第560話 邪教徒討伐

お知らせ

 第555話にて、広域解呪エリアカーズとなっていましたが、それでは呪いを撒き散らす呪文でした。

これは広域解呪エリアアンチカーズの誤りでした。

今回、麗が使う時に間違いに気付きました。

訂正させていただきました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 農業国の元首とは、ボドワンにキバシさん通信で事情を話してもらうことになった。

キバシさんが眷属間の念話を人語として口に出してくれるのだ。

ただし、その文の長さはカナで15文字。

その長さで区切って話す必要があった。


「この鳥の魔物キバシさんに向かって話せば、農業国の元首に伝わる」


 俺は手持ちのキバシさんを召喚して、農業国に貸与したキバシさんを通信相手に繋げてから、ボドワンに貸し出した。


「お借りします」


 キバシさん通信は、受信と発信を交互に行うという制限を加えることで、双方向通信が実現した。

トランシーバーの仕組みと同じで、受信中は発信できず、発信中は受信できないが……。

こうしてキバシさん同士に話すことで、遠隔地でもお互いに会話できるようになったのだ。


 キバシさんの数は眷属上限数があった頃の配備のために少なく、アーケランド王城、皇国、隣国エール王国、農業国と、俺の所持する個体の5羽しか存在しない。

これらの個体が国家間の所謂ホットラインとして機能しているのだ。


 今回は俺が所持している個体を召喚してボドワンに使わせている。

さすがに一揆勢を邪教徒テロリスト認定して農業国とアーケランド両軍で殲滅するなど、ボドワンの一存で出来ることではないからだ。


 残念なことに、キバシさん通信は、誰が話しているのかの個性を殺してしまう。

受けている方は国の責任で特定できても、相手が誰なのかを声だけで判断することが出来ない。

ただ、キバシさん通信は、相手が何処かの国の国家元首であるという決まりのため、相手国を信じれば、それは国家元首同士の会話ということになる。


 今回の俺専用キバシさんは、相手に俺のキバシさんであることは通じる。

キバシさんの個体により、聞こえる声が違うのだ。

この声の差が相手国の判断材料となっている。


 だが、今回は、俺ではなくボドワンが話す。

その話しているのがボドワン本人であると証明するのは容易いことではない。

疑うならば、俺がボドワンを装って、嘘の提案をしているかに思えてしまうのだ。


 ボドワンは、俺からキバシさんを借りると、俺に聞こえないように何やらワードを口にした。

後で聞いたのだが、それは軍隊における認識番号のようなものだった。

俺たちには知り得ないその番号を伝えることで、話しているのがボドワン本人だと伝わったのだ。


 ◇


「お待たせいたしました。

邪教徒テロリスト認定の話、内諾を得ました。

国家元首による臨時裁量権の発動を議会にかけ、正式認定される予定です。

今回は私の責任で一揆勢を邪教徒テロリストと認定します。

これにより共闘する他国に責任追及することはありません」


 キバシさん通信は制限により面倒だっただろうに、ボドワンはしっかりと話を通してくれた。

そして、物欲しそうな顔で泣く泣くキバシさんを手放した。

この世界、ここまで便利な通信手段は存在していない。

俺たちスマホのある世界から来た者からすれば不便なのだが、この世界の人たちには違って見えているのだ。


「全軍迎撃態勢をとれ。

邪教徒テロリストを新地へは入れさせるな!」


 ボドワンも張り切って軍を展開させた。

相手は農民たちと言っても暴徒だ。

隣村からの略奪、殺人など、既に数々の犯罪に手を染めてしまっている。


 俺たちは、あくまでも他国内のこと、自衛のみという消極的ながら、戦いを援護する。

農業国が呼んだ聖女使節団が襲われたというていだ。

そして、農業国がピンチとなれば、農業国側からの要請を受ける形で参戦する。

出来れば救ってあげたいところだが、そうは言っていられない事態へと既に移行してしまっていた。


 ◇


 戦場を見下ろす丘に、ボドワンの新地軍と、俺たち聖女使節団が陣取った。

その前の平地には、邪教徒テロリスト認定された一揆勢の軍が集結しつつあった。


 これだけの人数を、いったいどのようにして食べさせているのか?

答えは簡単だった。

偽聖女の警告に耳を貸し、金を払ったおかげで豊作だった村々を襲撃していたのだ。

いや偽聖女のおかげで豊作というのは違うか。

偽聖女の裏工作を受けなかったために豊作と言った方が良いだろう。

金を払わされ、作物も奪われる。

それを最初から計画していたのだとすると、どれだけ極悪なのだろうか。

宗教の皮を被った悪魔の所業だろう。


「麗、広域解呪エリアアンチカーズが使えるか?」


 俺は気付いてしまった。

あそこまで固まっていれば、広域解呪エリアアンチカーズの範囲内なのではないかと。

おそらく、食事のための配給でもあるのだろう。

邪教徒テロリストどもは、ある一点に集中するような動きを見せていた。


「ダメ元でやってみる?」


「だな」


 範囲外にも人がいたとしても、正気に戻った連中と揉める事になるだろう。

それはそれで良いはずだ。


「ボドワン、聖女麗様が広域解呪エリアアンチカーズをかけてみる。

全体に効果が及ぶかは不確定だが、その混乱の隙に制圧してくれ。

出来るならば、扇動した偽聖女や宣教師を罰して、農民たちは生かしてやって欲しい」


 甘い考えだが、洗脳されているせいならば、罪を減じてあげて欲しい。

被害者が納得いかないのであれば仕方ないが、殺さずに労働させるという罪の償い方もあるはずだ。


「抵抗しなければ、命は助けましょう」


 ボドワンもそこまでしか言えなかった。

邪教徒テロリストが改心したとしても、自分たちの兵の命の方が大切なのは言うまでもないのだ。


「全軍、突撃準備!

無抵抗の者は捕縛、抵抗するならば容赦するな!」


「【広域解呪エリアアンチカーズ】」


 麗が広域解呪エリアアンチカーズを使った。

麗を中心に魔法が広がるのではなく、邪教徒テロリスト軍団の中心から魔法の光が広がった。


 そして、邪教徒テロリストたちの軽い洗脳が解かれ、自分たちが何をしていたのか、何をしようとしていたのかに気付き、呆然となる。


「今だ! 突撃!」


 ボドワンが軍を進める。

兵たちが丘の上から駆け降りて邪教徒テロリスト共に向かう。


「【呪いカーズ】【呪いカーズ】【呪いカーズ】!!!」

「ええい、貴様ら、どれだけ悪さをしたと思っている?

戦わなければ死刑だぞ!」

「従わなければ女神様のばちが当たるぞ!」


 邪教徒テロリストの中から【呪いカーズ】の呪文と信者を焚きつける声が聞こえて来た。

どうやら、一揆勢に混じって偽聖女や宣教師が潜伏していて、テロを扇動していたようだ。


「ボドワン、あいつらは生きたまま捕えてくれ!」


 教国関与の生き証人が手に入りそうだ。

手足の1本ぐらい無くなっても本物の聖女が治して見せよう。

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