第565話 尋問
教国が天使化という魔族化に匹敵する禁断の技を使っていることが発覚した。
それをどうのように実現しているのか、術式なのか、薬理的なのか、それとも魔族化のように聖なる生物の一部を取り込んでいるのか、現状何も判らなかった。
聖女は、回復魔法が使えるようになる儀式と言われて、それを施術されていた。
だが、その儀式の最中は意識を失っており、詳細は聖女本人も知らなかった。
「人工的に聖女を作っているのか」
だが、その秘密をなぜ下っ端の聖女や宣教師が知っていたのか?
情報漏洩の危険があり、実際にここで漏洩しているのだ。
「それは、上位の聖女が使っている所を見たからだ。
その聖女は天使化をものにしていた。
そして、目撃した俺たちに、緘口令を布いた」
だが、人の口に戸は立てられぬ。
都合の良い部分、天使化すればチートな力が手に入る、その噂だけが広がってしまった。
「そうなると、使ってしまうのが人の性よ。
しくじって世界に穴を開ける者が出てしまった」
世界に穴が開くことは、勇者召喚でも問題視されていたものだ。
だから勇者召喚は許せない、そこから勇者は殺せになったのだ。
教国と勇者排斥論者は決別したことになっているが、聖女を統括する教団が、その危険を犯すとは、本末転倒だろう。
「教団も危機感を持ち、聖女に天使化を使わせない魔力的な枷をはめた。
だが、負傷するなどのきっかけで枷が外れ、あのような事が起きてしまうのだ」
宣教師が、ここまで話してくれたのは、世界に穴が開くことを防ぐという大義を掲げながら、力を手に入れるためにその禁を破る矛盾に疑問を持ったからだった。
それも麗による解呪のおかげらしい。
解呪されるまでは、それを疑問にも思っていなかったらしい。
聖女の枷も麗が解呪したのかもしれないが……。
「我らも操られていたということだ」
その台詞は自虐的だった。
自分たちも、村人たちを扇動して操っていたのだ。
解呪されたいま、その罪を自覚して、機密事項も喋ったということのようだ。
これを機会に、いろいろ尋問してしまおう。
「教国が帆船を持っているのは知っているか?」
「大型の船のことか?
あれは神託により、技術を手に入れたと聞いている」
「神託で基礎も知らない技術を手に入れた?」
まさか、神様がそんな俗物的なことで信者を支援するのか?
「それも上から伝わって来た話だ。
俺たちに真偽の判断が出来るわけがない」
本当に神託だったのか、神託と称して誰か――それこそ召喚勇者――から技術を手に入れたか。
急激な技術革新には、裏があるのだろう。
勇者排斥などと言いながら、裏で召喚勇者を利用していたとするならば、神託と称して隠すしかないのは理解出来るな。
魔導砲は、魔法杖の拡大版なので、材料さえ手に入るのならば、この世界の者でも実現は可能だろう。
突破すべき技術的な壁というものはあっただろうが、それも長年研究すれば実現出来ないものではない。
まあ、誰かこの世界の外の知識を持つ者が手を貸せば、その研究も捗ったのだろうけどな。
「銃とか、戦車という名称は聞いたことは無いか?」
「銃は知らない。戦車はチャリオットと呼ばれるものならば知っている」
銃は知らないか。
火薬式の銃のメリットは、この世界では無いのかもしれない。
スキルで弓を扱った方が強力で、魔石利用が発達したこの世界では、火薬式よりも魔石式の銃の方が現実的だろう。
その魔石式銃ですら、まだ実現していないようだ。
しかし、チャリオットが存在するとは……。
チャリオットは馬が牽引する戦車だ。
戦車というが、装甲を施し大砲を積んだ車のことではない。
一人あるいは二人乗りのオープン馬車のことだ。
車輪に刃が付いていたり、長槍を固定して集団に突っ込んで行って蹂躙する兵器だ。
魔導砲を積んだ戦車などが出て来たら最悪だったが、チャリオットでもこの世界では充分に危険な兵器だろう。
動く凶器。その機動力による奇襲も脅威だろう。
あまりこの世界に現代兵器は持ち込みたくないが、防御のための対策は講じざるを得ない。
「聖女の天使化とチャリオット対策か」
天使化は上位聖女が出て来なければ脅威ではないだろう。
下位の聖女も枷を外させなければ問題ない。
怪我がきっかけとなるのならば、ある程度怪我を治してしまえば良い。
天使化を始めたら、どうせ失敗するので、その周囲から遠ざかれば良い。
チャリオットは、その機動力と突破力を阻止すれば良い。
陣地を構築して穴にはめる、城壁で阻止する、それか遠距離から攻撃すれば良い。
そして、槍狭間や馬防柵とかも有効だろう。
それこそ、タンクの方の戦車があれば、蹂躙できる。
主砲として搭載する魔導砲はある。
魔石動力で動力車も作れそうだ。
装甲もこの世界ならではの軽量で強固な魔物素材が使える。
「あれ? 戦車作れるかも」
俺の錬金術師ジョブが、作れと魂に囁いていた。
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