第561話 邪教徒殲滅

 せっかく麗が解呪したのに、農民たちは邪教の信仰を捨てられなかった。


「女神様のばちが当たるぞ」

「これは罪ではない、救いのための善行だ」

「救われるためには女神様の御意志に従うのだ」

「これは女神教のための聖戦である」


 彼らの中に潜伏していた自称神の使いたちが、そう扇動するのだ。

宗教とは辛い現実から逃れ救われるためのきっかけを与えると評する者がいる。

むしろ、布教という名の集金活動のために、辛い現実に付け込むのが邪教だ。

〇〇から救われるために、浄財をしましょう。

そうやって財産を吸い取る。

信仰を悪意で捻じ曲げ誘導する、それが邪教なのだ。


 自称神の使いである偽聖女と宣教師の声は、【呪いカーズ】の呪文と共に現実逃避を招いた。

しかもたちが悪いのは、女神教のために戦えば、死んだ後に救われるという教えだろう。

死を恐れない兵、笑って死地に向かう兵など、対する者たちの方の精神を削りまくる。


「戻ってしまうな」


「そうね。

女神様を信じる気持ちが正しいだけに、誘導し易いのでしょうね」


 麗も諦め顔だった。

この元村人たち邪教徒テロリストは、不作になったのは偽聖女の声に耳を傾けなかったからだと認識し、後悔した者たちばかりだ。

偽聖女の警告を真摯に受け止めていれば、不作はなかった。

だから偽聖女の言う事は絶対だ!

そう思考誘導されて全財産を差し出し、娘まで売って金を作ったのだ。


「【呪いカーズ】よりも、言葉による思考誘導の方がやばい」


 そうすることが娘の幸せだと思い込まされている。

娘が不幸になっているにも関わらず、それに気付けないのだ。

それを信仰のためと信じ切った者たちは、解呪された後もきっかけさえあれば元に戻ってしまうのだ。


「そのために要所要所に偽聖女と宣教師が混ざっているのよ」


 これは、大元を断つしかないな。

邪教の教えから遠ざける、それがカルトから救う第一歩か。

麗が救った村々は、信仰先を聖女麗様に切り替えさせたから上手く行ったのだ。


「ボドワン、生け捕りを諦めて、偽聖女や宣教師の口を塞ぐ方が先のようだ」


「そのようですな。

全軍に通達、偽聖女と宣教師を倒せ!」


 どうやら、俺の要請が農業国の兵の動きを縛ってしまっていたようだ。

邪教徒テロリストが、偽聖女や宣教師といった邪教の使徒を守るのは当然だろう。

それこそ信仰先の御使い様扱いなのだ。

神に準じる扱いの者ならば、信者は命がけで守ることになる。


「麗、女神の癒しで神の奇跡は起こせるか?

こちら側が神の使徒だと示せれば違うと思うのだが」


 こちら側にだけ神の奇跡が起きれば、女神様を信じている者たちは邪教への侵攻が揺らぐかもしれない。

実際、村単位では、そうやって一揆を終息させることが出来た。


「混戦状態ですからね。

1人1人を選択して回復魔法ヒールをかけることは出来ますけど、邪教徒テロリストに敵側にだけ奇跡が起こっていると認識させるのは微妙ですわね」


「そうだよな」


 目に見えて神の奇跡だと思えるような現象は起こしにくい。


「右翼、突破されます!」


 新地軍の右翼が突破された。

その後方にはもう兵はいない。

そのまま邪教徒テロリストが進めば、そこはアーケランドの領土となる。

新地は割譲されたばかりで、国境に塀など存在していない。

農業国国民という立場の暴徒が他国の国境を侵し攻撃しかねないという緊急事態だった。


「申し訳ありません。

グランディエル農業国として正統アーケランド王国に武力支援を要請します」


 このボドワンからの正式な要請により、俺たちはこの戦闘に介入することになった。

まあ、広域解呪エリアアンチカーズとか、回復魔法ヒールとかで既に援護はしていたんだけどね。


「【眷属召喚】雷竜ブラキオサウルス、国境を守れ。

【眷属召喚】アロサウルス2体、邪教徒テロリストを威嚇だ!」


 俺は3体の恐竜を召喚した。

巨体により国境線を守るブラキオサウルスと、その恐怖の姿で威嚇するアロサウルスだ。

アロサウルスには、ブラキオサウルスの巨体を迂回しようとする邪教徒テロリスト共を牽制してもらう。


「竜種!」


 ボドワンが俺の召喚した眷属を目にして驚きの声を上げる。

ブラキオサウルスの巨体は、この丘からもよく見えた。


「俺たちは別働体として、右翼の邪教徒テロリストに向かう」


 神の使い扱いの竜種までは良いが、あまり魔物を使役しているところは農業国には見せたくない。

特に人から忌避される魔物たちはイメージが悪い。

魔王軍扱いされると、教国の方が正義とされかねない。


 キラトのゴブリン軍団は、このような集団戦にむいている。

だが、他国の前で披露するには見た目が悪すぎる。


 人は見た目で判断する生き物だ。

聖職者(自称)が率いる軍団と魔物の軍団が戦っていたら、どちらが正義に見え、援護しようとするか?

そういうことだ。


「見た目が凶悪でなくて、集団戦が得意な眷属……。

人化できる者以外は、モフモフ系の魔物かな?」


 今度、ラブリーな見た目のモフモフ軍団を眷属にしよう。

そういや、コンコンって獣化するとカワイイよな。

人前ではああいった獣系を使った方が良いのかもしれないな。


 今回は距離を置いてゴブリン軍団を出さざるを得ない。

カドハチの装備品を付けていれば、遠目では小柄な人族に見えるだろう。

護衛にキラトを選んだのは、この集団戦を見込んでいたからだ。


「行くぞ!」


 俺たちはひっぽくんの竜車で、突破された右翼へと向かった。


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ご注意

 この作品はフィクションであり、登場する宗教団体は実在するものではありません。

物語上の悪役として誇張した悪い宗教を描写しているだけであり、特定の団体を揶揄するものではありません。

ほとんどの宗教は、その信者の方々に救いを与えるものと考え、その信仰や善意の献金を否定するものではありません。

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