第564話 偽聖女の奥の手

 農業国新地軍右翼を突破した邪教徒テロリストの制圧が完了した。

彼ら元農民には同士討ちによる犠牲者が出たが、その犠牲は致し方ない。

仲間を襲うような奴が返り討ちにあっても、俺たちに助ける義務はないのだ。

二度と暴れないように捕縛するしかない。


「痛い、痛い、痛い、どうして回復が使えないの?」


 五月蠅くしているのは、偽聖女の1人だった。

制圧時に傷を負って、それが痛むのだろう。

一応、偽聖女は魔法が使えるので、対魔拘束具を使っている。

ただの縄での拘束ではないのだ。

それにより、自らの傷が癒せなくて声を上げているのだ。


「我慢できない。

第一拘束術式解除!

治れ!」


「おい、その力は!」


 宣教師が止めに入ったが、遅かった。

偽聖女の身体が白く輝く。

だが、対魔拘束具により、力に歪みが発生している。


「まさか、それは!」


 俺たちにがそれの見覚えがあった。

あの魔族化を失敗した召喚勇者の末路、それと同じように見えたのだ。


 偽聖女の背中からぶわっと白い羽が生えた。

だが、その羽は羽ばたけるようなまともな姿にならず、何枚も何枚も暴走したかのように生えては溶けた。


 それは魔族化ではなく、天使化の失敗だった。

そのような力が教国にあるとは、想定外だった。

この失敗は、偽聖女の能力不足なのか、対魔拘束具のおかげなのか?


「キョケケケーーーーー!!」


 偽聖女は言葉にならない異様な叫びを上げて動かなくなった。

死んだのだろう。

このような力を使おうとしなければ、死ぬような傷ではなかった。

それを治したいという欲求で、禁断の技に手を出したのか?

第一拘束術式とは何だ?

残った偽聖女と宣教師も、同じ事が出来るのか?

そして成功すると、あの魔族勇者のように強化されてしまうのか?


「詳しいことを聞かせてもらおうか」


 俺は彼ら教国の狂信者どもを脅威とみなし、尋問には洗脳も辞さない覚悟だった。


「早くここから離れさせてくれ!」

「頼む、何でも話す!」


 だが、宣教師共が慌てて逃がしてくれと言い出した。

死んだ偽聖女から距離を取りたがっているようだ。

彼ら偽聖女と宣教師は、一か所に集められていたのだ。


「来る! 巻き添えは嫌だ!」

「なんで、あの子は余計な事をしたのよ!」


 どうやら、死んだ偽聖女を中心に何か良くないことが起ころうとしているようだ。

それは偽聖女や宣教師の間では知られた災厄なのだろう。

その慌てぶりは、死に至る災厄なのだろう。


「キラト、ゴブリン軍団を退かせろ!

聖女と宣教師を何人か連れて行け!」


 どこまでが安全圏か判らなかった。

だが貴重な証人を失うわけにはいかなかった。

俺たちが退いたその時、変な物体となって死んだ偽聖女周辺の空間がグニャりと歪んだ。


 俺は咄嗟に疑似転移を使って、その場を離れた。

その短距離転移で離れた場所から見ると、死んだ偽聖女を中心に空間が歪み、大地が消滅していた。

その直径は10mほどだろうか?

その周囲に居て逃げ遅れた者たちの姿も一緒に消えてしまっていた。

それは転移ではなかった。

歪んだ空間に、粘土を捻るようにグチャグチャに潰され、吸い込まれた感じだった。


「あのバカ女、何を考えてやがる!」

「世界に穴が開いてしまうというのに!」

「あの程度の実力では、禁断の力は使えぬだろうが!」


 助けた連中が、死んだ偽聖女を怒りに任せて罵倒する。

その中には、けして漏らしてはいけない秘密が暴露されていた。

その秘密こそが、偽聖女たちが曲がりなりにも聖なる力を使える秘密なのかもしれなかった。


「おまえら、正直に話してもらうぞ?」


 まず、既にベラベラ秘密を口にしていた、宣教師をターゲットにする。


「話さなければ……命の補償は無い」


 俺はT-REXを召喚して、彼らの頭に肉食恐竜のよだれをお見舞いしてやった。


「あれは天使化だ! 聖女以上の信徒の最後の手段だ!」


「失敗したな?」


「そうだ、あんな下位の聖女にはまだ無理だ!」


 死にたくないのか、そこまで信仰心が高くないのか、宣教師はベラベラと機密事項を喋ってくれた。

どうやら、教国には魔族化と同等の天使化というものがあるようだ。


 だが、教国は過去の戦いでアーケランド王国に負けている。

そんな力があるならば、アーケランド勇者に対抗出来たのではないだろうか?

となると、最近手に入れた力?

いつ、誰から?

帆船や魔導砲も明らかにオーバーテクノロジーだ。

どうやら、俺たちの知らない存在が、教国を支持しているようだ。

それもかなり危険だと思われるぞ。

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