第563話 人の死に関わる
お知らせ
第562話の最後、翼が信者を止めた真意が加筆されています。
あのままだと翼の印象が違って捕えられそうでしたので、この回のネタだったのですが、先に出すことにしました。
何か足りない、話が飛んでいる様な印象がありましたら、その部分かと思いますので、そちらもお読みくださると幸いです。
(告知忘れてましたすみません)
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翼がトラブった。
相手は正気に戻った
翼がわざわざ生かして捕えようとしていた偽聖女を、彼らが横から殺そうとしたらしい。
「オラたちの人生は、こいつらに滅茶苦茶にされただ」
「そうよ! 騙されてなかったら、罪なんて犯してない!」
「オラたちはいま女神様の祝福を受けただぞ!」
「そうだ! 俺たちは女神様に認められ許されただ!」
翼が怒るのも無理は無かった。
騙され、操られている間の罪は無い、そんなことは全く無い。
被害者がいる。
救援物資を持って来た役人と御者、一揆に反対し袋叩きにあった村長、終身奴隷として売られた娘、略奪を受けた隣村、一揆を鎮圧しに来た新地軍の兵、その被害が命を奪われるなど取り返しが付かないものかもしれない。
それが改心したからと無罪放免になるわけがないのだ。
「僕は人死にに関わりたくない。
だから不殺だったけど、それだけではいかなくなった。
絶対に罪を償わなければならない連中がいる。
その生死に関わるのは帰れなくなるのではないかと怖い。
だけど、放っておくのはもっと嫌だ」
この世界への関わりが深いほど、元の世界に帰れないという不安を翼は持っていた。
その最も忌避する関わりが人の生き死にだった。
自分で人死にに手を染める、それは絶対にやってはならない。
妻を持ち子供を作る、その強い絆が帰還の妨げになる。
物理的というよりも、精神的に。
そう考えていた翼にとって、このやるせない憤りは、その主義に反することになったとしても、許容出来ないものだったようだ。
無責任な狂信者が、別の狂信に移る、そして古い信仰での罪は、その信仰と共に捨てる。
翼にはそう見えていたのだ。
「翼はそうあって良いんじゃないか?」
俺だって躊躇したのだ。
翼もそれで納得してくれるだろう。
「甘い処分は、次の混乱を呼ぶだけであるぞ」
サダヒサが俺に忠告する。
この状況を見るに
それは誤算であり、明らかにまずかった。
ここは、ゴブリンに傷付けられたままにしておくのが正解だった。
「そうだな。
麗、真の聖女アピールはもう充分だ。
だが、勘違いした連中は、
聖女様に回復された者とそうでない者で、信者としての優劣を付けて蔑んだり、新たな敵として攻撃を始めたのだ。
そういった連中ほど、既に誰かを傷付けた後の「お前が言うな」層だった。
「何をやっているのだ!
逆らう者は多少手荒に制圧して良い」
ここは恨まれても切るべき所だった。
自分たちが悪かったと改心すれば、大人しくなると思っていた。
だが、そんな連中だからこそ、自らの罪からの逃避先に新たな犠牲者への弾圧を選ぶのだ。
「自分たちはいま正義を行っている」というつもりだろうが、その建て前以前に間違いを犯してしまっている。
それからの逃避が他者への攻撃となっていた。
それを棚に上げて「正しいことをしてるのに」ではないのだ。
「こいつらは、まだ言いなりですだ」
「オラたちの正義を見せるため、なぜ戦ってはならないだ?」
「罪滅ぼしをさせてくだせぇ」
「オラたちも騙されて悔しいだ!」
「悪を討つのが、どうしていけないだ!」
「罪人を裁くのは農業国の法だ。ルールだ。
ルールに則って処分する。
それまで生かすだけだ。
理由があったならば免罪される、それを決めるのは被害者側の法だけだ」
宗教でやっかいなのが、教義>法律という考えがあることだ。
だが、ここでは農業国の法により裁く。
主義主張や建て前はあるのだろうが、それはルールを破った者の負け犬の遠吠えだった。
自己中な連中は、自らの罪を反省するよりも先に、自己弁護に入るということなのだろう。
俺が
中には殺人を犯した者もいるだろう。
一方で、集団に紛れていただけで、何もしていない、出来なかった善人もいたかもしれない。
それでも洗脳がかかったうえ扇動を受けて一揆に加担してしまったのだ。
それを一緒くたに殲滅するという事に、俺は引っ掛かったのだと思う。
「どのような罪を犯したかは、自白の魔導具で判明する。
それまで何をしてしまったか、女神様に懺悔するが良い」
この世界、国への反逆は死罪相当だろう。
出来る事ならば、突っ立っていただけの者は犯罪奴隷の労働刑にして欲しいところだ。
「この魔王が! 女神さまに滅されるが良い!」
偽聖女に宣教師が罵声を浴びせて来る。
ゴブリンを使役したことで、俺を魔王だと断定しているのだろう。
所業だけを見れば、どっちが悪なんだろうか?
ああ、こいつら教国の偽聖職者の処分は別だ。
信仰の名のもとに、これだけの人たちの人生を狂わせたのだ。
いま生かしているのは、教国の罪の生き証人だからなだけだ。
利用価値がなければ、俺はこいつらを殺すことには何の躊躇もないだろう。
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