第573話 空母の運用

 空母を運用するために、乗組員を育てなければならなかった。

不死者アンデッド化した教国の船員たちは、帆船を動かす知識を身体で覚えていたが、それを他者に伝えるだけの知能が無かった。


 唯一知能が残されたのが、バンパイア化したドナートヴィチ伯爵奴隷商だった。

だが、彼は船乗りとしてはお客さんだったため、操船知識が全く無かった。

しかもバンパイアは海を渡れない――というか嫌い――という弱点があった。


 つまり船長が他にいたのだが、彼は不死者アンデッドの1人として紛れていた。

見た目が一般船員と同じだったからだ。

ドナートヴィチ伯爵奴隷商が船長だと指差した先を見て俺は頭を抱えた。


不死者アンデッド化が、こんな感じだとよく把握してなかった。

奴隷船を運用しようと思ったら、船長は生かしておくべきだったな」


 まあ、オスカルが斬っちゃったんだけど、今さら怒るわけにもいかない。

あれはあの時点で終わったことだ。


 獣人たちに不死者アンデッド化した船員の動きを真似してもらうことにした。

それぐらいしかやり様が無かったのだ。


 だが、それも失敗した。

不死者アンデッドの船員たちは、帆のある帆船の運用は知っていたが、帆が無くなり、サメ動力で動く船など、その経験に無かったからだ。

ボートは漕げるが、空母を動かすことは出来なかった。

新しいことに対応できない、それも不死者アンデッドの特徴だった。


「航海術ぐらいは……」


 船長にそれを伝える知能がなかった。


「詰んだ……」


 俺が教えられるのは、舵の動かし方とか、サメの扱いぐらいのもの。

空母が動きはするが、戦闘機動が出来る状態にはならない。

さらに船というものは、その大きさ自重から、惰性で動き続ける。

それを加味した操船が要求されるのだ。

それは感覚として身に付けなければならない、熟練の技だった。


「船乗りとしての経験値は偉大だった」


 それをおバカ不死者アンデッドにしてしまった。

失ったものは大きかった。


「グギギ、オタチガヤドゥ


 そう言って来たのはマーマンたちだった。

彼らは船を持たないが、物資輸送に海洋生物を使役しているのだそうだ。

それが操船に近いらしい。

航海術など産まれながらに本能で会得している。

正に海の申し子たちだ。


「フニスイウホディイ」


 マーマンたちが地上で活動するためには一定時間毎に水浴びが必要だった。

その水槽を用意して欲しいということだった。

それぐらい雑作も無い。


「用意しよう」


「ヨグデクリュウワイ、ワムリ」


 マーマンたちは翼竜の捕食対象だった。

野生の翼竜は海岸の崖から海の獲物を狙う。

その獲物の1つがマーマンであり人魚だった。

そりゃ翼竜が怖いわ。


「わかった。翼竜の世話は獣人乗組員にさせる」


 俺の眷属になった翼竜たちは、使役中でなければ、勝手に飛んで行って獲物を狩って食事をする。

だが、空母に乗せた翼竜は、生活の一切を世話してもらわなければならない。

大海原に進出して、勝手に餌狩りなどして体力を消耗してもらっては困るからだ。

作戦には航続距離が大きく影響する。

それが狩りにより消耗して定まらないのでは問題なのだ。

翼竜には万全の体制で出撃してもらわなければならない。


 勝手に狩らせて、乗組員のマーマンが食われでもしたら困るしな。


「そうだ、船長にはこれを渡しておく」


 マーマンの代表を船長に任命し、変化の魔導具を渡した。

見た目だけでも人化してもらうためだ。

友好国の救援に行って、魔物だと敵対されたら目も当てられない。

それは回避しておくべきだろう。


 こうして空母がなんとか運用出来るようになった。

翼竜も船と見立てた岩礁を攻撃する訓練をしたところ、地上攻撃に慣れていたおかげか難なくこなした。


 教国の帆船が撃って来ない距離で翼竜を飛ばして敵船を沈める。

これが空母の運用パターンとなる。


「その敵船はどうやって見つけるのですか?」


 翼竜担当の獣人が、疑問を投げかけて来た。

言われてみればその通りだ。


 こちらの船上から敵船を発見する=相手からも発見されるということ。

いや、マストが無い空母の方が、見通せる距離が短い。

敵船はマストの上の見張りが遠目スキルなどを使って来るのだ。

空母にマストが無い弊害がここに出てしまった。


「オ、イルカツウ。

ウミノナドゥ


 なるほど、マーマンが使役しているイルカが海の中から偵察してくれるのか。

しかも帆船の航行ノイズを拾ったり、音波をソナーのように使って発見できる。

その偵察内容は音波によって海中を伝わると。

音は空中よりも水中の方が伝わり易いって言うしな。

鯨なんか何十kmも彼方の相手と会話すると言うし。

それならば、水平線の彼方からでも伝わるな。


「イルカは何頭使役できる?」


 偵察機は多ければ多いほど良い。

その偵察の隙間に敵が居てやられたのがミッドウエイだ。

たまたま発艦が送れた偵察機の担当海域に敵が居たなんて、そんな不幸滅多にないだろう。

それを回避するには、やはり数が必要だ。


「ムニホウコタノム。

ナワバリトオバワガドゥカル


 どうやら使役しているイルカ以外に野生イルカの群にも依頼しておけば報告が入るらしい。

海には餌の関係で群れ毎に縄張りがあり、そこを敵船が通れば報告してもらえるように手配出来るらしい。

つまりイルカの使役数は関係ないということだ。


 これはイルカでなくてもマーマンや人魚でも可能らしい。

予め偵察員を想定戦闘海域に派遣しておけば万全だろう。


「頼むぞ」


 こうして、やっと空母の運用に目途が立ったのだった。

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