第568話 戦車製造2
戦車の車体を浮かせるために【レビテーション】という浮遊魔法を使うことにした。
それが実際に出来るのかという実験を行うことにした。
金属の板に【レビテーション】の魔法陣を付与し、魔石燃料で起動してみる。
これは錬金術、陣魔法、付与魔法のスキルにより実現が可能なので、サクっと実物が完成した。
持っててよかった生産スキル。
複数持てるジョブにも錬金術師をセットしてるし、魔王よりも錬金王と呼んでもらいたいところだ。
試作品が完成し、魔法陣に起動魔力を流すと、金属の板は魔石燃料を使い切るまで空高く飛んで行ってしまった。
「なるほど、物体の質量と魔法の浮遊力のバランス、そして任意の出力調整が必要か」
その後は、単純に魔法出力と浮かす物体の重さのバランスを探ることになった。
人が【レビテーション】を使用する時は、それを感覚的に制御している。
それを魔導具として誰でも使用出来るように制御しなければならなかった。
実物の戦車はもっと重いが、重さとの相関性さえ掴めば、後は計算でなんとかなるだろう。
「魔石により出力が変る!
それはそうか。
魔石の大きさ、元の魔物の種類でも違って来るわな」
市販されているランプや出水の魔導具、コンロなどでは魔石の違いは誤差の範囲だ。
多少出力が違っても、光や炎の強さを調整すれば良いのだ。
水なんて出てくる量が少し違っても誰も気にしやしない。
でも、浮遊という絶妙なバランスを必要とする魔導具では、その差は致命的だった。
「人為的に微調整を加えられるようにするか、オートで出力を調整してしまうかだな」
魔物の種類は、こちらで指定してしまえば良い。
どうせ、大量に手に入るものを使うことになる。
結果、魔法陣に魔力調整回路を追加した。
この出力をいじることで、複数の高度を指定することが可能になった。
乗る人の体重による調整機能も追加した。
一定の高度になったところを記憶させ、それを維持させるようにしたのだ。
戦車も乗員が交代すれば総重量が変化するから、この機能は必須だったな。
「あ、これ未来のスケボーだ」
金属の板は、人が乗った状態で、体重移動することで動いた。
某タイムマシン映画に出て来たやつみたいだ。
「売れる! だが、外に出しても良い技術ではないか」
変に応用されると、危険だった。
何か特殊な兵器に使われる可能性もあるし、単体でも魔術師でもない者が簡単に城壁を越えるなんてことが可能になってしまう。
気を取り直し、戦車の重さを想定して拡大してみる。
どれだけの魔石出力が必要かという見極めだ。
嫌な予感はしていた。
魔導砲だって魔石使い切りだったからな。
その魔導砲用の魔石を使用してみる。
補給する魔石に互換性があった方が有利だからね。
「そこそこ大きな魔石で30分もたないのか……」
「1個でダメならば、魔石を2個積めば良いじゃない」
横で傍観していた紗希が、マリーアントワネットみたいなことを言う。
実はあの有名な台詞、マリーアントワネットではなく、違う伯爵夫人が言ったのに、その罪をマリーアントワネットに擦り付けた説があるんだってね。
閑話休題、話を戻す。
そのそこそこ大きな魔石1個でいくらだと思っている?
明らかに金食い虫のダメ兵器だった。
まあ、その魔石はダンジョンから優先ドロップするようにしてあるんだけれどね。
だが、DPだって有限なんだ。
あの天文学的数字だって、高額ドロップを排出し続ければ、いつかは無くなってしまうのだ。
「くそ、とりあえずはそれで行くしかないか。
1個ずつ使用して、魔力の切れた方から交換するしかない」
それで連続運用が可能だろう。
元世界の戦車だって燃料が切れたら動かなくなるのだ。
それにその魔石は魔導砲の砲弾同然で消耗品なのだ。
次に開発したのは風魔法による推進装置だった。
これは教国の帆船が使っていた風魔法の魔導具の出力改良でいけた。
前後左右にこの魔導具を搭載する。
前はブレーキとバック用、左右は急激な方向転換用だ。
特に後方に向けては複数機搭載して高速移動を可能にする。
推力偏向機をつけて、それだけでも多少進行方向を変えられるようにしておく。
「これは簡単に出来たな。
運転席で集中管理も出来るようにした。
これで感覚的に操縦できるはず」
アクセル、ブレーキ、ハンドル、それらの操縦装置は人類の英知だよね。
「何それ、おもしろそう。
僕にも操縦させてよ」
現段階で、エアカーが出来てしまった。
今は戦車を想定した重量の重りが載っているが、それを外してきちんとしたボディを載せれば車としても使えるぞ。
移動が便利になるし、車も造るか……いや、燃料の魔石が金食い虫だったわ。
魔石ではなく、空中の魔素を集めて使えれば、燃料補給が要らなくなるんだけどな。
それが出来れば、この世界も車社会になれる。
だが、そこまでしてしまうと、今度はその車が新たな脅威を招いてしまいかねない。
軍事利用が可能だし、交通事故被害も重大なものになってしまうだろう。
「やはり、身内で使う程度に収めるしかないか」
せっかくの技術チートだけど、この世界に広めるのはやめておこう。
だが、教国の技術を阻止するためには、戦車は必要だろう。
あとはシャーシの強度と装甲、そして魔導砲の搭載だけだ。
技術的に突破しなければならない壁もない。
チャリオットを引く竜種に対抗できる強靭さの見極めが厳しいな。
「竜種の突進に耐える強度か……魔法的な防御手段も考えておくか」
防御を重視すればするほど重くなる。
重くなれば速度も遅くなり、魔石の魔力消費も大きくなる。
その妥協点が難しそうだ。
ちなみに、建築関係で使われている重力軽減魔法は使えない。
重いものを軽くするのにも同様に魔石が必要になるからだ。
むしろ魔力の使用効率は併用の方が悪くなる。
それと重力軽減魔法陣には問題がある。
あれは土地に魔法陣を描いて、その上に効果を齎す固定式なので、動くものをどうこうするようになっていない。
魔法陣が上の重さを地面に軽く伝えると言えば良いだろうか?
その時に柱などの部材の強度にも影響を齎すだけのこと。
動くことを想定したものではないのだ。
いろいろ弊害があるけど、試作品だから、そこはとりあえず形にした後で考えるとしようか。
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お知らせ
建築の重力軽減魔法が使えない理由の記述を加筆しました。
作者はいちいち説明する必要はないと思ったので省略しましたが、どうしても建築の重力軽減魔法を使わないことに納得がいかない方もいるようなので、説明を加えました。
作者としては、今でも必要はないと思っていますが、トラブル回避のための蛇足だと認識してください。
そもそも屋敷建築で重力魔法は使ってないよね?
王国の建物には使ってるかもしれないけど。
その記述もあったかな?
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