第570話 奴隷船改造1
四カ国首脳会議の開催を待っていたのだが、事前会議が思った以上に難航していた。
事前会議を担当している各国の外務大臣級、そしてその会議の内容を本国に伝える人物、本国の意見をまた戻す人物、その間のなんらかの場所に教国の息のかかった女神教の信者が隠れていて、サボタージュや情報攪乱をしていたのだ。
この世界、女神様を信仰している人物がほとんどだ。
他の神様を信仰しているという者たちも、多神教なので女神様も同時に信仰しているという感じだ。
一般的に女神様と称されるのは創造の女神のことになる。
他にも女神がいるのだが、そちらは美の女神といったように、必ず役職で呼ばれる。
そのため女神様と言えば、創造の女神一択なのだ。
そんな女神様を祭る総本山が女神教だった。
教国をいかがわしく思っていても、女神教が前面に出て来ると、間違った対応をしてしまう者が出て来るのがこの世界だった。
農業国は既に被害を受けたために、教国打倒に燃えている。
俺もリュウヤが嫁のクララを洗脳された件、獣人たちの奴隷化の件、その後の一揆を見て教国を敵視している。
だが、アーケランドという国となると、単純にはいかなかった。
内部には女神教信者が多数いる。
その連中は女神教がテロリストを扇動したという事実を信じない。
ここにこの世界の情報伝達の遅さや不正確さが出てしまっていた。
デマや情報攪乱が通じてしまう、それがこの世界だった。
皇国はアーケランドと敵対していたために、敵の敵である教国をそこまで悪く思っていなかった。
教国も教国で、皇国には悪い顔を見せないのだ。
それは
皇国には一揆の件の一部始終を目撃しているサダヒサに説得してもらっている。
それでも余計な時間がかかるのは仕方が無かった。
教国に時間を与えると、何か余計なものを造りそうな気がするが、今ある情報で対処していくしかない。
◇
北の海岸に港と乾ドックが完成した。
これで奴隷船を改造できる。
奴隷船は2本のマストを斬り落とされているのと、それが倒れた時の舷側の損傷ぐらいのもので、修理すれば充分に使える。
もう1隻の燃えた帆船は船の構造を知るために分解させてもらう。
そのために2隻を同じドックに引き入れてドックゲートを閉めた。
2隻の下には船体を支える台――盤木――を設置してあり、水を抜くことでその台の上に船体が固定される。
船底が平らでないならば、船がひっくり返ってしまうからね。
あと、乾ドックは、今後の船の大型化を想定して、大きめに造ってある。
燃えた帆船はバラして構造を解析させてもらった。
これにより、同様の帆船ならば建造が可能になった。
明らかにこの世界には無い技術が使われていた。
現代知識があるからこそ理解出来る技術の塊だった。
「嫌だねぇ。誰だよ、こんなの造ったの」
専門家が召喚されているのか、あるいは実物を召喚するスキル持ちか、それとも神の奇跡か。
そんなことを考えていても不毛なだけだった。
ここは気持ちを切り替えて、奴隷船を改造することにする。
対教国の帆船で戦える船が必要なのだ。
「さて、また生産チートしちゃうか」
俺の錬金術ジョブが(以下略)。
教国が何隻の帆船を持っているかわからないが、たった1隻で戦うには、それなりの性能が必要だ。
教国の魔導砲は魔石の能力不足と魔力回路の無駄で出力が低い。
それでもその直撃は帆船1隻を戦闘不能にするのに充分な性能がある。
同じ性能の船を運用していたら、敵に囲まれた時点で即終わりだろう。
「速度、攻撃力、防御力。
全てを性能向上させないとならないな」
攻撃力は教国製よりも性能向上させた魔導砲で充分だろう。
いや、艦首に必殺の巨大砲を設置するか。
防御力は、船体に魔物素材でも張り付けて魔導砲対策としようかな。
魔導砲は、魔導具の使い切り魔法の杖の拡大版だ。
誰もが使えるが、魔石を消費したらそこで終わりという道具だ。
それを巨大化し魔石交換により、連続使用を可能としたものだ。
元の魔法杖でも、個人では、その魔石がそうそう買えない。
拡大版の魔導砲の魔石は、国ならばなんとか用意出来るという代物だった。
元世界でも、砲弾1発で数十万円とか、ミサイル1発で数億円だった。
魔導砲は、そういった後者の感覚の兵器だと思ってもらいたい。
教国は帆船や魔導砲という秘密兵器を独占していると思っている。
それぐらいこの世界からすると進み過ぎた存在なのだ。
だから、魔導砲で撃つ対象も地上の城塞などの建造物を想定している。
対船戦闘など想定していないために、帆船自体は魔導砲防御がなされていないのだ。
教国の魔導砲は主に火魔法だ。
火に強い魔物の革でも張っておけばある程度防御可能だろう。
魔物素材には魔法耐性だとか火耐性が付いているものが存在する。
元々の魔物の特性が素材に残っているのだ。
そのような素材を使えば、装甲しなくてもどうにかなるものなのだ。
重くなったら機動力に影響する。
鈍重な船など囲まれて終了だ。
あとは速度向上の推進装置か。
それは奴隷を積むために作られた船倉をぶち抜いて設置することにした。
風の魔導具は、戦車で散々使ったので応用が効きそうだ。
レビテーションで船体を軽くするのも有効だろう。
「だが、男のロマンは、この世界初のスクリュー推進だろう。
蒸気機関による外輪船ではなく、スクリュー推進だ!」
そうは思ったが、それは戦車開発で通った道だった。
ピストン運動を回転運動にする仕組みは知っている。
だが、その力を推進軸に伝えるギアの知識に乏しかった。
正直言って、自転車のギアレベルしか解らない。
歯車により回転数を制御するそんなイメージ。
「あれ? それで良いのか」
どうせ木造船レベルだ。
何も最新式のガスタービン護衛艦を造ろうというのではないのだ。
しかもピストンを高速に動かせば自動的に速度も上がる。
一定出力が維持されてこそ、ギアは必要なのだ。
ちょっと待て。
タービンって何だっけ?
羽に蒸気や燃焼ガスを当てて回転運動を得る?
ピストン要らないじゃん。
風車で良いのか。
その回転力でスクリューの推進軸を回す。
風の魔導具が強風を起こし、風車を回す。
その回転が推進軸を回し、軸に繋がっているスクリューを回す。
出力調整は風の強さで行う。
「これだ!」
早速試作品を造った。
風の魔導具、タービン(風車)、その先の推進軸、そしてスクリュー。
スクリューは水槽の中の水に浸かっている。
それらが斜めに直線で並んだものだ。
風の魔導具からの風をタービンに当てると水の抵抗なのか、回り出しが悪い。
「なるほど、回転が充分上がってから繋がないといけないのか」
それがクラッチの仕組みだろう。
クラッチ、作れないわ。無理だったわ。
「パワーで蹂躙する!」
水の抵抗をものともしないパワーで押し通す。
風の魔導具から暴風が発生する。
その暴風はタービンを抜けて周辺に破壊を齎した。
「船内でこの暴風は使えないぞ……」
密閉して煙突に逃がすか。
いや、それだったら蒸気機関とタービンで良いじゃん。
ああ、蒸気機関だと蒸気を止めないと動き続けるのか。
やはりクラッチとかギアが必要だった。
俺の試みは儚くも頓挫してしまったのだった。
他の手を考えるしかない。
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