第571話 奴隷船改造2

 トライアンドエラーもまた楽しいのが生産だよね。

結衣たちに見られたらまたお小言だけど、ここは北の海岸だからね。

失敗も楽しみつつ伸び伸びとやらせてもらっている。


 これまで風の魔導具ばかりを使っていたのには訳がある。

見本となる魔導具があったことはもちろんだけど、実はスキル上限のせいで、俺には使えない属性魔法がいくつかあるのだ。


 この世界には地水火風木闇光の曜日がある。

地を土と言い換えれば、これら曜日が魔法属性に該当する。

俺が使える属性魔法は、土魔法、闇魔法、光魔法、氷魔法、雷魔法になる。

氷魔法は水魔法からの派生、雷魔法も風魔法からの派生だという。

レビテーションは浮遊魔法で、これは無属性に分類されるらしい。

召喚魔法の時空系とか、属性魔法から外れた魔法も多々ある。


 レビテーションは浮遊魔法だが重力魔法の一種に該当し、俺が使えたからこそ付与出来たのだ。

メテオストライクは土魔法と重力魔法、そして召喚魔法の複合魔法らしい。

これら上位の魔法スキルを手に入れた時、スキル上限があるために泣く泣く手放した魔法が俺にはあった。

それは基本的な属性魔法である、水、火、風魔法だった。


 土魔法は、建築や錬金術に必要なため手放せなかった。

だが、他は纏によって補完出来てしまうので、無くても良いと捨ててしまっていたのだ。

レッドドラゴンを纏うと火魔法や風魔法が使えるのだ。

そして、水棲の魔物を部分纏すれば水魔法も使える。

俺自身がその属性スキルを持っている必要が無かった、というのが基本的な属性魔法を俺が持っていない理由だ。


 だが、ここで問題が発生した。

陣魔法と魔法付与の存在だ。

陣魔法で魔法回路を書き、それを魔導具のコアに付与する。

そうやって魔導具は作る。

その魔法回路は、俺が使える、いや知っている魔法しか付与出来なかったのだ。


 風の魔導具を作っているのだから、風魔法は付与出来ているだろって?

それは風の魔導具の実物を手に入れたため、そのまま風魔法部分をコピーしただけなのだ。

その制御系などは手を加えたが、風魔法の魔法陣はそのままコピーしたのだ。

火魔法の魔法陣も魔導砲からコピーしたため、使うことが出来る。


 だが、水魔法だけは見本が無く魔法付与出来ないのだ。

ウオータージェット推進は俺も考えた。

だが、水魔法が生活魔法の飲み水程度では、出力不足で意味がなかったのだ。


 そして、今から水魔法のスキルを手に入れても、レベルが低ければ意味がない。

ウオーターボール、ウオーターカッター、ウオーターウォール、そんな水では船は動かない。

範囲攻撃魔法の大瀑布落下ウオーターフォールとかの戦術級魔法が必要になるだろう。

つまり水魔法の自力付与は無理だったのだ。


 困った。どうやれば推進力を発生させる魔導具が作れる?


「いや、待て。

推進力が魔導具でなければならないと誰が言った?

その魔法を使える者が関与すれば良いのでは?

たとえば、水棲魔物とか」


 水棲魔物は水中生活に特化している。

その水魔法は上級レベルだ。


「彼らに水魔法を使ってウオータージェットを実現してもらうのだ!」


 とりあえずマーマンたちにやってもらおうか。

いや、それは奴隷に櫂を漕がせるのと同じ苦役となることだろう。

船1隻を動かしても苦にならない、大きな魔物でないと悪い気がする。


「ならば、モササウルスに……」


 その光景を想像して、俺は「無いな」と思ってしまった。

モササウルスの背中に奴隷船が乗っかっている絵が脳裏に浮かんでしまったのだ。

ウオータージェットではなく、モササウルスが船を運べば良いだけだったのだ。

そもそも、それならばモササウルスに水中から教国の帆船を沈めて貰えば良い。


「あれ? 水上船って要るか?」


 船対船の砲の撃ち合いは男のロマンだが、そもそも翼竜に爆撃させたり、モササウルスに水中から攻撃させれば楽に勝てる。

翼竜は航続距離の問題があるが、この海岸地帯を防衛するだけならば問題ない。

岩窟要塞の魔導砲防衛システムもあるし、モササウルスも頑張ってくれることだろう。


 どうやら、船を修理しても、ただの物を運搬する輸送船にしか成りそうもない。

戦う船など要らなかったんだ。

推進力はサメの魔物2匹の遊泳力で良い。

船底に設けた2本のパイプの中で手すりを咥えて泳いでもらうだけだ。

その水魔法も使った遊泳力でウオータージェットが発生した。

図らずも、当初の目的が達成された瞬間だった。


 サメの魔物には充分な餌を与えることにした。

喜んで泳いでくれることになった。

けして苦役を課しているのではないのだ。


「出航!」


 完成した船は、マストの無い船だった。

出航の合図で、特殊な筒から餌がパイプ内のサメの魔物に与えられる。

その餌が合図となって、サメの魔物が泳ぎ出す。

その泳ぐ力と水魔法が水流を発生させ、ウオータージェットとなる。

それが推進力となって船を動かす。

そして、その航跡はサメの魔物に与えた餌の血により赤く染まったという。


「技術力の敗北……」


 俺は悔し涙を流すしかなかった。

レビテーションで重量軽減しているとはいえ、サメの魔物に引かれた船、それは馬に引かれた馬車と技術的には何も変わらなかったのだ。


 だが、この船には最新の装備があった。

改造魔導砲のことではない。

マストが無くなり甲板上がフラットに出来たため、そこに翼竜を2匹搭載したのだ。

この船は世界初の空母になったのだ。

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