第574話 中継所発見
空母にここから東にあるはずの教国の中継地へ向けて出航してもらった。
レビテーションとサメ推進で通常の帆船よりも高速で航行できるが、そこまでの航海は1週間以上かかる予定だ。
船員の
しかも帆船の航行は風任せな部分がある。
風の魔導具を装備しているとはいえ、自然の風が使えるならば、当然それを利用するためだ。
常に魔導具を使用するには使用魔石が高額すぎるのだ。
結果、距離に対して航海時間が決まるわけではなく、お客さん状態の
中継地が必要な理由は、主に補給にある。
長距離を航海する最大の障害は、食糧や水の補給だ。
船という限られた空間にそれらを積んで、未開の地に進出する場合、積載量で往復分の距離しか進むことは出来ない。
略奪しながら進むなどの反則技はあるが、それでは探索船が全滅なんてことになりかねない。
そうなると、必然的に物資集積所となる中継地が必要になるのだ。
その中継地で食糧と水が確保されれば有難い。
日本の歴史で、黒船が来航して開港を迫ったのも、そういった用途の港が欲しかったのだ。
つまり、なんとなくではあるが、隣の中継地の漠然とした位置は推測できる。
奴隷が死なない程度に食糧と水を与えつつ、到達できる距離。
そこが隣の中継地の位置だ。
それが帆船では風の魔導具を使っても天候に左右されて航海日数が定まらない。
その点、サメ動力は距離とサメ魔物の泳力により航海日数が予測できる。
だがその距離が前記の理由により把握出来なかったのだ。
そのため、他の業務に専念しなければならない俺は、乗船せずに空母を見送ったのだ。
空母には俺の眷属の翼竜が乗っている。
その視界を共有することで、日々の進捗は確認できる。
◇
それから数日後、その日の進捗を訊ねた後の夜中、空母の翼竜から緊急呼び出しのノックが入った。
俺は不機嫌になった嫁に謝罪しつつ、翼竜と視覚共有する。
するとそこには、毎度のことだが翼竜の世話係の猫獣人が居た。
船にとって猫は守り神らしく、猫獣人はマーマンにも歓迎される人選だった。
猫は魚が大好物かと思うだろうが、意外な事に魚を食べたことの無い猫は魚に興味を示さないそうだ。
某アニメの主題歌が猫に間違った印象を与えていたというわけだ。
なのでマーマンと猫獣人は良好な関係を築けている。
そのマーマンが日々の進捗報告でも出て来なかった。
この緊急事態と思われる状況でも居ない。
空母の責任者はマーマンだが、マーマンは翼竜が苦手なため、出て来ていなかったのだ。
ここにこそ
まあ、あの聞き取りにくい会話も疲れるので、それはそれで歓迎している。
こちらから繋がった事を翼竜が頷くことで猫獣人に伝える。
『繋がったかにゃ?』
翼竜に頷かせる。
すると猫獣人も繋がったことが確信できたのだろう、そのまま一方的に話し始めた。
尤も、こちらから声を伝える手段がないので、それはそれで仕方ないことだったが。
『マーマンの代わりに報告するにゃ。
先程、陸地の光を確認したにゃ。
教国の中継地だと思われるにゃ。
マーマンが夜襲を仕掛けると言って出て行ったにゃ』
中継地を発見したのは良い。
だが、夜襲だと?
ああ、マーマンも奴隷狩りにあって教国を恨んでいたか。
その怒りで逸って先走ってしまったのだろう。
「どうしたの?」
俺が渋い顔をしていたのだろう。
結衣と瞳美ちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。
今夜は3人でお愉しみかってうるさいわ。
「空母が中継地を発見した。
だけど夜だからと、マーマンが夜襲に出てしまったようだ」
「まだどんな相手が待ち構えているか判らないのに?」
「そう。いや、マーマンが奴隷化されたのがここかもしれないな。
それならば、地の利があるのかもしれな」
マーマンは船に監禁され運ばれていた時は外が見えていない。
だから、この中継所の位置をマーマンは知らないかった。
だが、中継所の内訳、建物の位置や兵の配置などは知っていたのだろう。
「もう囚われているマーマンや人魚はいないんだよね?」
「それは確認できている」
マーマンと人魚を配下にした時に、救出が必要な仲間がいれば助けるつもりだった。
そのため、マーマンの氏族全てに行方不明や誘拐の有無を訊ねたのだ。
だが、それらは帆船から助けた者たちで全員だった。
「だから、こうなったら積極的に援護しようと思う」
「そうなんだ」
当事者以外が巻き込まれる、それを俺たちは嫌う。
覚悟が足りないのだろうな。
「防衛に何が待っているかわからないからしょうがないよ」
俺は翼竜に地上施設の破壊を命じた。
その混乱に乗じてマーマンが突入すれば被害も減らせて効果も上がるだろう。
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