第557話 農業国救援
お知らせ
すみません。体調不良で書けませんでした。
洗車したら腰痛になって、今日は謎の鼻炎。
なんとか1話更新。
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農業国の混乱は、よりにもよって委員長が侵略した地域に集中していた。
どうやら、そこらへんの土地が一揆により国の支配下から逃れようとしているらしい。
裏では教国の暗躍が見え隠れしており、農業国と教国は紛争一歩手前の状況まで来ていた。
俺がアーケランドの王となってから、農業国とは戦時賠償などをして関係改善を努めて来た。
今回の騒動が、戦争によって混乱した地域で起きたとなると、委員長の責任、ひいてはアーケランドの責任とも言えた。
政情不安に付け込む、救いの手を差し伸べると見せかけて支持を集める。
カルト宗教がやって来た模範的な手口だろう。
大多数の宗教であれば、無償の救いの手を差し伸べるものなのに、悪さをしようとする者たちには、懐に食い込むための恰好の手口となっているのだ。
「救援要請?」
「はい、農業国より正式に要請がありました。
聖女様を派遣して欲しいと」
麗の活躍は、既に隣接する周辺国にも伝わっていた。
いや、伝わるように俺が工作した。
この世界、情報伝達が著しく発展していない。
人手による手紙の配達から始まり、馬による輸送、魔物の鳥による空輸、そして小型の飛行魔物による空輸と発展していたが、まだその伝達速度と使用頻度には問題があった。
特に後者になるにつれて費用が高騰し、従事者も少なくなるという負の連鎖があった。
俺の場合、キバシさん通信、疑似転移、陽菜の転移、翼竜による空輸と、この世界標準で言えば、有り得ない速度による情報伝達が可能だった。
それらを駆使した周辺国への聖女伝説の流布。
これも教国を偽女神教として活動し辛くするための作戦だったのだが、この事態は少々やりすぎたようだ。
「グランディエル農業国としての正式依頼か……」
断るわけにはいかなかった。
委員長のやらかしもあるが、農業国は種籾を渡してくれるなど、暗黙の了解で俺たちの稲作を認めてくれた。
お米他、味噌醤油の重要な輸入先でもある恩のある国だ。
「これも聖女麗の良い宣伝機会か」
麗が本物だと内外に示す良い機会かもしれない。
そのためにも、俺が抱えている案件を処理していかなければならない。
移民住宅建築と農地開墾、これは土ゴーレムに任せる。
城の内装工事、これはハニワゴーレムに任せる。
アーケランドの執務、これは宰相に……俺が頑張る。
北の海岸の港湾都市化、これはゴラムに任せる。
そして、麗の聖女アピールと教国の排除、これは移動距離的に俺がしなければならない。
つまり、俺が麗を農業国に連れて行かなければならない。
麗の高所恐怖症は鞍でしっかり固定される飛竜での移動も無理だったからな。
「護衛はベルばらコンビに……。
そうだ、翼から相談があると言われてたんだ。
あいつも護衛に連れて行くか」
翼だけ、この世界に馴染めていない気がするんだよな。
翼は人一倍帰還願望が強い。
そして、親友の翔太がアレックスに誘拐されたことを気にしている。
そこらへんが相談内容だろうか。
解決するのに長期の時間がかかる、いや解決しない可能性の高い案件。
思い悩んでいても、どうにもならないんだよな。
◇
アーケランド王国として、そして俺たち温泉拠点の仲間として、農業国への麗の派遣は必要だとの判断となった。
派遣メンバーは、長距離転移の疑似転移が使える俺。
そして疑似転移の核となる眷属、吸血草クイーンのみどりさん。
農業国として、いちばん必須な人物である聖女麗。
その護衛ベルばらコンビ。
そして、農業国にはもっと便利な調味料があるはずと強引に参加した結衣。
見分を広めたいという瞳美ちゃん。
それでは護衛が足りないと着いて来ることになった食客サダヒサ。
疑似転移の弊害で同行出来ないため、後で呼ぶことになるキラーゴブリンのキラト。
悩みを訊く方便でとりあえず同行させる翼という面々となった。
翼は暇を見つけて連れて来た。
直ぐにでも同行できる。
「何だよ翼、飯で泣くなよ」
結衣が作った日本の食事、それを翼は美味しそうに食べていた。
これが翼の涙腺を緩くしていた。
重度のホームシックか?
ちょっと領地経営なんて状態では無さそうだぞ。
これは農業国まで連れ回して、考える時間を無くしてあげた方が良いかもしれない。
とりあえず、翼が話す気になるまで待とう。
相談があると言っているのだから、そんなに時間はかからないだろう。
だけど帰還の話ならば、解決しないから終わらない話になるんだよなぁ。
まあ、気分転換でもしてもらうしかないかな。
みどりさんの触手に捕まって疑似転移した。
今回は、総勢10人なので、移動用に竜車を用意した。
引手の地竜ひっぽくんと護衛のキラトをここで眷属召喚する。
竜車が必要になったのは、農業国の国内を移動するためだ。
麗がいるため空での移動が出来ないのだ。
疑似転移も、行ったことがない場所には転移出来ないからな。
今回俺たちが到着したのは、委員長が侵略したために、賠償として農業国に渡した元アーケランドの領地だ。
その引き渡し式典で、俺もこの場所には来たことがあったのだ。
この先こそ、戦争で荒廃し、教国が布教として付け込んだ土地だった。
今でも自称聖女と宣教師がうろついているらしい。
そこは一揆により農業国としても非支配地域と化していた。
それを本物の聖女である麗の威光で取り戻すのが、今回のお仕事だ。
「まさか、アーケランド王自らお越しとは、恐縮であります」
農業国にはキバシさんを派遣してあったため、今日俺たちが到着するのは報告済みだった。
そのため聖女麗の迎えが仰々しく来ていた。
農業国として国賓扱いのため、一軍を以って護衛するつもりのようだ。
そこに僅かな護衛連れでアーケランド王――俺ね――までやって来たのだ。
農業国側が焦るのも無理はない。
実は正室に側室連れ、いや聖女様が側室だとは、彼らも気付いていないだろう。
そして、その護衛戦力が勇者3人に準勇者1人、魔王側近級2人だとは知りもしないだろう。
言わないけどな。
こうして聖女麗の農業国漫遊の旅が始まるのだった。
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