第578話 海の将3

 どんな残念な奴でも受け止める。

そう決意して挑んだのだが、孵った個体は想定の斜め上だった。



眷属 トライデント族 成体(雄) ▲ 槍術 高速水中移動 水魔法 変化                      指揮統率

 特記事項:スケイルメイル、三又矛装備



 そこに現れたのは、既視感しかないアメコミヒーローだった。


「は? トリトン? 双子だったのか?」


「くっ、我を眷属にするだと?

身の程知らずが!

それに、なぜ我が名を知っている!」


 我が名? つまり、こいつもトリトン?

ユニーク個体の名前持ちネームドが2人?


「なぜ我がそこにいる?」


「なんだ、貴様は!」


 暑苦しいアメコミヒーローが渋滞していた。

そこで俺は気付いた。

これはトレーディングカードのダブりのようなものだと。

トリトンというレアカードが2枚ダブってしまったのだ。


 だが、そうなると、たまご召喚の仕組みを認識し直さなければならない。

オトコスキーや不二子さんといった、元魔王軍のユニーク個体もオリジナルではない可能性があった。

彼らもダブるかもしれないのだ。

つまり、それはオリジナルのコピーということだ。


 元魔王軍の個体が卵から孵るなど、おかしな現象だとは思っていた。

ガチャのように卵に入っていたのだろうとは認識していたが、それはオリジナルが召喚されて入れられているものという前提だった。

それがダブる。オリジナルならば有り得ない現象だった。


 だが、それ以上に問題なのは、個々が自身をオリジナルだと思っていることだろう。

いや、もしたまご召喚が女神様――創造神の手によるものならば、オリジナルが2人いるのかもしれない。


「バグか!」


 元々たまご召喚は文字化けスキルだ。

バグっていても不思議ではない。


「貴様、我の真似をして何とする気だ!」


「貴様こそ、偽者であろう!」


 とうとうトリトン2人が相手に掴みかかった。

お互い同じ性格をしているのが厄介だ。


カッ!


「うお、まぶし」


 トリトン2人が触れ合った瞬間、眩い光が発生した。

まさか、あれか、自分のドッペルゲンガーと接触すると消えてしまうというやつ。

もしかすると2人とも平行世界のオリジナルの可能性も。


「なんだ、これは?」


 光が消えた後、そこにはトリトンが1人で佇んでいた。

もう1人は消えてしまったようだ。

いや、1人残って良かったと言うべきか。

そして、周囲を巻き込んでいても不思議ではない危険な状況だった。


 そして、もう1つ判ったことがあった。

女神様の意志により、たまご召喚はご都合主義になっているのだと思っていた。

その時々に必要な個体を優先して召喚させてくれる。

そこには、確率論ではない優遇があると思っていた。

だが、それならば、トリトンが2人ダブるなどという現象は起きない。

そして、コンコンのような残念さんが出るというのも、ご都合主義ですらない。

女神様の悪戯? そのようなことでもなさそうだ。


 よくラノベの設定で神様は現世に直接介入出来ないというのがある。

俺は、そのため女神様がたまご召喚というチートを利用して支援してくれていると思っていた。

だが、そうではないのかもしれない。

ユニーク個体のダブりなど、女神様の支援があるならば、起きようがない。

ご都合主義に見える偶然、あるいは女神様は限定的にしかたまご召喚に介入出来ていないのかもしれない。


「まさか、本当にただの壊れスキルではないだろうな?」


 勇者召喚が、この世界に穴をあけるという話があった。

だから元凶の勇者を殺すことで、その穴を塞ぐのだと。

勇者を殺すと、新たな勇者が呼ばれ、さらに穴が広がるという本末転倒だろうと思うが、穴があくことは誰も否定していない。


 そして、たまご召喚という召喚系の壊れスキル。

どこから召喚しているのか分からない、卵とその中身。

オリジナルなのか、コピーなのか、平行世界からの召喚なのか、何れにしろこの世界に影響を与えているに違いない。

女神様ならば、そんな存在をどうする?


「あれ? 女神様は、俺を支援するよりも、排斥しようとする?」


 そこで支援されたのが教国で、そのため教国にはこの世界よりも進んだ文明が与えられている?


「あれ? 俺が世界の敵?」


【ユニーク個体、トリトンが統合強化されました】


 どうやらトリトン2人は統合されたということのようだ。

だが、このシステム音声も何なんだろう?

この世界の理であるスキルやステータスといったゲームっぽい仕組み。

これは創造神である女神様が意図的に作ったものだろう。


 そのシステムに則った措置が行われたということは、これも既定路線なのか?

俺が世界の敵ならば、このシステムから排除するべきだろう。

そうではないということは、俺の取り越し苦労ということなのかもしれない。

むしろトリトンが強化されて手助けされたような気もする。


 海神の使徒であるトリトンも、教国はバチ当たり国家で女神様を信仰していないと言っていた。

そうだ、そんな教国を女神様が支援するわけがないのだ。

良かった。俺は女神様に敵視されていない。

そもそも俺は女神の使徒ではないか。

思考が変な方向に行ってしまったが、そんなことはあるはずが無かったのだ。


「結果オーライ。

トリトンが強化されたのだから良かったとしよう」


 それが女神様の意図だったのかもしれないな。

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