第569話 戦車製造3

 湿地帯で狩った亀の魔物の甲羅があった。

池に居るような泳ぐタイプの亀が巨大化したような魔物だ。

お肉を美味しくいただいた後の、余った素材を何かに使えるのではとアイテムボックスの肥やしにしていたやつだ。


 魔物素材にはとある特徴がある。

物理法則を無視したように、強靭さと軽さが同居していたりするのだ。

甲羅は砲塔無しの魔導砲を搭載するのに丁度良い大きさでもあった。

加工の手間が省けるし、試作戦車の装甲として申し分ない。


 どうせ試作品なのだ。

デザイン的な問題は置いておいて良いだろう。


 亀の甲羅をよく見ると、前脚と頭、後ろ脚と尻尾は同じ穴から出ている。

これは加工して塞がないと、戦車の弱点になってしまう。

そのため、前脚と頭の間、そして後ろ脚と尻尾の間を、後で推進器を設置するので大きく開けて別素材で装甲した。

風の魔導具によるスラスターは、4つの脚の穴に設置した。

ブレーキ兼バック用に前部に設置する風の魔導具は、開閉式の装甲の中に設置し、前面装甲としての弱点にならないようにした。

その様子はハコガメ風になった。


 戦車は、通常前面装甲を敵に向けて砲撃戦を行うものだ。

最新式戦車は走りながら全周の敵を撃てるようだが、古いタイプは停車して一番装甲の厚い前面を敵に向けて砲を撃ちあう。

時代により運用は変っているかもしれないが、前面に装甲がなくて弱点になるような戦車は少なくとも存在していないだろう。


 後部には推進器としての風の魔導具を3基設置した。

後ろに回られると弱点というのは、戦車の常だろう。

だが、風は穴さえ開いていれば、推進力になる。

格子状の装甲で覆い、直接魔導具が破壊されないようにしておいた。


 甲羅の上部には半埋め込み式で魔導砲を設置した。

魔導砲の後部は甲羅の中だ。

上下に仰角と俯角をつけることが出来るが左右に旋回する砲塔は持たない。

ほぼ直接照準で発射することになるだろう。


 魔導砲は、魔石の魔力をたった1発で消費してしまう。

次弾を撃つためには、魔石を交換する必要があった。

その装填手を外部から守るために半埋め込み式にする必要がある。


 甲羅の中には、装填手の他に操縦手と車長も乗る。


 操縦手は、甲羅に開いたスリットから外を見て戦車を操縦する。

その仕組みは車と同じハンドル、アクセル、ブレーキにした。

重機のようなレバー操作ではなく、ゲームのようなジョイスティックでもない。

そこは俺の判断で造り易くさせてもらった。


 車長用のハッチも甲羅の上面に設置した。

ハッチは乗員の乗り降りにも使用される。

そこから身を乗り出したり頭を出して指揮をとるのが車長の嗜みだろうが、チャリオットや歩兵相手ならば、ハッチは閉めて中に居た方が良い。

車長は射撃手を兼ねているため、その照準装置から外を伺えば良いのだ。


 甲羅内部には乗員の椅子と予備弾薬である魔石、そして各種魔導具の燃料となる魔石を格納する棚を設置する。

内部には魔導砲の後部、そして全8基の風の魔導具の後部が突き出ている。

中央にはレビテーション用の魔石設置場所が塔のように立っている。

それぞれ戦闘中にも魔石を交換する必要が生じるため、そうせざるを得なかったのだ。

それでもスペースが余っているので、何か別の事で使えないか後で考えるとしよう。


 ついに試作戦車が完成した。

その姿は低空を這う様に飛ぶ亀。

「ガ〇ラか!」という突っ込みは残念ながら誰からも出て来なかった。

皆、平成のシリーズでも見ていない年代なんだよな。

いや、薔薇咲メグ先生ならば……。


 レビテーションは高度と燃費が比例するため、最低高度をとっている。

その高さは1m。

半浮上でタイヤで動くというのも考えたが、その摩擦力が風の推進力に影響したため、速度重視で完全浮上とした。

レビテーションが省エネでも、風の魔導具で燃費下げたら意味がない。

内燃機関ならば、その手も良いかもしれないけど、今回はその開発期間を端折るのも目的だったからね。


 障害物があればその都度浮上する。

それが弱点でもあった。

脚部分のスラスターに敵の手が届く。

では2mに浮上するか?

そうなると、戦車としての武器でもある蹂躙能力が削がれてしまう。

轢き殺しって戦車の重要な性能の一つなのよね。

キャタピラもないし、浮いている状態で頭の上を通過されても何の脅威でもない。

むしろ弱点の腹を晒して……亀の甲羅なので腹側も装甲充分だった。


 それでも腹の下に入られて、魔法攻撃でもされたら面白くない。

スラスターが攻撃される危険もある。

だから高度1m。それがギリギリの選択だった。


 スラスターや底を守る、そのために採用されたのがスカートだった。

ホバークラフトは、そのスカートにより、浮いていながら地面との隙間を極力埋めている。

上昇用の空気を逃がさないための装備だが、副次的に防御にもなっているのだ。

この世界では、スカートが魔物素材ならば立派な装甲となる。

風も遮断して操縦性に影響が出るが、仕方がない。


 そして、ついに完成した試作戦車の外観は世にも奇妙な物体となっていた。


「試作だからね。

これで問題ない」


 そして、その試作戦車により、運用実験が行われた。

スカート、見た目悪すぎだし、操縦性への影響大。

魔導砲発射は反動で後方要注意。

そして燃費は最悪。

だが、戦闘力はドラゴンに匹敵すると判明した。


「随分高価な玩具を造ったわね?」


 俺は結衣たち嫁ーズのジト目に耐えられなかった。

なぜそこまで怒っている?


「教国がチャリオットなんて持ってるからだよ!

あれを倒すために仕方なかったんだ」


「美しくないわ」


 麗までそんなことを言い出した。

真・女神教の運営を丸投げしたからかな?


「これは試作だから。

正式版はもっと洗練されたデザインになるから」


 俺はこれ幸いと設計図を見せた。

SFに出て来るような未来型の浮上戦車だ。


「いくらかけるつもり?」


 次は錬金術で素材を加工するだけだし、その素材も魔物を狩って手に入れたものだし……。

あれ? 思ったよりも金がかかってないぞ?


「俺しか作業してないから人件費がかかってない。

材料も手持ち素材だし、魔石代ぐらいしかかかってないからね?

それもダンジョンドロップでDPしか使ってないよ」


 詳しく言うと、騎士団に回収させているので、アーケランドが経費を負担している。

つまり我が家の家計には優しいのだ。


「そういえばそうね。

それなら良いか」


 乗り切ったー。

結衣たちが怒りだした時はどうしようかと思ったぞ。


「必要だからって、お嫁さんを放っておいたらダメなんだぞ」


 なるほど、そっちが本命だったか。

俺は作業の合間にいちゃいちゃするように心がけるようにした。


 そしてついに正式戦車が完成した。

未来型の先細りで平たいフォルム。

操縦性に影響するスカートを撤廃し、スラスターに人が近づかないように刃を生やした。

それは動く凶器だった。

魔導砲が無くても体当たりで走竜ごとチャリオットを葬ることが可能だろう。


「また凶悪なものを造ったわね」

「亀さんの方がまだカワイイ」


 裁縫女子に瞳美ちゃんも言いたい放題だった。

上機嫌なのは操縦手になって操縦しまくった紗希ぐらいのものだ。

結衣が文句を言って来ないのは嫁サービスの賜物だろう。


 それが一番大事だったな。

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