第566話 戦後処理

 捕虜の扱いは農業国に丸投げした。

彼らは農業国の法によって裁かれることになる。

一応、悪いことが出来なかった者には、命までは奪わないで欲しいとは言ってある。

だが、俺に出来るのはそこまで。

その先は農業国が決めることだ。


 聖女と宣教師は、この一揆事件の主犯なのだが、教国を糾弾するための生きた証拠なため、生かされることになる。

だが、そのほとんどは天使化失敗の穴に吸い込まれて死んでしまった。

俺たちも、天使化のサンプルとしての聖女と、教団内の情報源としての宣教師を1人ずつ預かっただけだ。

農業国の方にその残り全員を渡すことになったからだ。


 ボドワン率いる農業国新地軍は、手加減など出来ずに一揆軍と戦った。

麗の解呪によって一時は正気に戻った者もいたが、その信仰を利用した洗脳は、きっかけ一つで元に戻ってしまったのだ。

その戦いは、集中的に聖女や宣教師を叩くという手段に出る事になった。

洗脳を戻すきっかけは、それら宗教家たちの言霊により齎されていたからだ。


 その結果、一揆に加担した村人たちの半数が亡くなるか大怪我をした。

聖女と宣教師は、信者の村人たちを自らの盾としたため、被害が拡大したのだ。

つまり、新地軍は一揆鎮圧で手加減出来ず、聖女と宣教師の捕虜を得る事が出来なかった。

そのため、俺たちが捕虜にした者たちを引き渡さざるを得なかったのだ。

聖女の天使化に気を付けるように言いおいたのは当然だろう。


「グランディエル農業国本国にて、教国の破壊工作について糾弾することとなるでしょう」


 ボドワンも、この被害状況に頭を抱えていた。

そして、同様の事がいつどこで起きるかわからない恐怖を覚えているようだ。


「我が国も教国を非難するつもりだ。

そしてアトランディア皇国にもテロ対策で協調するように手配しよう。

エール王国には、貴国から協力要請をお願いする」


 ここは周辺国全てが協調して圧力をかける必要がある。


「しかと承りました」


 農業国はエール王国との繋がりが深い。

それこそ召喚勇者を友好大使として派遣するぐらいに。

不幸な結果になってしまったが、それにより両国は益々関係が深まっている。


 この大陸の教国を除いた全ての大国が協調して教国のテロを非難し、対策をとるようになるだろう。

海に接する国は魔導砲の脅威もある。

農業国南部に点在する港湾国家も気になる。

そこは農業国が統治していない小国、いや都市国家なのだ。

大型帆船を得た教国が、大陸西側に侵略の手を伸ばすための補給地にする可能性があった。


「終わったわよ」


 聖女麗様の仕事が終わった。

負傷者を治して来たのだ。

それも派手に大がかりに、その力を使ってもらった。

これにより、教国の聖女は偽聖女で、真の聖女は麗様だとアピール出来たことだろう。

テロ行為、そして女神教の悪用、その二枚看板で教国を叩く。

教国の手先にされないうちに、女神教信者には、聖女麗様の真女神教を信じてもらわなけれなならないのだ。


「じゃあ、帰るか」


「待って!」


 俺を止めたのは結衣だった。


「何のために付いて来たと思ってるのよ?」

「私の買い物も……」


 そうだった。結衣と瞳美ちゃんは農業国で爆買いするために、こんな危険地帯まで来たのだった。


「ボドワン、食糧などを買いたいのだが、仕入れられる街に案内してもらえるか?」


 俺の要請に、ボドワンは困り顔になった。


「新地は、そこまで発展していませんからな……。

隣の領地ならば、珍しい物産もあるでしょう。

今回のお礼に国から何か贈らせていただきましょう」


 ボドワンが統治する新地は、まだ発展途上なのだ。

加えて一揆のせいで経済をガタガタにされたのだ。

そのため国からという話になったのだろう。


「だめよ! 買い物は見て回るのが正義。

貰ったのでは楽しみ半減なのよ!」


 結衣が無茶を言う。

まさか、このまま隣の領地まで買いに行くつもりか?


「それは申し訳ありません。

お礼とは別に隣の領地で便宜をはかるように紹介状をご用意いたします。

農業国の名に懸けて、楽しい買い物をお約束します。

それから、亡き勇者様から預り金の話を受け賜わっております。

そのお金が使える手筈ですので、そちらをご利用ください」


 ノブちんに預けたお金のことか。あれ、結構な額だったんだよな。

あの時のお米の取引相手が正統アーケランドの王――俺だって、農業国は解かっていたのか。

だから、領地割譲程度でアーケランドを許してくれたのかもしれないな。

それに、今回の支援要請。

俺の事は信用してくれていると理解して良いのかもな。


「助かる」


 人が亡くなっているのに非常識かと思うが、買い物も我が領地にとっては命に関わる一大事なのだ。

獣人を受け入れたことで、とにかく領民が増えた。

畑を与えて、それで食っていけと言っても、作物が実るのは数か月先だ。

その生活は自活できるまで領主が保証しなけれなならない。

その食糧はどこかからか輸入しなければならないのだ。


 俺たちはボドワンから紹介状を受け取り、預り金口座を証明するギルドカードをもらって新地の南に位置する領地に向かった。


 結衣と瞳美ちゃん、そして麗にベルばらコンビが、そこで何をやらかしたのかは他の機会で。


 食糧調味料は充分以上に手に入りました。

ご迷惑をおかけしました。

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