第567話 戦車製造1

 温泉拠点まで帰って来て、俺は直ぐに戦車を造ることにした。

戦車を造るにあたって、どの程度の性能が必須なのかは、教国のチャリオットの性能如何にかかっていた。

そのため、捕虜の宣教師から、彼の知り得るチャリオットの情報を引き出した。


 そこで発覚したのが、チャリオットは所謂馬車ではないという事実だった。

まあ、馬車のチャリオットでも歩兵にとっては充分に脅威なのだが、この世界、通称馬車・・を引くのは馬だけではなかった。

馬、馬系魔物、走鳥、走竜、それらが引く車を総称して馬車・・と呼んでいるのだ。


 教国のチャリオットを引くのは走竜だった。

つまり詳しく分類すると竜車だったのだ。


 走竜は荷役用の鈍重な地竜や、そこそこ高速なトカゲ系の1人乗りの種類が良く使われているが、ドラゴン系と恐竜系の竜種は珍しかった。

チャリオットにはそんな走り特化の竜種が使われているという。


 槍狭間や馬防柵でどうにかなる相手ではなかった。

その身は竜鱗や皮甲という装甲に覆われ、パワーもけた違い。

騎馬に対して重量による不利があるチャリオットでも、騎馬以上に俊敏に動けることだろう。

対抗できるのはその同じ竜種による竜騎兵ぐらいだろうか。


 そのような竜種による竜騎兵を部隊単位で備えている軍は、この大陸には無かった。

いったい教国は、どこから竜種を手に入れたのか?

それは宣教師も知らないことだった。

魔導砲といい、帆船といい、その材料の調達能力も異常だった。


 馬と違い、竜種に引かせれば重量物を軽々と引ける。

つまり、チャリオットに乗る者も重装鎧を装備出来るという事だった。

しかも3人乗りらしい。

盾役、攻撃役、魔法役、そういった役割分担も出来てしまう。

それが騎馬よりも高速で動くのだ、思った以上に危険な兵器だった。


「俺も魔物素材を戦車の装甲にしようと思っていた。

教国も魔物を使わないなんてことはなかったんだよな」


 俺は、脅威判定が甘かったことに反省した。

戦車を作れという魂からの囁きは間違っていなかったようだ。


 アロサウルスならば、チャリオットに対抗できるかもしれないが、2頭しかいない。

それも狙って手に入るものでもない。


 ラプトルの卵は自由に出せるが、1匹では対抗できないだろう。

数を揃えて襲えばどうにかなるかもしれないが、そうなると眷属枠が足りない。

侯爵軍を襲ったみたいに、無差別攻撃しか行えない。

あれは使いどころを間違えば味方も巻き込むことになる。

そう思うとラプトル攻撃は選択肢から消える。


 つまり、教国がチャリオットの数を揃えていたならば、こちらの対応能力を超えると思われるのだ。


「そのための戦車だからな。

もの造りは、楽しいぞ」


 このような事にうつつを抜かしていられるのも、フラメシア教国非難で各国が協調体勢を布くのに時間がかかるからだ。

正統アーケランド、アトランディア皇国、エール王国、グランディエル農業国、その国家間にはキバシさん通信のホットラインがある。

しかし、それはあくまでも緊急通信手段であり、短文カタコトのキバシさんでは重要な会議は成立しなかった。

それと、正式に調印するとなると、会って話すしかないのだ。

その事前協議は外務大臣級で行われ、後に国家元首が一堂に会して調印する。

そんな会議がエール王国で行われているところだ。

いちいち面倒なことになっていたのだ。


「まあ、そのおかげで戦車なんかを造ろうって出来るんだけどな」


 アーケランドの国内向け執務以外ならば、結構暇が出来た。

真女神教は麗に丸投げしたからな。

つまり俺は週4日戦車にかまけていられるのだ。


 ◇


 戦車に搭載するのは、教国の帆船が積んでいたのと同等の魔導砲(改良品)だ。

チャリオットを引く竜種がいるならば、車載型の魔導砲があっても不思議ではなくなったからだ。

高速で移動する必要がないならば、地竜に引かせるという手もある。

現代戦車のように動きながら魔導砲を発射するということはないだろうが、運んで来て設置し使用するということは可能だろう。

それに対抗するためには、威力を落とした魔導砲を載せるわけにはいかなかった。


 砲が決まれば、それを搭載し、それなりの速度で移動出来る車体と動力が必要になる。

俺が製造し得る戦車のイメージはピックアップトラックの荷台に大砲を乗せたレベルだ。

無限軌道で動き、装甲された砲塔を持つ現代戦車などハードルが高すぎる。


 タイヤで動く車。


「あれ? タイヤってオーバーテクノロジーじゃね?」


 この世界にタイヤは無かった。

そもそもゴムを見たことが無い。

魔物素材でゴムに近いものを探すしかないか。


「おーい、瞳美ちゃん、タイヤに使える素材を知らない?」


 ここは歩く百科事典の瞳美ちゃんに教えてもらおう。

瞳美ちゃんは、この世界で読んだ本を全て暗記しているのだ。

そして、そのギフトスキルによって、アカシックレコードから情報を引っ張って来れる。


「ゴムタイヤ?

それならば、ゴムに近い性質のスライムがいる。

この世界では、子供の玩具にしか使わない」


「つまりそこそこ流通しているのか」


「うん。

カドハチに言えば手に入るはず」


 これでタイヤの目途はついた。

チューブ式でなく、全てゴムスライムでもいけるだろう。


 次は動力――エンジンとそれをタイヤに伝える仕組みだな。

内燃機関のようにピストンを動かして回転運動を取り出す仕組みはわかる。

それを直で伝える蒸気機関車のような使い方はわかる。

だけど、オートマのギアのような複雑な機械は知らない。

いや、クラッチ式のマニュアルギアの仕組みでさえ知らないじゃないか。


 化石燃料の内燃機関ではなく、魔石による魔法行使でピストンを動かそうと思っていた。

それって、ギア含めて結構大変かもしれない。


 ならば電気動力だ。

コイルと磁石によるモーターの仕組みはわかる。

モーターならば、電力量でスピードを変えられてギア要らずだろう。

問題は発電方法と強力な磁石、そして蓄電方法だろう。


「魔石から雷魔法で電気を取り出せば、蓄電池要らずか?」


 魔石そのものが電池扱いになれば、これはいけるぞ。

問題はモーターに使う強力な磁石か。

電気自動車もその磁石開発がキーになっていたような気がする。

しかもモーターのコイルに巻く銅線の絶縁、どうすれば良いんだ?

それと、手作りモーターに雷レベルの電気が流れたら一瞬で終わるぞ。


「瞳美ちゃん、どうすれば?」


 瞳美ちゃんがアカシックレコードから引き出した答えは、俺には理解出来なかった。

正しいんだろうけど、単語レベルで知らない知識だった。


 適度な電気、しかも一定の出力を維持できるもの。


「あ、発電しつつ使うか」


 自然エネルギーによる発電だ。

太陽電池、その製造方法がわからない。

瞳美ちゃんに訊いても、きっと判らない単語ばかりだろう。


 風力発電、風でモーターを回して電気を……。

ん? モーターで発電して、その電気でモーターを動かす?

無駄じゃん。

元の風を使うのが最大効率だろう。


「風、風か!」


 帆船を自在に動かすために、教国は風の魔導具を使っていた。

風は推進力になる。

船は海の上に浮いているからその移動にのみ風の魔導具を使っていた。

だが地上では、何らかの手段で浮く必要がある。

ハリアーもF-35Bもオスプレイも、下方向に推進力を向けることで浮いていた。

いや、ホバークラフトというものもあるじゃないか。


「風の魔導具で浮く車を造れば良いのか!」


 それが一番エネルギー効率が良さそうだ。


「浮くならば、レビテーションの魔法を付与すれば良い」


 俺はその瞳美ちゃんの一言でガックリと項垂れる事になった。

俺の思索は無駄だったのだ。

だが、楽しかった。

それで良いと思うことにした。


 戦車はレビテーションを付与し魔石のエネルギーを消費して浮く車体に、魔導砲を搭載、その車体は竜種の鱗で装甲することにした。

操縦は、風の魔導具による推進力の偏向で行う。

魔導砲は固定式、仰角のみ変更可。

戦車の方向を変えることで照準をつける。

これで試作戦車を造ることにした。


 ちなみに使わなくなったゴムスライムは、馬車の車輪に巻いてみることになった。

なかなか好評だった。

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