスに収納する。

また爆破されたら困るからな」


「捕虜は甲板に上げて見張っている。

何か動きがあれば「殺せ」」


 俺は躊躇なく捕虜を殺すことを命じた。

そこで躊躇うことで、仲間が死ぬことがあってはならない。

その命令が捕虜に聞こえていれば抑止力にもなる。

それも考慮しての命令だった。


「これか」


 俺は魔導砲甲板に降りて、ある物を発見した。

それは自爆に使われた爆雷と思われる樽だった。

樽からは導火線が出ている。

そこに火をつけ、海に投げ込むことで爆発を起こし、その衝撃波で海棲生物にダメージを与えるものだろう。


「火薬か」


 導火線を弄ると、そこから灰色に近い黒い粉が出て来た。

詳しいわけではないが、市販の花火の火薬に似ている。

火薬まで齎されたとなると、いろいろ面倒事が増える。

教国の狂信者たちは、自爆を厭わない。

悪い意味で火薬との相性が良すぎる。

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